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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章 前編 サマーバケーション
139/353

羽衣会 1

 銃声が鳴り響き、辺りに薬莢の臭いが充満する。


 銃弾の弾幕をかいくぐり狙撃手まで突入するが、位置的に躱すことのできない凶弾が俺に向かってくる。


 ならばぶつかる寸前――体を銃弾と同じ速さで引くことで、衝撃をなくす。


 同時に数発の銃弾を掴み、銃声が鳴り止むのと同時に親指で弾く。


 わざわざ火薬の爆発を利用しなくても、大人しく自分で弾いた方が威力出て、しかも正確だと最近気づいた。


 しかも跳弾を利用することにより一発で四方へ対応する。


「よし、あんがと父さん」


 これにてもし銃撃戦に巻き込まれた時の訓練は終了。


 何事にも準備は万端じゃないといけない。


「さすが。わずか二週間ちょっとでここまでとは」

「それ前も聞いた」


 度が過ぎた称賛は皮肉に聞こえてならない。


「本気で凄いと思ってるよ」

「そう。ならいいんだけど」


 しっかしホント、銃に対して恐怖心が無くなった。


 銃口を自分の口の中に入れ、引き金を引く。


「はい、不発」


 口の中に含んでいる水分で薬莢が濡れ、うまく爆発せず不発となった。


「かーらーの」


 銃口から息を吹きかけ水分を飛ばす。


 そのまま発砲し、銃弾が口の中に入る。


「エロエロエロ」


 舌を谷折りにし、その間に銃弾をはさんだ。


「完璧」

「次はなにする。 刃物を極めてもいいし、なんなら光速移動にでも挑戦する?」


 それはいい。


 ただ残念ながらそれは明日以降だ。


「悪いが今日はこれで止めにしたいんだ。明日衣川組と綿貫組と麻生組が集まる会議があるらしくって。それの護衛をしないといけないから万全をきすためにさっさと寝ときたいんだよな。後出発も結構早かったし」


 いやー早い。


 始まったと思った夏休みがあっという間に中盤戦が終わろうとしている。


「分かったよ。ただ大丈夫か? 万が一のことがあった時お前は守れるのか」

「失礼な。どういう意味だよ」

「一樹の能力って基本的に敵を排除するのに特化して、何かを守る能力が少ない気がするんだが」

「少ないことは認めるけど、一応あるからな。分身して弾受けたりすりゃ余裕だろ」

「言い忘れたが超悦者スタイリストは何かをピンチの状態で庇った時、それを守れる代わりに致命傷になる時があるから気をつけとけよ」


 そんなの聞いて無い。


 ただなんとなく言いたいことは分かるから文句は言わない。


「最悪繰り返せばいいし、そもそも護衛に行くだけで何かが起きるって確定しているわけじゃないから。へーきへーき」


 占里眼サウザンドアイズで未来予知したけど特に問題なかった。


「そう、じゃあいいんだがくれぐれも無理はするなよ」

「任せとけって、じゃあまた明日」


 と、こんな感じで調整した。




 そしていよいよ運命の8月13日。


 当然の様に暑い。


 暑いんだからね。ほんとだよ。


 超悦者スタイリスト使えば無視できるかもだけど、そんな気軽に使えるほどまだ使いこなしていない。


「この車に乗るんですか?」

「そうだね」


 目の前にあるのは黒塗りの後部座席が3つある長い車とワゴン車3台。


 そしてそれを囲う屈強な男達。


まさか霊柩車以外で自分がこれに乗るとは思わなかった。


「確認しますけど俺は早苗と香苗さんと一緒の車に乗って、目的地まで向かうんですよね」

「その間の護衛も勿論だけど、本筋は3組が集まった後。そこで一年間互いがどれだけ相手の組や島に迷惑をかけたか、その賠償を他の組を混ぜて話し合う。通称羽衣会、そして万が一頭が殺されるようなら、それは事件ではなく事故として扱う。昔は互いを牽制し合う意味で作られたこの集会だけれど、今はいかに相手を出し抜くかに変わっている。気をつけてくれ」

「へー」

「へーって大丈夫かい? 君が足手纏いは要らないっていうからそれを信じて必要最低限しか連れてこなかったんだよ」


 大丈夫大丈夫。


 何度も言うけど未来視して、計画通り事が進んでいたから。


「世界二位がいるんですから、手を出そうなんて思わないでしょ」

「そうだと良いんだけどね、逆に君がいるからこそ手を組むなんてことも十分有り得る」


 手を組んだところでね。


 相手になるのだろうか。


「こちらも一応確認しますけど、手を出されたら手を下してもいいんですよね。ぶっちゃけ衣川組の手を借りなくても特別法第一条で俺自身罪には問われないんですから、駄目と言わない限りやるつもりですけど」


