宝瀬家の不愉快な人達 2
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当たり前ですね
「……えっと、これ」
「その、ごめんなさい」
手紙の内容は宝瀬家の家族会の招待状。
あて先は真百合と俺。
「ばれちゃったみたいね」
「うん」
あれからナツミちゃんは強制送還され、どこかに監禁されている。どうなっているかは俺に知る由はない。
ただその所為で真百合が男と一緒に暮らしていることがばれた。
「ひょっとして俺の命危なかったりする?」
何家の娘に手を出してんだー! って。
手は出していないが色んなことしてるから、冤罪じゃないのが困る。
「それは間違いなくないと保証するわ。ただ……面倒なことに」
「面倒?」
「参加者にお母様がいる…………」
自分が誕生するビデオを娘に送り付ける母親なんだ。そりゃ嫌がるな。
「悪いようにはならないと思うのだけれど……ちょっと嫌な気分になるかもしれないわ。それと一つ」
「ん? 何?」
「お母様が何を言っても怒らないでほしい。あれは頭が壊れているから」
実の娘がそんなこと言っていいのかよ。悲しまない?
「了解。まあ、宝瀬家にはお世話になってるしこれからもお世話になるだろうから挨拶と思えばいいのか」
「挨拶!?」
いったいどんな意味を考えたのか俺は知らない。
8月30日
自家用飛行機で移動するというもはや驚きもしない移動手段。
その後、車に乗り換え何故か通る信号機が全て青で、交通規制が微妙にかかってるという真っ青になりかける事態が起きたが……それはそれとしてやっと到着。
「ひええええ。高~い」
首都東京の恐らく一番高いビル。
建設費1000億超、1㎡が100万をゆうに超える土地。
うわあい。目が回ってきた。
「いくら?」
「会社兼自宅だから……確実に兆は超えるでしょう」
「わーすごーい」
ここが宝瀬家の本家らしい。
「はいこれ。特別製のカードキー」
「これは?」
「今日と明日なら、どこの部屋でも入れるわ」
「もしこれを無くしたりしたらどうなの?」
「宝瀬という会社の中枢だから……日経平均株価が5%下落するわね」
命より大切にします。
本音を言うと別のもっと権限の低いカードに変更をしてほしいけど、余計な手数を増やせば事故も増えるからこれでいい。俺が無くさなければいい。
「お待ちしておりました。お嬢様。それと……チッ、嘉神様も」
出迎えたのは左眼にモノクル(片眼鏡)をつけ、誰がどう見ても執事のような男性。
「今俺舌打ちされたよな?」
「おしべ。分かっていると思うけど……」
「分かっていますとも。お嬢様に害をなす……害獣なのでしょう」
あまにゃんと同じことを言われた。ただこっちは獣のためまだマシか。
「別に怒っていないし、単純な興味で聞きたいんだが、客にそんな事言って宝瀬の品格疑われない?」
「!!!!」
「確認するが、俺は客でこの人は宝瀬家に御使いしている人だよな?」
「そうね。だから嘉神君の対応は間違えていないわ」
真百合からのお墨付きを貰った。
「やっぱそうじゃん。宝瀬って案外たいしたことなかったりするん?」
「ぐぅぅうぅ~~!!」
顔を真っ赤にして怒りを堪えている。
折角だ。もうちょっとだけ煽ってやろう。
「お前なんだかトランプとか武器にして戦いそうな顔だよな(笑)」
「なんっ…でそこまで!的確に人を傷つける台詞が言えるんだよお前はあああああっ!!」
ありがたい。久々にパロを入れたくなったんだ。
宝瀬家の面々ってノリがいいよな
「こんな屈辱を受けたのは初めてだ! 絶対に許しません! お前は私がぶっ殺す!」
そうやって取り出したのは……カード?
遊○王で戦うんだったら、すぐにごめんなさいをする。
あいつら宇宙どころか異次元を統一しだすから…………今の俺では無理。
「このタロットカードでお前を殺す!!」
「ほとんど同じじゃねえか!!」
逆ギレだ! 横暴だ!!
「死ね!!」
投げたのは一枚のカード。
回転をかけず、一直線に直進するという漫画でよく見るような…………超悦者じゃないですかやだー。
取りあえず手で防御したのだが……カードは跳ね返されるわけでも刺さるわけでもなく、体の中に浸透してしまった。
何か頭の中が痛い。グルグルする。
「楠木おしべ。秘境の山羊。タロットカードの意味を現実に引き起こす……『法則』のギフトホルダー」
ぎゃあああああ。思っていああああああああああたよりずっと強かった。
「0~21のつまりは22種類のカードで、正位置と逆位置の計44種類の能力が使える」
あああええええああああ。
「今害獣に入っているのは愚者の逆位置。考えることの放棄。お嬢様……お気を確か……」
「その能力私に全て明かしているでしょ。弱点も全部。おしべがギフトを使っている最中は一セット全てが、能力を得る。だからこうして持っているカードを奪えば……私だって能力を使える」
…………は!!
