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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
224/353

絶対防御にこまねいて sideB


 先日いつきに将棋を教えてもらった。

 教えてもらったのは動かし方ではなく、考え方。


 将棋には2通りの攻め方がある。

 王をとるか、王以外をとるか


 将棋というのは王をとるゲーム、それは間違いない。

 ただし王様だけを狙うのは間違いらしい。


 こっちの王を攻める飛車角や、王を守る金銀が行く手を阻む。


 そいつらを切り売りしながら敵の王を狙うのだが、逆に切り売りできるものが無ければ王をとることが出来ない。


 王を取れなければ勝ち目がないので、あとはゆっくりと攻める。


 いつきは後者の戦い方を得意としていた。


 それが王者の将棋なんだろう。


 相手の手を一個一個打ち砕く、神薙先生の戦い方も本質的には似ている。


 だがそんなことおれには無理だと伝えると、だったら逆に攻めることだけをすればいいと言われた。


 攻めてさえいれば相手がいつか受け間違えて勝てるかもしれないし、押し切れるかもしれない。


 攻めの一手は最善手ではない。

 だがそれ以外の選択は、疑問手となる。


 結局のところおれがやらんとしていることは変わらなかった。


 先手必勝と信じて、攻め続けるのみ。


雷電の球ライジングボール混沌回路(カオスチャンネル)


 速攻でケリをつけてやる。


子兜楽園アルカディウス


 白輝く膜が結城を包み込む。


 恐らくは防御に力を回したと思うが、俺の攻撃は必中。


 バリアじゃ防げねえ。




 そう思っていた。


「――――!!」


 必中の一撃が、弾かれた。


「なん……だと!」

「ふっ……ふう。怖かった」


 膜の奥にいる男は安堵していた。


「もう終わり?」

「終わりだと? このまま勝つつもりでいるのか?」


 なめ腐った態度にカチンとくる。


「ううん。無理だよ。僕は強くないんだから。勝てるわけがない。でも負けない」


 何を言っている。


「普通にすればいつかは気づくだろうから、自白しておくね。僕のギフト子兜楽園アルカディウスの効果は単純明快。絶対防御」

「絶対防御……だと?」

「そう。この意味、分かるよね」


 おれと同じ『法則』

 いや、もっと正確に言うと同格だが防がれたのを見ると向こうの方がちょっとだけ上。


「……それでどうやっておれに勝つ気でいるんだ」

「勝つ? ううん、ムリムリムリ。僕じゃ勝てない。この能力を使っている間はほとんど動けない」


 動けないではなく、ほとんどということはきっとそれなりに動けるんだろうよ。

 自己申告は信用しちゃいけねえ。


「それで、僕、お願いがあるんだ」

「なんだ?」


 とっかかりが無いと無駄に手を消費してしまうだけ。

 今は情報を抜き出すことが優先と考える。


「適当に攻撃して、引き分けにしようよ」

「……」

「えっと、そのね。いっぱい人いるから。膠着状態だと白けてしまうから」

「周りの心配なんてしないで自分の心配をしたらどうだ。一度防いだくらいで勝てると思っているのかぁ。てめえは」

「ムリだよ。絶対に僕には届かない」


 その挑発におれはのる。


「だったら耐えてみろよ。雷電の槍ライジングスピア リミットオーバー」


 周囲に数千の槍を、その矛先は当然結城。

 一本ずつが雷10回分の電力を蓄えている。


「いっけええええ」


 そのすべてを同時射出。


 だけじゃない。


混沌回路カオスチャンネル!」


 一本に貫通能力を付与。これでどうだ。


「そうじゃないって。まともな攻撃が僕に効かない」


 だが不発。

 千の槍は膜にぶつかると同時に力尽き、最後の一本も数秒拮抗状態を保ったが勇気に振り払われ明後日の方向に消えていった。


「だったらまともじゃねえ攻撃をすりゃいいんだろうが! 電工赤火エレキバースト


 自然発火。内側からの破壊ならどうだぁ!


「だから効かないって。ムリムリ」


 届かず。これもまた止められる。


「わかったよね。僕は最強じゃないけど無敵なんだ。だからね、無駄なことやめよ」

「無駄? 何を言っていやがる」

「……ひょっとして分かってないの?」

「『法則』だから絶対に無理っていいたいのか」

「分かってるなら、なんで?」

「分かっているから挑めるんだろ。確かに『法則』は絶対だ。だがそれだけが全てだってことじゃねえんだ」


 本当の意味での絶対は神薙先生であり、それ以外はどちらの絶対が優位であるかの格付け合戦だ。


「確かにてめえの能力は絶対だろうよ。核を落とそうがビックバンが起きようが道理じゃ傷一つ付かねえ能力だ。だがよぉ、おめえは知らねえだろうがよ、人の意思ってのはどんな力よりも強いんだよ」