 そう、今まで使わなかったが使うかもしれない。


 ごめん嘘、使う。未来視したもん。


「出来るだけ穏便に頼むよ。三大が集まるだけでその他にも厄介なのが多々いるんだ。徒労を組まれたら面倒だ」

「分かりました」


 そうして乗り込む。


「っとその前に……」


 ワゴン車に乗り込む。


「これなーんだ」

「何かのスイッチか」

「せーかーい。で、なんのスイッチでしょうか」


 答えを聞く気はない。


 車の下に手を入れ、ガムテープで貼ってあるものを剥がす。


「ダイナマーイトゥ」

「「!!!!」」


 大体半径1mが吹き飛びます。


「お前ら! 誰がこの車に乗る予定だった!!」


 衣川さんが怒声を浴びせる。


 数人の男達の視線は一人の男をさした。


「佐原――!? お前か??」

「ち、違う……おれじゃないです」


 佐原という男は狼狽え始める。


 状況的にこいつが黒で間違いない。


 でも実は違う。


「そう、あんたじゃない。普通に考えてこんなのを車の中で放置するわけない。ですよね、さっきまでポケットを触っていたそこのハゲサングラス」


 俺が指差した方へ皆さんの視線がそちらを向く。


「………………」

「俺のギフトでこの車が爆発する未来が一度見えた。しかも数回シミュレートするにそれは時間形式ではなく明らかに手動で爆破されていた。爆発物を除去するだけは簡単でしたけど、それだと犯人が誰だか分かりませんでした。そこで一芝居うつことにしたんです」


 引っかかってくれてありがとう。


 でもこんな職業についているくらいだからお頭は足りないって確信してたけどな。


「適当な人が乗る車にスイッチがあるように見せかけ、その後爆弾らしきものを車の下から取り出す。その最中の反応を見て誰が犯人か予測するつもりでした。結果は御覧の通り。このハゲは衣川氏族の安全を図る前にポケットを触りました。勿論ですがこのスイッチは俺が創ったものですので、そこにはちゃんとあるはずです。この爆弾の本物のスイッチが、そこの右ポケットに。分かったら取り出せハゲ」


 何人かは既に銃口を向けている。


「草場? なぜ…………」

「すまねえ姐さん。娘が捕られた」


 ハゲはスイッチを投げ捨てその場で土下座する。


 自白するのね。


 そしてその動機はよくある通り、子供が誘拐されたと。


 返してほしければ衣川組を裏切れ、そして殺せ。


 はいはい、テンプレテンプレ。


 それにしても氷結の女王フィギュアステイトで爆弾が作動しないようにしてたのに、努力が無駄になってしまった。


 つまんない。


「あのさあ、そんなの通じると思ってる? 娘が誘拐された程度で人様の家族を巻き込んでいいの?」

「そうだ! てめぇ姐さんに拾ってもらった恩を分かってんのかぁあ!?」


 やっちゃえやっちゃえ。


 一度本場のコンクリート埋め見て見たかったんだ。


「生きたままコンクリに詰めましょう」

「コンクリなら足がつくから、アスファルトに埋めるんだ」


 へー。参考になった。


 もし機会があれば参考にしよう。


「でもその前に、けじめはつけさせるべきですよね。アスファルトに沈めるだけじゃチンピラに舐められてしまいます」

「そりゃ、そうだが……」

「提案なんですけど、俺に拷問やらせてください。分身体を置いておきますのでそいつに拷問させます」


 ドロンとは言わないが、突如複製された俺が姿を現す。


「いいですよね、護衛に支障はきたしませんし」

「そ、そうだね……君に頼もう――――」


 衣川香苗さんから許可をもらう、丁度その時だった。


「すまない」


 早苗が地面に両膝をつけ、更に手のひらも地べたにつけた。


「お、お嬢? 何をして…………」

「気が付かなくてすまない。いつから盗られた?」

「――――1週間前です」

「そうか。ならば私も把握できる機会はあったわけだ。私にも落ち度がある。だからもう一度言おう。すまない。私も先のことを許すからお前も許してくれ」

「何をしている早苗!!」

「謝っているのだ。当然であろう」


 そういうことを言ってるんじゃない。


「俺はヤクザの事なんてわかんないが、いや、分からないこそわかる。こんなことされて許すことは無いだろ。早苗達の命とこんなクソみたいなのの遺伝子からできた木偶の坊を天秤にかけて、しかも間違った方を選択した。アウトどころかトリプルプレーで即チェンジだ」


 生まれてきた罪。

 天秤にかけた罪。

 選択を誤った罪。


 人生終了ゲームセットには十分すぎる。


「いいか? 許す許さないの話をしてるんじゃない。早苗が馬鹿なのは今に知ったことじゃないしどうしようもないからもう俺は諦めている。でもだからこそ誰かが正しい方に導いてやらないといけない。罪は必ず裁かれるべきなんだ」

「そうかもしれぬ。いや、きっと一樹の言う通りだ」

「なら----」


 もう議論の余地がないじゃないか。


「だがな一樹、私はこうして頭を下げてしまったのだ。衣川組頭領衣川香苗の一人娘、衣川早苗はこやつの為に頭を垂れたのだ。それをだ、法律がどうとか倫理がどうとかそんなつまらないので曲げてはいかないと……そうは思いませんか? 母様」


 それを意味するのはもう分かっている。


 当たり前だが最終的に決定を下すのはこの衣川香苗だ。


 俺でも早苗でもない。


 だが答えは決まっている。


 自分の娘が頭を下げてお願いした。


 それを聞かない親が何処にいる。


「ったく、本当に私の娘は馬鹿者だ。どう考えても正しいのは一樹くんのほうだ。一樹くんすまないが折れてくれ」

「…………」


 分かってた。

 衣川はこうなんだって。


「分かりました。折れます。ですがこのままでは衣川は潰れますよ」


 比喩ではない。

 そう言う未来だ。


 現に俺が何もしなければ衣川はこの後の羽衣会で潰されていた。


甘さなんて毒でしかないのに。


 何とかしないと、そう思わずにはいられなかった。


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