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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
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閑話 帝国の帝国による帝国のための政治

ブックマークが1000件を超えました

ありがとうございます


 ここ数か月まともな活動をしていないうえ、していたとしても疑問符は残ってしまうが、

嘉神一樹は間違いなくこの物語の主人公である。


 ただし彼以外は舞台装置と言われればそうではない。


 その補助である宝瀬真百合や月夜幸。場合によっては保険となっている時雨驟雨。

 番予定の衣川早苗もまた確かに意思をもって行動をしている。


 無論。彼彼女だけではない。


 日本中に、帝国にだっている。





「まずあなた方に言っておきますがこれは決定事項です。質問や意見は一応聞いてはおきますが、訂正は無いと思っておきなさい」


 老兵は5人の若者に向かって威圧的に話をする。


「数日後この帝国に嘉神一樹ら、通称「外道五輪」が入国します」


 氷室鴻丸は帝王の補佐を主な仕事としており、王の言葉を家臣に伝えることもその仕事の一環である。


 それ故彼の立場はかなり高い。


 通常の帝国民であれば頭を上げて話を聞くことは出来ない。


「あ……やっぱその話マジなんっすね」


 しかし集められた5人は氷室鴻丸の部下や同僚であり敬意はあれど、敬いはしない。


 帝国人にとって重要なのは能力であり、実力である。

 老兵が優れていないわけではない。ただ自分たちも同じように優れているからこそ、同格として扱う。


 これは帝国にとっては当たり前の話であるため、問題なく話を続ける。


「その嘉神一樹ら相手の指令だ」


 自分たちが呼ばれた理由に合点がいった。

 帝国民は強きものを敬い愛し受け入れる。


 帝王と呼ばれる男の次の存在であり、次期最強とすら恐れられる嘉神一樹を早め(この場合は既に遅いが)に仲間に同僚にしておこう。


 そのために彼と同学年である自分たちが選ばれた。


 少年の一人は心の中でつぶやいた。


『お前の次のセリフは「彼らに移民になるよう申し込んでほしい」だ』




「彼らに決闘を申し込んでほしい」




 斜め後ろの指令に5人は驚愕する。


「どうやらこの年で耳が遠くなったらしい。氷室さん。もう一度指令を」

「嘉神一樹らに決闘を申し込めと」


 聞き間違いではなかったことに再び驚いた。


「驚くのは無理がない。だからこそ質問や意見をすることを先に許可した。何かあるなら言うがいい」

「ならば言わせてもらう。黄泉にいったら死んだジジババに親の名づけセンスを鍛えるように言っておいてくれ。来世があれば役に立つだろう」


 回りくどく「あなたぼけましたね」と言っている。


「これを見てもそう言えるか」


 手渡されたそれは帝王直筆のサイン。


 その内容は氷室鴻丸の言っていたことと矛盾しない。


 つまり決闘の命令があったのは事実。


「理由はちゃんと教えてくれるんですよね」


 でないと質問をしていいとは言わないからだ。


「当然だ。恐らく途中まで帝国に勧誘するのではないかと思っていたと思う」


 5人中5人その仕事になると思っていたので見事に的中する。


「計画はずいぶん前からあった。しかしそれは出来なかった。宝瀬に邪魔されていたから」

「宝瀬……」


 マネーゲームのグランドマスター

 金がこの世のすべてなら、宝瀬はこの世の過半数を占めている。


 宝瀬はどちらかといえば右側で、支倉は左側の企業だが、それでも帝国民は宝瀬の方が好きだった。

 なぜなら支倉のトップがアンチ異能力であったため、帝国とはほとんど取引をしなかった。


 勿論666が起きた後の心情は宝瀬の好感度は2段階上昇し、支倉の好感度は地の底まで落ちていった。

 帝国で支倉を擁護しようとするのならリンチにあっても文句は言えない。


「――仕方ないだろう。こっちよりもあっち側の見る目が上だった。負けを認めるのも強さだ」

「その通りだが、かといって何もしないわけにはいかない。宝瀬の駒として情報を入手する必要がある」

「つまり自分たちに嘉神一樹の戦闘情報を得るための捨て駒になれと?」


 ならば決闘をさせることも少しだけ理解はする。


「そう思われても仕方ないかもしれないうえ、否定はしない。だがもっと重要なことがある」

「それはいったい?」

「嘉神一樹の人間性」

「人間性?」


 ※ネタバレ:まともではない。


「宝瀬はギフトの能力と同等、いやそれ以上に嘉神一樹という人間を隠している」


 事情を知っていれば当たり前の話である。

 あんなのを世に知れ渡してはいけない。


「真っ当な人格であればいい。人を殺めることに忌避を覚えてくれればなおよい。だがその逆、人殺しに快楽を覚えるような輩の場合は話が変わる」

「所詮は日本という籠の鷹。飛び立たねばネズミと同等よ」


 要約:別に日本でなら何しても帝国には関係ないですよね


「若い連中は知らないかもしれないが、帝国領は旧北海道だ。帝国が日本を攻める理由はなくても日本が帝国を攻める理由はあるのだ」


 元の領地を取り戻すための戦争を、聖戦を呼ばれても大声では否定できない。


「――つまりそいつが戦争に参加する可能性を帝王様は想定しているんだね」


 むしろ嘉神一樹がいるから戦争をしても勝てるからしようなんてこともあり得る。


「紅蓮の王は牙のありかを忘れたのか」

「すまん。訳してくれ」

「帝王様は自分の能力をいやこの場合は強さですね。自分の強さを忘れたのかって言ってます」