 おれはそれを神薙先生に教わった。

 人の意思は神すら食らう。


 見せてやるよ。


混沌回路カオスチャンネル――補強増設インメモリーィィィイイ!!!!」


 もう一度雷の槍を。


「正直いきなり使う気はなかった。いつき用に取っておいてもよかったんだが、こんなところで立ち止まる気はねえからよ。さっさと倒させてもらうぜぇ」


 まっすぐに結城だけをめがけて投げつける。


「無駄だって言ってるだろ!」

「無駄かどうかはおれが決める!!」


 槍とバリアがぶつかった。


「!?!?」


 増設の効果は至って単純。

 執行力をあげるだけ。


 防御貫通攻撃。


 クラスの管理は絶対だが、ランクの管理はかなり緩い。


 力を費やした一撃に絶対は簡単に揺らいでしまう。


「こ、このぉぉぉ」


 両腕で槍を抑え込もうとするが――――確信した。


「おれの、勝ちだ」


 ガッツポーズ。


 同時にバリアが破れ、槍が結城を突き刺した。


「うぁぁあああああああああああああああ」


 絶対防御を引き裂いてやった。


「いいぞ! いいぞ! し・ぐ・れ!」


 ただ一つ、いつきの声援だけが観客席から聞こえてくる。

 先鋒が何もできずにやられてしまえば、それも当然か。


「どうだぁ!」

「最高だな!!」


 もう一度ガッツポーズ、そしてそれにいつきが答える。


 そしてようやく周囲が騒ぎ出す。


『おぉぉぉぉぉぉ』


 おれが期待していたものとは違った。


 その声援は贔屓が敗れた時のモノじゃない。

 逆境時に反撃の一本が出た時の歓声。


 まさかと思って振り返るとそこにいた。


「ぃぃぃ」


 両腕は焼け焦げているが


「痛かったぞぉぉぉぉっぉっぉぉぉぉ」


 未だ意思は健在


「とっておきだったんだが」


 確かに効果はあった。

 だが期待していたよりかはなかった。


 今の一撃で確実に葬ったと思ってんだが……


 まあいい。貯めに10秒ほど必要だがもう一発今のをやればいい。


「コロシテヤルコロシテヤル」


 しかしどうも何かおかしい。

 焦点があっていねえ。


「まずい! 時雨さん! 今すぐ棄権しろ!!」


 鉢植空(ヘッドフォンの男)がおれに警告した。

 だがその理由が分からない。


 勝っているのはおれだってのに

 負けて倒れそうなのは結城のほうだのに。


 その言い方は、これからおれが惨めに負けると言っているようではないかよ。


楽園墜崩アヴァロニウスゥゥウゥ!!!」


 白光する膜が消え、代わりに黒光りするドーム状のバリアが周囲に展開される。


 まあ多分なんかが変わったんだろう。

 その何かを探るための一発。


「雷電のライジングボール


 様子見としての一発。


 防がれたことに驚きはしない。だがその防ぎ方が問題だった。


 子兜楽園アルカディウスはいうなればポケ●ンのまもるみたいな能力。

 補強増設インメモリーはいわばZワザ まもるを貫通して結城にダメージを与えた。


 しかし今の防がれ方は、防御されたというより、打ち消された。

 地面タイプに電気技を打ったかの如く、だ。


 導き出されるのは全ての攻撃を消滅させる効果がついている。


 子兜楽園アルカディウスは防御力が∞になるだけの能力だが、楽園墜崩アヴァロニウスは攻撃を0にした上で更に∞で耐えていやがる。


 そうなると混沌回路カオスチャンネル補強増設インメモリーで突破できるかは微妙なところか。


「ユルサナイユルサナイユルサナイ」

「ヘイ審判! あいつ正気失っているぞ!! TKOじゃないのか!!?」


 いつきが多分おれの為にTKOを要求するが


「…………」


 首を横に振り、審判は続行と判断する。


 まあ期待はしてなかったよ。公式の試合じゃねえんだから帝国有利になるような審判をつけるのは想像できたことだ。


 しかしどうやって倒そうか。


 一度流れが切れてしまった以上、状況をしっかりと見つめなおすことも必要だ。


「なんで僕がこんな目に合うんだ。少しくらいみんな僕に優しくしてよ」


 成長して回数制限がなくなったノーマルの混沌回路カオスチャンネルとは違い、10秒単位のためと、1分以上のインターバルが必要となる。


 つまり2回くらいしか使えないうえ、連発は出来ない。


「無視すんなよぉぉぉぉ」


 ただの突進、だがその危険性は感じ取っていた。


 支倉のとき過去のいつきと戦って、ボコボコにされた。

 その時触れたものを何でも吸収するという能力を見せられたのだが、今回も似たようなものだろうよ。


 バリアに触れたものを、尽く破壊している。


 とはいってもあの時より遅い。

 かわすことは容易いし、触れたところでその部分が破壊されるだけ。


 しかしこうなってしまうとこっちに勝ち筋はかなり乏しい。

 今一度補強増設インメモリーを使い、効果が無ければ引き分けを視野に入れるか。


「おっと」


 引き分けを狙うのに場外にでてしまうのはよくねえ。


 どうやら自己申告の通りあまり早くは動けないらしぃし。


 のたのたとこっちにむかってくる。


 回り込んで安全なポイントを探すが、気づいてしまう。


 バリアが少しずつ大きくなってやがる。


 このままでは場内全てがこいつのバリアに覆われてしまう。


 そうなると、おれは場外に押し出されてしまい敗北ってわけだ。


 素直に八百長していた方がましだった気がしてきた。




 ちっ。完全に手詰まりだ。









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