帰ってきた男 3
やっと前回のエピローグが終わりました。
次からプロローグです。
数刻時を遡り再びホームルーム前のひと時。
「そうそう。嘉神君。あなたに一つ聞いておかないといけないことがあるの」
「ん? なんだ?」
そういって真百合は二種類の雑誌を取り出す。
「おっ!? これ今月の超者番付じゃん。なんか延期になってるって聞いてたんだが遂に発売されたのか!!」
「いいえ。これはまだ非売品よ。嘉神君にこれからどっちを発売してほしいか決めてもらいたいの」
ページを開きとある欄を俺に見せる。
「あー。はいはい」
「……まじかよ」
「……おめでとうございます。で、いいんですよね」
最初に渡された雑誌には
1位 王領君子 (OURYOU KUNSHI)
2位 祟目崇 (TATARIME TAKASHI)
3位 氷室鴻丸 (HIMURO TOUMARU)
と書かれていたが、
次渡された雑誌には
1位 王領君子 (OURYOU KUNSHI)
2位 祟目崇 (TATARIME TAKASHI)
3位 嘉神一樹 (KAGAMI ITSUKI)
4位 氷室鴻丸 (HIMURO TOUMARU)
と書かれていた。
「3位……」
一桁。
「すげえな。ほんとすげえ。それしか言葉が見つからねえ」
「…………」
「そうね。それとついでにあなたも」
その隣のページに
19位 時雨驟雨 (SHIGURE SHUUU)
「ssssshsっさああああああ」
お化け屋敷に入った無駄に怖がる女子高生のような甲高い声で時雨は吠えた。
「ランク外からここまで伸びたのはあなたが初めてよ。おめでとう……って聞いてないわね」
確か俺は最初500位からスタート。
本来それでも異常なのだが、時雨は本気ですごいな。
「本題なのだけど、どっちの本を発売してほしいかしら?」
「世間一般に知らしめるか、暗躍するかどうするかってこと?」
「そう。例のあれのせいでどう処理するか入力班が困っていたの。だから嘉神君に決めてもらおうってことになったの」
それで発売が遅れていたわけか。
「真百合が考えるメリットデメリットは?」
「まず隠す方のメリットだけど、余計なトラブルに巻き込まれないですむ。これが大きいはずよ。1桁になると知名度だけで過ごしていけるとすら言われているの。その座を狙ってちょっかいをかける命知らずな輩がいるのはどうしようもない事実。そういう有象無象の相手をしなくてよくなる、第一のそして最大のメリットがこれね」
「デメリットは?」
「逆に知名度補正が無くなるから、顔や名前だけで融通が利かなくなるといった点ね」
なるほどなるほど。
「ギフト対策されにくくなるってことはあるのか?」
「3桁程度ならあるけど……あなたの場合無いといってもいいわね。番付に載らなくても強さそのものは変動しないのはわかるわよね。真の強者は犯罪者を外した製品版じゃなくて全てを加味した完全版を手に入れているわ。つまり、あなたのことはあなたにとって相手になりえる人はみんなもう知っているって考えられるの」
「俺のギフト、推測されているって考えてもいいのか?」
「むしろそう考えるのが自然だわ」
俺のギフト、マスクや仮面をつけられるだけで面倒なことになるからな。
「ランキングに乗るデメリットは、前のメリットに言った通り面倒事が増えること。それに国からの厄介ごとを来るでしょうね」
「国からって……」
「だってもしもランキングに乗った場合、あなた日本人で一番強いことになるわ」
王領君子も祟目崇も帝国の人。
帝国は日本語が母国語の海外だから日本人で括った場合俺がトップになるのか。
パフォーマンスであれ何であれ、この国の顔になる。
う……腹が痛くなってきたぞ。
今朝食べた乾板、カビが生えていた部分をおとなしく捨てておくべきだったか?
