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レオンの気持ち

今日は朝から最悪の日だ。


リオが王宮の生誕祭に行くのに、自分は留守番を命じられた。確かにアレックス・エヴァンズを知るものが多いから危険なのは分かる。しかし、変装するとか仮面をつけるとか策はあるはずだ。


だがリュシアンは強硬だった。サンのことを話したのでそれも原因かもしれない。


「サンにリオと一曲踊らせる覚悟を決めたんだったら男らしく全うしろ。お前が居たらリオが気を遣って思うように話もできないだろう」

「私はダンスしか認めていない。話をする必要があるか?」


リュシアンは呆れたように言う。


「レオン、お前なぁ。リオを信用しろ。リオはお前しか見ていない。今夜はサンのために覚悟を決めたんだろう?サンが思い残すことがないように、話くらいさせてやれ」


レオンは恨みがましくリュシアンを睨みつけた。


「お前の口からそんな寛容な言葉が出てくると思わなかった。これがセリーヌだったら同じセリフが言えるか?」

「俺はそもそも他の男とのダンスなんて、一曲たりとも認めない」


リュシアンがニヤリと嗤う。


(・・・くそ)


忸怩たる思いで、リオが舞踏会へ行く支度をするのを待っていると、これがリオの初めての舞踏会で初めてのダンスであることに気がついてしまった。


自分の浅はかさに頭を抱えたくなる。しかし、一度出した言葉は取り返せない。


リオが美しく着飾って衣裳部屋から出てくるのを、内心穏やかでない気持ちで見守った。


リオは外出用に茶色の髪、茶色の瞳に変えている。地味でありふれた色の組み合わせなのに、リオにかかると特別に輝いて見える。リオの真っ白な肌のせいなのか、大きな瞳に琥珀のような茶色が余計に際立つ。頼りなげな細いうなじが驚くほど艶っぽい。シャンパンゴールドのドレスが陶器のように滑らかな白い肌に映える。露出は低めのドレスだが、リオの美しさは隠し切れない。レオンはこのまま寝室に連れて行きたい衝動と闘っていた。


アニーは満足げに「どうですか?リオ様、愛らしいでしょう?」と聞いてくる。


リオが愛らしいのは当たり前だ。他の男になんて見せたくない。リオがきょとんとした表情でこちらを見るのも可愛すぎて辛い。こんなに可愛いリオが王宮で他の男どもの目に晒されるかと思うと、可愛く支度をさせたアニーを恨みたくなる。


出発前に、リオに「してはいけない」注意事項を繰り返し伝える。リュシアンとセリーヌが呆れた顔で見ているが気にならない。とにかくリオが心配でならなかった。


***


リオたちが出発した後、レオンは療法所に出勤した。今日は祭日なので休診日だったのだが、午後だけ診療することにしたのだ。ただ待っているのは辛すぎる。アニーとイチと三人で診療を回すが、気がつくとどうしてもリオのことを考えてしまう。アニーから何度も「心ここにあらずですよ」と注意された。


診療が終わり、公爵邸へ戻っても落ち着かない。仕事が溜まっているので、仕事をしようと思っても、リオのことを考えると全く手につかない。我ながら自分がこんな男だとは全く知らなかった。昔だったら恋愛にかまけて仕事が手につかない男なんて惰弱だとバカにしていただろう。


リオが恋しい、リオに会いたい、リオを抱きしめたいとベッドに横たわり枕を抱きしめる。


居ても立ってもいられなくて、結局転移の間でリオの帰りを待つことにした。最後のダンスが終わるのはかなり遅い。長時間待つのは覚悟の上だ。


転移の間で苛々しながら待っていると、カールやルイーズが通りかかって気の毒そうに手を振ってくる。くそぅ。


それからどれだけ待っただろうか。ようやく、やっと、リオたちが転移の間に戻ってきた。


しかし、リオは沈んでいて他の面々も言葉少なだった。『サンと何があった?!』と気になって堪らないが、何と声をかけていいか分からず焦りだけが募る。


部屋に戻ってようやく二人きりになれたのに抱きしめようとするとリオの体が強張った。明らかにレオンを拒否している。


(サンのせいか?サンに心奪われて、私のことはもう愛していないというのか?)


