黒白のバスケ
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博優学園の取り柄は、何と言っても歴史そのものだ。
一度文明が滅んだ21世紀で、最も早く復活した高校が博優
創立200年という唯一無二の学園である。
そのため、入学式や卒業式はマスコミ関係者が端の方にいることもある。
しかし今年は始業式でありながら、10台ものカメラが俺達を撮っている。
無論、その被写体は俺達、通称『外道五輪』だ。
宝瀬の力で強引に排除することも出来たし、実際いくらかは既に報道規制をかけているが、今回はあえて許可している。
まず、俺達と言う存在もあることながら、日本で一番開校が早かったのも理由だ。
偏差値が50程度しかないが、それでも国と復興の象徴として大々的にアピールする。
この事は事前に俺達に知らされていたので、誰一人驚きもせず、特段問題も起きなかった。
まあ、存在が放送事故の男がお茶の間に映ってしまったという一点を除けばだが。
とはいえ始業式はこれで終わり。
進学校でも塾通いでもないので、宿題を提出して本日は終了。
「真百合。確か今日は全ての部活動も無かったよな」
「ええ。それがどうかしたの?」
「体育館使いたいから。あ、許可居る?」
早苗の超悦者を教える為、体育館を使いたい。
「…………」
「ん? なんかあるのか?」
「いいえ。大丈夫よ。ただ式があったからその後片付けですぐには使えないと思うわ」
そうか。
なら手伝って早めに切り上げてもらおう。
「嘉神君。あなた早苗に超悦者を教えるのよね」
「お、おう」
真百合に話したことないんだけどな。
「手伝うわ。私も」
「え? いいのか?」
俺より忙しい身なのに。
「ええ。私からすれば2人を一緒にする方が危険だから」
言葉の意味は分からんが、真百合が言うんだ。そうなんだろう。
「それに嘉神君が教えるよりも、私が教えた方が効率は良いはずでしょう?」
そうなんだけど
「真百合と早苗って、仲悪くなかったか」
「自動販売機の下を漁りたくなるくらいには、仲はいいわよ」
それはとても仲が悪いといえるでしょう。
「とはいえ、教えるのはまじめにするわよ (2人になる口実を与えるなんてあり得ないわ)」
何やら心の声が聞こえたようで聞こえなかったりした。
というわけで、同時進行やら複製体やら超悦者で1分足らずで後片付けを終わらす。
「早苗、これから超悦者を教える」
「うむ。だが少し待ってほしい」
「なんだ?」
聞きたいことは分かるが。
「体育館にきたという事は、運動をするという事であろう? しかし今日は運動着を持って来ていないのだ。急いで帰るから30分ほど待っていてはくれぬか」
「はい出たー」
「愚かね」
超悦者で衣装を気にするとか、愚の骨頂。
馬鹿じゃねえ~の。
「これだから早苗は」
「まったく。脳ミソはメロンパンでも出来ているんじゃないの」
「メロンパン? ミニクリームパンの間違いじゃないか?」
「ふふ。そうね」
俺がかつてしたことを棚に上げる。
仕方ないね。楽しいもん。
「なんで、私がこんなに馬鹿にされているのだ」
やはりこういう場面では俺達がよく知っている早苗なわけだ。
「全く馬鹿な早苗がイメージしやすいように演習を見せてやろう」
「早苗。見てなさい。これが超悦者同士の戦いというものよ」
そう言って倉庫からバスケットボールを取り出す。
「バスケをするのか? だが一樹は兎も角、真百合はその恰好でするのは……」
確かに髪を結ばず、何よりスカートでバスケをするなんて、普通にしたらあり得ないかもしれないが、あり得ないことをするのが超悦者
「1on1でいいよな」
「ええ。攻めは嘉神君からで」
なんで先攻と言わなかったのかは問い詰めないでおこう。
「見ておけ。これが光速のドリブルと言うものだ」
そういってボールを地面に叩き付け……
「はい。取ったから次は私ね」
……る前に、片手でキャッチされました。
「これは多分真百合が凄いんだろうが、言わせてもらうぞ。一樹。今超ダサいぞ」
「う、うるせー」