「メリットは……国からの補助が受けられます。金銭の補助はもちろんなによりも法的優遇があなたの場合大きいわね」
「法的優遇?」
「特別法第1条。知っているわよね」
日本最大の悪法
「殺人の許可」
条文は忘れたが、国の運営に影響が出ない限り何人も殺していいという最大の悪法。
今でもデモが起きているがそれでも誰一人として変えようとする政治家は現れない。
国の運営ってことはつまり、公務員(数年前女性教師が殺されたが罪に問われたなったため、公務員といっても政治家や組織のトップや幹部クラスのこと)それに、一定量の年収を収めている財源(宝瀬、支倉等)は除外される。
あとあんまり殺しすぎてもだめらしい。
「ええ。もしも受け入れるというのなら、あなた人を殺しても罪に問われないわ」
「オッケー。受ける。ビバ3位」
即決。
初めは悪法かって思ってたけど、持つべき人が持ったらそれなりのものになったな。
殺したい奴が山ほどいる。
一掃しなきゃ。
「そういうと思ったわ。そう伝えておくわね」
誰やろう。誰殺そう。
今からワクワクが止まらない。
「悪魔に悪法が味方しやがったです」
「ん? なんだって?」
「頭が痛いといいました」
諦めたかのようにため息をついた月夜さんなのでした。
と、こんなことがあり昼休みが終わる5分前。
数学の準備をしていると突然扉が開かれた。
「みんな、おはようなのだ」
「!!!」
なんと早苗が学校に来た。
もう昼なんだがそんなことはどうでもいい。
「大丈夫なのか?」
肌や表情は健康そのもの、だが一つ目に見える問題があった。
髪の色が真っ赤だった。
昔の早苗は毛先が赤い、例えるなら先生が使う朱色の墨汁で染まった毛筆のような毛だった。
だが今の早苗は毛根まで赤く染まっていた。
「大丈夫だ。むしろ清々しいくらいなのだ」
「そう……今日は休むっていてなかった?」
「そのつもりだったのだが、母様が休みすぎだと言ってだな……」
まあね。俺ほどじゃないが早苗も休んでいるし、しかも成績が酷い。
早苗の復帰に感慨深いものを感じていると
「は? ねえ、どういうこと?」
「どうした福知?」
「衣川、君変な能力ついてるよ」
「むむ? 鬼神化のことか?」
「違う。全く別の…………シンボル?」
はあ?!
「おい福知!?」
「ちょ、いきなり目の前に現れないでよ」
俺が来るのを察し目をつむった。
「シンボルって……本当なのか!?」
「そう。時雨と同じ」
「間違いないんだな!!!」
「――――嘉神さん。少し落ち着いて」
なだめる月夜さんだったが、そんなこと気にしてられない。
なんで早苗にシンボルが生えるんだよ…………
ああ!!
『ああ。ついでにサービスもしておいたぜ』
「神薙ィぃぃぃぃいい!!」
またあいつか!!
余計なことを!!!!
「嘉神さん。うるさいです」
「うるさいって! 聞いて無いのか!! 早苗が----」
「わたしや真百合さんならともかく、早苗さんがシンボルを手にしたところで何も問題ありません。大体時雨さんも普通に過ごせているでしょう? 正しく使用すれば誰も傷つきませんよ」
「ぐぬぬ」
事の大きさを理解していないのか、それとも俺が過剰に反応しているだけかのか。
「一樹? シンボルって何のことなのだ?」
「早苗さんが眠っている間に、ギフト以外の変な能力が生えたってことです」
「なぬ!? それはいったいどんな能力なのだ??」
それは確かに気になるが。
すると福知はノートを破りすらすら何かを書いたうえそれをこちらに渡す。
切れ端にはこう書かれていた。
シンボル
速攻悪鬼正宗
必中する拳
『法則』
「………どゆこと?」
必中って……銃弾とかなら分かるが、それが拳となるとイメージが出来ない。
「やってみたらいいじゃないですか。早苗さん、嘉神さんにやってください」
「『法則』の攻撃、直に受けたくないんだけど」
下手したら死ぬんですが。
「へーきです。さあ早苗さん。レッツトライ」
早苗がこっちを見てやるべきかどうか迷っている。
「いいよ早苗。何事も度胸。いろいろ試してみるもんさ」
「そういうのなら…………速攻悪鬼正宗」
軽く正拳突きをかますと離れていた俺が瞬間移動したかのように拳の軌道上に現れ鳩尾にいい一発を貰う。
「ぐぅ」
なるほど、簡単に言えば前浄化集会の時に戦った、瞬間移動する侍と逆のパターンか。
今は鬼人化を使わないでの攻撃だったから普通の腹パンですんだが、同時併用なかなか重い一撃になるな。
その他にも使い道が有りそうな気がする。
「なあ真百合。この能力使っていい作戦とか無い?」
「二穴……24時間耐久……失神攻め…………ふふっ……ハハぁ」
…………………元気そうで何よりです。
速攻悪鬼正宗
例えるなら吸引力が高い打撃技です。
早苗さんもかなり成長しましたが、残念なことに彼女はこれで打ち止めです。
これ以上能力的成長はありません。