レオンは嫉妬で血管が爆発しそうだった。リオを奪う男なんて許さない、自分の中の闇の部分が妖しく蠢くのが分かった。


リオは泣きじゃくりながら


「・・・違う、違うの。そうじゃないけど、今夜だけはサンにとって大切な夜だから、私も誠実でいたいの。今夜だけサンのことを考えるのを許してください」


と言う。彼女の泣き声がレオン心を切り刻んだ。


落着け、と自分に言い聞かせる。『今夜だけ』という彼女の言葉を信じよう。年上の男として余裕のある態度を見せなくてはならない。


焦って追いかけたら、余計にリオに逃げられてしまう。焦りは下策中の下だと聞いたことがある。しかし、もし本当にリオの心がサンに奪われてしまったとしたらもう生きていけない。レオンは内心の嵐と動揺を必死になって隠し、理解ある大人の振りをした。


「分かった。今夜私は別な部屋で眠るよ。私のことは心配いらない。いいかい。君もゆっくり休むんだよ」



*****



部屋を出た後、レオンは考えた。今夜はどこで寝ようか?公爵邸は広いし部屋も余っているので、寝る場所には困らない。でも、今夜は・・・やっぱり諸悪の根源に責任を取ってもらうべきではなかろうか?


と言う訳で、レオンはサンの部屋の扉を叩いた。


ドアを開けたサンは目を丸くした。


「レオン様、どうしました?リオに何かありました?」


レオンは黙ってサンの部屋に入りこんだ。


「いや、まじでレオン様、何があったんすか?」


サンが珍しく困っている。いい気味だ。


「今夜泊めてくれないか?私はそのソファで寝る」


というと本格的にサンが困惑している。ざまを見ろ。


「え、まじっすか?いや、レオン様をソファには寝かせられないっすよ。俺がソファで寝るんで、レオン様はベッドを使って下さい」

「男のベッドに寝る趣味はない」


レオンは冷ややかに言った。


「ソファでいい。どうせ眠れそうにない」


サンが心配そうに


「まじで大丈夫っすか?」


と尋ねる。


本気で心配しているから腹が立つ。こいつは恋敵にも優しい。ますます不利じゃないか。


レオンはため息をついて言った。


「今夜は独りになりたいそうだ」


サンは目を丸くして


「俺のせいっすか?」


と聞く。


むしゃくしゃした気分で


「他に誰がいる?」


と吐き出した。


サンは黙って、戸棚からバーボンを取り出した。


「飲みます?」と言うので黙って頷く。


グラスに適当にバーボンを注いでそのままお互いに一気に飲み干した。


喉が焼けそうだ。


サンがポツリと


「・・・今頃レオン様の腕の中にいるのかな、と思ったら・・正直、ちょっと辛かったんで。助かりました」


と言う。レオンは持って行き場のない感情をどう処理していいか分からなかった。


「おかわり」とだけ言ってグラスを差し出す。


サンは二杯目のバーボンを注ぎながら、


「今夜は俺のことを考えてるんでしょうね。すげー興奮しますね」


と言う。くそ。その通りだが、認めるのは悔しい。


「黙れ。想像するな。心の広い俺に感謝しろ」


と言うと、


「はい、良い主人を持ったと感謝してますよ」


とサンが応えた。レオンは何となく釈然としなくて、


「・・・良い友人だろう」


とつい呟いてしまった。


サンはちょっと驚いたようだったが、晴れ晴れとした表情で「そっすねー」と笑った。


そして「俺は影として最高に恵まれた人生を歩んでると思いますよ」と珍しく真面目な顔をして、サンが言った。

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