まさか真百合が早苗の好感度が悪くなるようなことをするなんて思ってもみなかった。
こうなったら俺もカッコよくディフェンスをして、印象をあげないと。
「確かこの位置からでもシュートをしてよかったのよね」
そういって真百合は、右に大きくジャンプし片腕でシュート
そのまま弧を描き、リングにかすりもせずゴール
「…………」
これには早苗もダンマリ。
「私の知っているバスケと違う」
俺もこんなバスケは知らない。
「はい。じゃあ次は嘉神君」
しかし今の俺は何もしていない。
早苗に良い所を見せるために、今度こそ。
まずブロックされないように、注意をはらってその場でドリブル。
「おお、やっとバスケットボールを見た気がする!」
早苗が謎の感動を覚えたようだが、そのふざけた幻覚をぶち壊す。
しかし何か特別なことをするわけじゃない。
するのはドリブルだけ。
「あ……やられた」
それだけでもう終わり。
秒間100回のドリブルで、1度だけ強く、そして別の方向に叩き付ける。
跳ね返る先は、俺の手ではなく、ゴールリング。
そう、バウンドしたボールがそのままシュートになる。
「ドリブルがシュートになる。この技の利点はドリブルをするだけでシュートモーションに入っているという事。つまり俺はどのような体勢からでもシュートを打てるということだ」
ボールさえ持っていれば、いつでも好きなタイミングでシュートが打てる。
「待て待て!」
待たない。
「次、真百合」
もうさっきのようなフリースタイルでのシュートは打たせない。
どんな形のシュートであれ、俺が必ず止めて見せる。
「嘉神君。ここにきてルールを指摘するのはお門違いなのは分かっているけれど、それでも一度確認させてもらうわね。バスケットはボールがリングより高い地点まで到達したら、相手はふれちゃいけないの」
実際そのルールが無いと自陣の前に居座ってリングの上でぶら下がったら、それで1点も入らなくなる。
「分かっているけどな……つまりは到達するより先に止めればいいんだろ」
身長差は俺の方が有利。
どんなシュートであれ、止めて見せる。
「それができるのならね」
そう言って今度は正統派のシュートモーション。
何やら嫌な予感がするので、打たせる前に止めようと、ボールを投げる前に奪おうとする。
が、出来ない。
通常、シュートを打つ時は手のひらをゴールに向けて打つ。
しかし真百合は、俺から見れば手の甲が見えるように、本来向くべき方向とは逆位置に手を向けていた。
このままブロックをすればプッシングとなり反則だ。
そしてその投げ方で強引に前に投げるとなると前方方向に回転、つまりドライブがかかる。
なるほど、縦方向の変化球か。
頂点に到達するまでは垂直に進み、その後加わった強力な回転により、ダンクのように一直線にゴールへと突き進む。
だが種が分かってしまえば、上の方向のシュートを止めればいいだけの話。
勝ったな。
「ごめんなさい。その推理は、多分ハズレ」
真百合が放ったシュートの向かう先は、上ではなかった。
じゃあまっすぐ進んだのかと聞かれればそれも違う。
正着は後方。
真百合は自陣に向かって後ろ向きにシュートをした。
ボールは一直線にゴールのリングに向かい、そしてオレンジ色のリングに衝突する。
途轍もない勢いで放たれたボールは、リングにぶつかると天高く弾み、そのまま25m先のリングへ。
当然そのシュートに一切外れる要素は介入しない。
ゴールである。
「待て! 流石に待て……! 色々言いたいことがある!!」
「駄目よ。言わせないわ」
いやー。ずりいわ。
だって後方に放たれた時点でこっちはシュート方向の逆位置にいる為、届きようがない。
しかも帰ってくるときは常にリングの上なため、ルール上取ることも出来ない。
まさに完璧なシュート。
理論とルールで守られたこのシュートを、誰も止めることはできないだろうな。
さてこれで超悦者の大体の動きを理解できただろう。
別にこれ以上やっても真百合に勝てそうにないから、逃げたわけじゃないからな。
次のステップと行くフェーズだと判断したから、そうするだけだ。
「早苗、今度は俺と1on1するぞ」
