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再生

フォンテーヌ王国の王宮前広場に集まった人々は神の怒りの鉄槌がくだされたことを知った。コズイレフ帝国から遠く離れた場所でも白く輝く村長の姿が目に入る。強烈な雷が何度も落ちていることも分かった。


リオはレオンの腕の中で涙が止まらない。


(どうしたら・・?どうしたらいいんだろう?村長の・・神の怒りを鎮めない限り、この世界は終わりを告げる)


しかし、唯一村長の怒りを鎮められるイーヴはもうこの世にいない。彼女がバラバラにされて雲散霧消するのをこの目で見た。


『イーヴさん、イーヴさんが居てくれたら・・・』と泣きじゃくるリオをレオンは抱きしめて落ち着かせようとした。


***


その時、キラリと光る物体が空から飛んできてリオの手の中に入った。オリハルコンだ。


(どこに行っていたんだろう?・・・というか、いつから私の刃は自由に動けるようになったのだ?)


オリハルコンから白い影が現れた。久しぶりに登場するスタニスラフだ。彼は雲のような白い影を大切そうに胸に抱えている。


スタニスラフは霊魂なのに疲れきった様子で告げた。


『かろうじてイーヴの意識を捕まえた。しかし、大気に触れるとすぐに崩れてしまう。大気に触れない密閉容器はないか?』


リオはすぐにイーヴの羽根入り容器を思い出した。自分の意識が入っていた容器だ。きっと使えるはず。リオは即座に左手から密閉容器を取り出した。


(えっと、まずイーヴさんの羽根を取り出さないと駄目だよね・・・)


虹色に輝く美しい羽根を取り出し、丁寧に左手の巾着袋に戻しながら何かが頭に引っかかった。


でも、『早く!』とスタニスラフに急かされて慌てて密閉容器に白い影を入れる。白い霞はバラバラになっていてイーヴの痕跡はない。


(イーヴさんの意識がこんなにボロボロになっちゃった・・・)


リオは悲しくて再び涙が出てきた。レオンはリオの傍にピッタリと寄り添っている。


「リオ、さっきイーヴの羽根を見ながら何を考えていたんだい?」

「いや、何か思いつきそうだったんだけど忘れちゃって・・・」


年を取るとよくあるのよねと、前世を思い出しながら頭を掻く。


レオンは首を傾げた。


「君は人間の毛や爪にもDNAが含まれるって言ってたけど、羽根にはDNAは入っていないのかい?」


レオンの言葉でリオは頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。


(入っている・・・微量だけど間違いなく鳥の羽根にはDNAが入っている・・・)


村長は髪の毛にDNAが含まれることを知らなかった。だから、羽根にDNAが入っていることを見過ごしたのかもしれない。


だって、DNAさえあれば・・・・・体が作れる!


リオはレオンと顔を見合わせた。レオンも事態を把握したようだ。


「できるんだな?」


という質問にリオは思いっきり頷いた。


「魔力さえ足りればですけど・・・物凄い沢山の魔力が必要になると思います・・」


レオンは「任せろ」と言って立ち上がった。そして魔法の拡声器を使って、広場に避難している人たちに呼びかける。


「みんな、ここに居るのは『癒しの聖女』だ。彼女は神の怒りを鎮めるためにこれから魔法を使う。しかし、魔力が足りないんだ。魔力のあるものはどうか協力して欲しい。彼女に魔力を提供できるように、皆で手を繋いで魔力を送ってくれないか?」


レオンの声にあちこちから『癒しの聖女?』『本当か?』『本物だよ、見たことある!』という声がさざ波のように広がった。


リオはイーヴの羽根を持って立ち上がると思い切り魔力を籠めた。レオンがリオの肩に手を置いて魔力を供給する。温かい魔力がリオの体に注ぎ込まれる。レオンの手を別な人が握って魔力を送る。広場に避難していた多くの人が次々と手を繋いでいく。魔力のバケツリレーのように次から次へと魔力が送られていった。


リオが握っている羽根から強い光が発生して、見ていた人たちが「おおっ!」っという声をあげた。羽根はぶるぶるっと震えると、羽根の付け根の部分からぶにゅぶにゅっとした肉塊が発生する。


(よし!でも・・・ものすごい量の魔力を消耗する。イーヴさんの体を作れるほどの魔力ってどれくらいなんだろう?)