「死神の逆位置。再生」
「流石ですお嬢様。感服しました」
何か俺噛ませ犬にされた。
いかんで、主人公最強モノなのに。
「一応こいつが宝瀬家の最大戦力だから……罰は受けさせるけどあまり酷いことはできないの」
「分かる。超強い。ランキングには載っているのか?」
「裏方だから載ってはいない。ただ……裏だと16位」
裏ランキング、名前が出せない人達も含めた本当の意味でのランキング。
それに16位とは本物のガチ勢だ。
「使用人の不始末は雇い主の責任。ごめんなさいね、私達の執事が余計なことを」
「いや、ちょっかいをかけたのは俺からだし……殺す気じゃないのは分かってるから」
死神のカードを直接使えば殺せていたはず。
向こうも殺す気はなかった。
「認めません。認めませんが……使用人に口をはさむ資格はありません。剣様がお待ちです」
「そうね。行きましょう」
エレベーターで100階以上先に進み到着。
赤い絨毯が床に敷き詰め……もういいや。凄いでいいやろ。
「ここから先は服装規定がかけられております。ドレスかスーツの着用が義務付けられておりますので……御着替えください」
「何それ? 初耳なんだけど。それと俺がこんなところに来れる服など持っているわけないです」
「ちゃんと用意してあるわ」
流石は真百合。準備がいい。
一人で着替えられる程度の服だが、着付けの人の手を借りる。
何でかというとその値段がとんでもないから。
ジャケット 130万
スラックス 100万
シャツ 15万
タイ 3万
靴下 2万
革靴 50万
時計 3000万
ボクサーパンツ 400円
〆3300万400円
金縛りにあってまともに着替えることができませんでした。
家族会といっても、実際は剣さんの誕生日でそれを家族だけで細やかに祝うらしい。
ただ本題が俺のことになるのは疑いようの無いとのこと。
真百合が着替え終わる間、考え事をする。
「(カ○ヨムネタどうしよう……)」
まさかあそこまであれだとは思っていなかった。
折角ナツミちゃんがのって来てくれたのに…………致命的な誤字がない限りあまり改変したくないんだよな。そのために改稿版をあっち側に投稿しているのに…………
でもあそこ泥船に乗っている気分なんだよなあ……あんまり長居しすぎると沈没に巻き込まれそう。
最悪、カ○ヨムではなく、ハーメ○ンかエブリ○タに引っ越ししようか……改稿版を別の作品としてなろうで改稿版を投稿しようか…………
悩ましい。どうしよ。このネタだって変えないといけない日が来るかもしれないのに。
「待たせたわね」
「お……う」
真百合はマーメイドドレスに着替えていた。
その長い藍色の髪を引き立てる水色のドレス。大きく開いた胸を飾るのは赤い宝石。
数か月前にあって、数週間一緒に過ごして改めて認識する。
この人は本当に綺麗だ。
「いきましょうか」
「あ、うん……ちょっと待った」
「どうしたの?」
「俺が言うと安っぽくなるかもしれないけど……綺麗だよ」
「~ッ!!」
真百合は顔を真っ赤に染める。怒られるかなあ?
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで今日ここに来た甲斐があるわ」
俺もそう言ってもらうだけで言った甲斐がある。
「じゃ……エスコートをお願いしてもらえるかしら」
自身の腕を俺に巻き付けるが……仕方ない。
「あのさ、そうやって歩いたら恋人みたいに思われない?」
「………………ねえ。一つ伝え忘れていたことがあるの」
扉を前にして真百合が何か言い出した。
「私達、恋人ってことにしてあるから」
「!?!?」
な、ななななんあなななんあななな何だってーー!!??
聞き間違いを確かめたかったのだが、その扉が開きそう言う空気じゃないのを感じ取る。
長いテーブルには既に数人座っていた。
うち一人は先日仲良くなった剃刀君。向かい合うように座っているのは中学生くらいの男。多分あれが薙刀君かな?
それで上座に座っているのは…………テレビでよく見る宝瀬家家長。宝瀬グループ総統の宝瀬剣さん。いや宝瀬剣様と言ったほうがいいのか?
その左手側に座っているのが……なんかすごい。
中東で信仰されている宗教の衣装。ターバンで全身をグルグル巻きにしていた。
顔……というより、何としても肌を見せない格好をしている。
他には……下座に座っているからどうでもいいや。
本当は良くないんだが、多分いいはず。
使用人が俺を誘導するのだが…………
「あ、あの……俺はこっちでいいんですか?」
席順としては剣さんとマアラさんの次。
真百合と同格かそれ以上の座席。
「あっているよ。君の席はそこだ。そしてよく来てもらったね。歓迎するよ、嘉神一樹くん」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
痩せ形だが、オーラがある。
強くは全く見えないのに、腕っ節以外の強さを感じる。
剣さん以外にもマアラさんに挨拶をしたほうがいいと思い、お邪魔になりますと頭を下げた。
「………………」
沈黙。
破ったのは機械音声。
『初めまして。マアラです』
「あ、はい。どうも」
よく見るとこの人キーボードを操作していた。
ひょっとして喋れないのか。
「マアラ。最初の挨拶くらいは地声でしなさい」
「はあい♡」
喋れるんかい。
「失礼があったらごめんなさいね。私の声はあの人のモノですから。他の男に許可なく喋らないようにしてますの」
「は、はあ」
じゃあ、その衣装もその宗教を信仰しているからではなくただ男の俺に肌を見せないため? 前時代的というか……過去に一直線?