 1位と2位には天と地ほどの差がある。これは19年間生きてきた者たちの常識。


「そうか。そうか。小生も同じことを言った。だが帝王様はこう返した『あと半年で抜かされる』」

「馬鹿な!! あり得ない。帝王様より強い人間なんているわけがない!」


 19年間一度も揺らぐことなく頂点の座に居座り続けた男がそんなことを言うわけがない。


「気持ちはわかる。だが逆に聞き返そう。この有史に嘉神一樹ほどの速度で高みに到達した人間はどれだけいる?」

「ぐぅ」


 ぐうの音も出ない正論にぐうの音で返す男がいた。


「だが逆に言うならば今でなら帝王は嘉神一樹を殺せるのだ」



 嘉神一樹の暗殺



「でもそんなことしたら」

「唯一絶対の王が人を殺める。間違いなく帝国の信用は地の底に落ちるだろう。帝王も王を辞する覚悟でその禁じ手を行うつもりでいる。だがもう一度聞き返す。信頼が無くなるのと国そのものが無くなるの、どちらが大事になると思っている」


 答えるまでもなく後者。


「これで合点はいっただろう」


 戦局が変わる前に、戦局を変えることが出来る因子を消さなくてはならない。

 だがその因子は本当にそんなことが出来るのか。


 自爆覚悟で行うのだから、せめて意味があるものに。


「はい。自分たちは超悦者スタイリスト。戦えばその人間がどういった人間かは分かるつもりでいます」


 彼らのような愛国心がどうか嘉神一樹に無いように。


「ですがその、自分も質問いいですか?」

「なんだ白夜」

「その、えっと逆になんで自分たちですか。役不足じゃ」


 力不足の言い間違いであるがそこは置いておいてほしい。


「・・・・・・言うべきかどうか、迷っていた」

「はあ」

「だがその目を見て一部情報を渡すと決めたぞ。だからこそ聞く前に約束をしてほしい。今から小生は2種類の情報を教える。どちらも絶対に公言しないこと。するくらいなら死ね」


 銃剣をのど元に突き付けた。


「今なら間に合う。知って命令を行うか。知らずに命令を行うか。好きな方を選べ」


 場の空気が変わったが、この場を離れようとする者はいなかった。


「そしてもう一つ。2つ目の情報は四天王の一人である九曜白夜にしか伝えん。故に残りの4人は白夜がその話を聞いて納得したかどうかを聞け」


 5人は帝国式敬礼を行った。


「うれしいぞ。小生はその忠誠心が偽りでないと確信している。だから答えよう。帝王の言葉通り信頼に足るお前たちに真実を伝えよう」


 氷室鴻丸は一度ゆっくりとそして大きく深呼吸をして


「これから話す男は嘉神一樹なんかよりも重要な男だ」

「そんなのが……?」


 宝瀬の頭首ならば女のはず。


「白夜は一度だけ名を聞いたことがあると思うが、その男の名は神薙信一という」

「――知らない。誰?」


 普通に生きていても、特別に生きていてもその名は聞かない。


 脱していなければ聞くことはない。


「帝王より、帝国より、人類より強い人間」

「……冗談ではないんだよな」


 この流れでそのようなことを話す男ではない。


「そいつはかつて帝王の師をやっていた」

「ならば年齢は60くらい?」

「いや、20代前半の容姿だが実年齢は221歳」


 そんなことってと言いかけた男がいたが、支倉罪人という前例があったため口に出すのを思いとどまった。


「そいつは嘉神一樹が通っている博優学園の教師をやっている」

「なるほど。嘉神一樹や時雨驟雨が急激に強くなった理由が分かった」


 あの帝王の師事をしたんだから、それくらいは出来て当然。

 急激な成長に納得がいった。


「その男が担任をしている以上、教師の立場として生徒の安全は絶対に守る。その状況で嘉神一樹の暗殺など出来るわけがない。しかしその男には人間的な欠陥がある」

「欠陥?」

「帝王曰く『人間に甘い』」


 108個ある弱点の一つ。


「職務は全うするが、それ以外は何をしようと許す。そして職務内であっても出来る限り要望は受け入れる」

「つまり毎年交友会で行っている55式模擬戦でならば、神薙信一は止めない。そういうことですか?」


 だから同学年のこの5人が選ばれた。

 四天王で挑んでも教師として神薙信一がガードしてしまう。


 しかし高校生がレクリエーションとして挑むのなら止めることは出来ない。


 むしろ教師としては協力しないといけない立場になる。


「理解はしたが納得はいかない。ならば嘉神一樹ではなく神薙信一を殺すべきではないか」


 その主張は至極当たり前だ。


「それが2つ目の情報。こちらが把握している神薙信一の情報。そしてこの情報は国の存続がかかる情報故、四天王以外で伝えることは禁じられている。知っているのは帝王と小生とこれから話す白夜の3人だけになる」


 九曜白夜以外の4人はしぶしぶと帰っていく。


「仮にこの情報が広まるくらいならお前が関わったすべての人間を皆殺しにしてでも伝達を「止めて」見せる。いいな」

「大丈夫です。その「つもり」はありません」


 彼らにしかわからない誓いの儀式を終えついに真実を話す。


「これから話すのは帝王の真の能力。そしてそれすら上回る神薙信一の悪意じみた能力だ」


 帝王の能力は帝国では当然トップシークレット扱い。


 そしてその能力を知った時、


「帝王様も人が悪い。そんな能力を持っているのなら嘉神一樹や神薙信一なんて敵じゃないでしょ」


 だがその余裕の笑みも


「すみません。自分が悪かったんで少し休ませてください」


 ギフトの正体、そして神薙のリミットを知り頭痛を覚えたのだった。






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