足りないかも・・と思った瞬間に、桁外れに高い魔力が流れ込んできた。振り返るとセイレーンの村人たちも手を繋いでリオに魔力を供給し始めていた。


(セイレーンは魔力が高い。良かった!)


羽根から発生したぶにゅぶにゅが徐々に人の形になっていく。以前イーヴに見せてもらったホログラムを必死で思い出す。イーヴの姿を脳内でイメージした。


『どうかイーヴさんの身体を再現できて、イーヴさんが甦りますように』と祈り続ける。


『どうか間に合いますように。村長の怒りが鎮まりますように』という願いも籠めた。


少しずつ、少しずつ肉塊が人の形になり、銀色の髪が生まれる。同時に三対六枚の羽も生えてきた。


(やった!あともう少しだ。魔力は足りている。みんな、ありがとう!)


ようやくイーヴが完全な形になった。リオが力を抜くとイーヴの身体はドサリと地上に落ちる。当然彼女は裸なので、慌てて左手から服の着替えを出し手早くドレスを着せた。


男性陣は紳士なので全員背中を向けてくれた。近くにいた女性たちがリオを手伝ってくれる。羽があるからドレスを着せるのも難しい。ドレスの背中に穴を開けたので多少時間はかかったけど、なんとかイーヴの身体にドレスを着せることができた。


残りはイーヴの意識をこの体に入れられるかどうかだ。リオはイーヴの意識が入った容器を取り出した。


さっきスタニスラフが連れてきた時よりもボロボロ感が少なくなった気はする。少しは回復したと思っていいのだろうか?


一応スタニスラフに相談してみよう。そう思ってオリハルコンに声をかけたが全く無反応だ。リオは溜息をついた。


(絶対にスタニスラフは私を主君だと思ってないよ!)


仕方がない。リオは容器に向かって『お願い。イーヴの意識が元気になりますように!』と一心に念じた。


気のせいかな。若干だが白い霞が濃くなったように見える。


リオが思い切って容器を開けるとさっきと違い、ちゃんとイーヴの形になった白い影が現れた。


リオに向かってニッコリ笑うと、白い影はイーヴの口の中から身体に入っていった。


誰もが息を詰めてイーヴの身体を見つめる。静寂が広場を包んだ。


しばらくするとピクピクと瞼が動き、イーヴの美しい瞳が開かれた。青く澄んだ瞳がリオを映している。




・・・・・・・・よっしゃあああああああ!




リオはガッツポーズだ!ガッツポーズしながら涙がポロポロと溢れる。レオンが「よくやった!」とリオを背後から抱きしめた。


イーヴは信じられないというように、手を握ったり足や羽根をさすったりしている。


リオもこの奇跡が信じられない。イーヴは四万年の時を越えて甦ったのだ!


イーヴはひとしきり自分の体を確認した後、涙ぐみながらリオに抱きついてきた。


「リオ、リオ、ありがとう!確かに私の体だわ。羽もある!信じられない!」


抱き合って喜ぶ二人にレオンは申し訳なさそうに話しかけた。


「すまない・・・でも、時間がないんだ。村長の怒りを鎮めないと、この世界は終わってしまう。彼の怒りを鎮められるのはイーヴしかいない」


広場にいた人々も必死に目で訴える。


イーヴはしっかりと頷いた。


リオは左手から村長の羽根を取り出すと、レオンとイーヴと一緒に村長の元に転移した。


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