「あ、そうだ。真百合」
「…………何でしょうか、お母様」
ものすごく嫌そうな顔をしている。
「セッ○スはいつ済ませたの?」
むせた。
ただむせたのは俺だけで他の人達は無反応を貫いている。
「まだ……していないです」
真百合はそう言って返答したが何時かする予定は全くない。
「はぁ」
マアラさんは大きくため息をつき言い放った。
「この出来損ないが。恥を知りなさい」
何を言っているのか分からない。
出来損ない? 真百合が?
「男に抱かれない女は恥。前から口を酸っぱくして教えてあげたのに…………宝瀬の恥が」
誰もそれを咎めない。
無言。否定も肯定もしない。
「愛娘になんてことを言うんですか……?」
だから俺が何かを言わないといけないと思ったんだ。
「愛娘? 私が愛しているのは剣さんだけ。
「親? 私が?」
嘲笑。
「剣さんの妻になった覚えはあるけど、あいつの親になった覚えは一度もない。こいつら全員勝手に生まれただけ」
「……」
「ご飯は食べれば必ず排泄物がでるでしょ。空気を吸ったら二酸化炭素がでる。運動をしたら汗が出る。それと同じ。セッ○スをしたらこいつが出来た」
「―――――」
「排泄物が意思を持っている。嫌悪を覚えることはあっても愛情を覚えることはない。私に言わせれば子供に愛情を覚える方がどうかしている」
真百合が最初から言っていた。
どうしようもない人だと。
本当の本当にどうしようもなかった。
隔離されてしまえ。
「こらマアラ。お客さんを困らせるんじゃない」
「はあい♡ ごめんなさいアナタ♡」
そしてこの変わりよう。
2オクターブ声色が変わっている。
「座りなよ。立っていると疲れるだろ?」
座ることを忘れていた。
言われた通りに座る。
俺達が最後だったらしく、剣さんは乾杯の音頭を取る。
そこからの食事会は異質だった。
世界で一番料理がうまい人が、世界で一番高級な食材を使って作る料理のはずなのに全く味がしなかった。
下座にいる人達はいかに自分達が優れているかのアピール。
いかに上座に座っている人から気にいられるか、まるで乞食のようであった。
上座に座っている子供達は、それらをほとんどあしらう。
相槌を打つだけで具体的にどうするかは全く話をしない。
「所でだけど」
剣さんが口を開けば、全ての人間が口を閉ざした。
言わせてほしい。気持ち悪い。
「君達は結婚を前提に付き合っているのかい」
「…………」
そもそも付き合ってすらいないです。
何て言おう。
「ふうん」
え? まだ何も言っていなんですが。
「マアラ。僕らの娘は君のお母さんの道を辿ろうとしてるよ」
「あらあら♡」
真百合の祖母は、なんか愛人って言っていた記憶がある。
愛人どころか恋人がいない俺に一体何の関係があるのか。
「やっぱり出来損ない。恥ずかしい」
「…………」
真百合は何も言わない。
「在庫処分したい。力技で籍を入れません? アナタ♡」
「在庫処分という言い方は置いといて、それは案がいい考えかもね。どうだい? 折角だから入籍したらどうだい?」
真百合が何で行きたがらなかったのか分かる。
「申し訳ございません。俺達はお互いの意思を尊重し合っていますので親とはいえ、勝手に決められるのは」
「何を言っているんだい? 子供の人生なんて親が決めるものだろう」
「…………!?」
「よく漫画とかでそう言って悪役扱いされるけど、これは事実だ。20年も生きていない子供が自分の人生を決めるよりも、40年近く生きた親が決めた方がマシになるに決まっている」
「そ、それは……」
「決められたレールの上の人生。素晴らしいじゃないか。何のためのレールだと思う? 安全のためさ。車みたいに走らせるよりも、列車のような人生の方がはるかに安全だ。子供の安全を親が祈って何が悪い?」
何も言い返せなかった。
間違えたことは言っていないから。
「それに僕は君のこと嫌っていない。君が脱線させたいのならそれも仕方ないと思っているよ。ただしその責任は君が取るんだ。子の責任は親の責任、ただし脱線するまで……ね?」
要約すると、婚約先は親が決める。その相手が俺。
嫌だったら断ってもいいけど責任はとれよ。
これどっちにしろ無理じゃん。
やっぱなろうって神だわ