あとは体験あるのみ。
特に早苗ならば尚更だ。
「今のを見せて、私にあれをやれというのか」
「誰もあそこまでしろとは言ってないから」
出来たら教えていない。
「ギフトは使っていいから……気楽にやれ」
「むう」
ということで、スパルタ特訓が開始された。
「おらっ!」
「波動でボールを吹き飛ばすのはやめろ!」
「えい!」
「真百合! 今私に向けてボールを投げたよな!?」
「とりゃ!」
「一樹! ゴールリングに、ブラックホールを作るのはどうなのだ!?」
「死ね!」
「ぐわぁ! 今私の頭でドリブルしようとしたぞ!!」
とまあ、こんな感じで時間が過ぎていき
「…………もうむり」
バタンと早苗がその場で倒れてしまった。
「まだまだだな」
しかし俺と真百合が付きっきりで教えているのに、なかなかうまくいかない。
「早苗って本当に才能ないのね」
「まあなあ。悲しいなあ」
教える側が上手くても、教わる側が下手だったら何も上手くならない。
「泣きそう」
折角なので、鳴こう。
「ウォンゥオーン」
「く~ん」
で、折角なので真百合と二人して鳴きまねをする。
「こいつらぁ……特に一樹ぃ!」
お、たった。
早苗が立った。
「元気あるな。よし、まだやるぞ」
「え? いや待て。待つのだ。待ってください」
根性無しめ。
「そもそもこのスパルタのような特訓に意味はあるのか? 私には意味があるとは思えん」
「使えないわね。出来ないなら出来ないらしく、出来る人の言う通りに動けばいいのに。あなた、一体どこまで無能を晒せば気が済むの」
と、何気に酷い罵倒を真百合がしたのだが
「それは一樹達の視点の話であって、私の視点ではないはずだ」
「ほう」
一理はあるな。
大昔では太陽が地球の周りを回っていた天動説が主流だった。
それを地動説に変わったのは、周りの人間の脳が地動説を理解するまでに至ったからだ。
今回も俺達がいくら『こうだからこうしろ』といっても、『いやそんなことあるか』と早苗がずっと思っていたら、何の意味もない。
「でもなあ。早苗に知能を求めるのはなあ」
「一樹。確かに私のお頭はよろしくないが、その言葉が侮蔑だという意味くらいは分かるぞ」
早苗が何か文句を言っているが、今俺の
よし決めた。
早苗に納得以外のモノで、没頭させてやる。
「早苗。今までのことを理解するのは難しいかもしれん。だが俺を信じてくれ。早苗の脳が否定しても、心で俺を肯定してくれ」
俺は早苗を信じている。
別にそんなことを求めていないが、早苗も俺の為に命を張れる。
「一樹――――」
「早苗――――」
俺達は見つめ合う。
ああ、心と心が通じ合っている気がする。
「無理だぞ」
気がするだけだった。
「おい! この流れでそれは無いだろ!!」
「流れが何なのかは分からないが、まずは日ごろの行いを振り返ってからモノを言うのだ」
振り返ってみる。
毎朝規則正しく起き、生活態度は完璧で、ボランティアにも精を出し、勉学は優秀。
「――完璧じゃねえか」
何処にも非は見当たらない。
「やっぱり早苗が悪いな」
結論。
馬鹿に付ける薬はない。
しかしどうしたものか。
馬鹿にでもきく特効薬はどこかにないものかと熟考する。
「こうなったら最後の手段があるわ」
そして俺達2人が同時に同じことを考えた場合、まず間違いなく真百合が先に案を思いつく。
「……この際だ。何でも言ってくれ」
真百合が提案したそれは――――
「神薙信一に教えて貰ったら?」
「「…………」」
なんだろう。
パンが無ければ、土でもくっとけといっているような、暴論。
喩え害がないと分かっていても、あれと意図的にかかわるのはNG
「私達より効率的に教えられるのは、もう彼しかいないのよ」
「…………よし、決めたぞ」
――――早苗に一つの結論を導きさせた。
「これからもよろしく頼む」
最終的にバスケを楽しむ心とか仲間を信じるとか適当な理屈をこねくり回して、なんとか形だけは覚えさせました。
ちなみに教える場合の効率の良さは
神薙信一>>>宝瀬真百合>嘉神一樹≧王陵君子=嘉神育美>嘉神一芽>支倉罪人>時雨驟雨
です




