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【完結】狭間で俺が出会ったのは、妖精だった  作者: 紫羅乃もか
間章②団内個人戦トーナメント開催!
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決勝

いよいよ、最終決勝戦の幕が上がる。


 第1試合、第2試合を見事に勝ち抜いたスミレと――

 あまりの圧倒的な実力により、準々決勝からそのまま決勝入りを果たした、美穂。

 まるで対照的な二人が、いま、中央の広場で相まみえる。


 観客席の蓮は、思わず息を呑んでいた。

 どちらも、何度も見てきた仲間のはずなのに――

 この瞬間の彼女たちは、まるで別人のように、眩しく見えた。


 美しい、と思った。


 白と青。静と動。月と太陽。

 相反する二つの存在が、今、同じ舞台の上に立っている。

 その姿はただ戦っているのではなく、何かを届けようとしているようだった。


 スミレの白い髪が風に揺れ、柔らかに笑みを浮かべている。

 美穂の海色の瞳がきらめき、鋭く前を見据えていた。

 どちらも美しく、どちらも強く――それでも、全く違っていた。


 リリスは腕を組み、少し身を乗り出して呟く。


「……これ、女の戦いってやつじゃん」


「え?」


「蓮をめぐって、女同士の情がバチバチに飛んでんの。あんた、少しは自覚しなさいよね……」


「え、俺……関係あるの……?」


「めちゃくちゃある!!」


 リリスの叫びも届かぬまま、静寂のなか――笛が鳴る。


「美穂ちゃんと、決勝なんて……少し、信じられないわね」


 スミレがぽつりと、いつもの穏やかな声で言う。

 その声には、どこか柔らかな驚きと嬉しさが混じっていた。

 まるで、昔の記憶をそっと振り返るような優しさ。


「私もよ。あなたがここまで残るなんて、思わなかった」


 美穂の返答も、どこか冗談のようで、でも本気だった。

 少し口の端が上がって、けれど瞳は真剣だった。

 彼女の瞳には、波立つ感情が隠れている。

 エルフらしい透明感を持ちながらも、彼女は――誰よりも「今」を生きていた。


 二人は、同じように微笑みながら、距離を詰めていく。

 だがその歩みには、一切の油断も隙もない。

 微笑みの下には、確かな意志があった。


 スミレは微笑みながら、すっと足を前へ出した。

 その仕草は、まるで舞のように優雅で、余裕を感じさせる。

 風に揺れる髪、袖の先、足運びの柔らかさ。すべてが一枚の絵のように洗練されている。


「美穂ちゃん、きっと私はあなたに勝てないわ。けれど、この機会、無駄にはしない」


 スミレの声は、どこまでも穏やかで、それでいて真剣だった。


 美穂はその言葉に眉を寄せる。


「当然よ」


 風が舞う。二人の周囲に魔力が立ち昇り、火花が走る。

 スミレの放った水の精霊が、美穂の光の障壁に弾かれる。

 それはまるで、水面に落ちる陽光のように、儚くも鮮やかだった。


「ねえ、スミレ。あなたには、好きな人っている?」


 後ずさるスミレの眉が、ぴくりと跳ねた。


「言ったでしょう?私はみんなのことが好きよ?」


 スミレの花が舞った。

 柔らかく、けれど確実に、美穂の周囲を囲む。

 それは戦術というより、芸術だった。

 火と水の精霊、花の魔法――繊細で温かく、守るための力に満ちている。


 蓮の目には、まるで花園の中心で舞い踊るようなスミレの姿が映った。

 幻想的で、どこまでもやさしい。

 ただ強いだけではなく、包み込むような美しさがそこにあった。


「そう。じゃあ、蓮のことは?」


 そう言いながら美穂は魔法陣を展開する。

 彼女の動きは、スミレと正反対だった。

 鋭い。速い。鋼のように一切の揺れがない。


 光と闇の魔力が直線を描き、スミレの精霊たちと交錯する。

 その軌跡は、まるで夜空に線を描く彗星のように鮮烈だった。


 スミレは悪びれもせず、白い指先で髪を払う。


「私、まだ自分の気持ちが全部わかってるわけじゃない。でもね――

 蓮の隣に立つ時、恥ずかしくない自分でいたいって思ってるの。それが何なのかは、まだ分からないけれど!」


「……!」


 美穂の魔力が揺らぐ。

 それは、怒りでも憤りでもない――嫉妬だ。

 スミレのまっすぐさが、胸を刺す。


「……あなたって、ほんと余裕そうに見せるのが得意ね」


 美穂が一歩前に出る。瞳に、はっきりとした意思が宿る。


「でも私は、……誰にも譲る気なんか、ないから!」


 その言葉と共に、光と闇が交錯する魔法がスミレに向かって走る。

 スミレは花の盾を展開し、軽やかにかわす。

 盾が弾けると同時に、色とりどりの花弁が舞い、闇と光を一瞬、飲み込んだ。


 蓮の胸がどくんと鳴る。


 まるで舞台のラストシーン。

 ヒロインともう一人のヒロインが、それぞれの想いを剥き出しにして戦う――たぶん、もう二度とこんな光景は見られない。


「……すごいわね」


 スミレは、少し驚いたように呟く。


「こんなにまっすぐ、誰かを想えるなんて……」


 そして――ほんの一瞬。

 彼女の中で何かがほどけた。

 まだ自分の気持ちに気づいていない。でも、きっと――


 “この胸のあたたかさ”が、答えになる日が来るのだろう。


 花と光が交差する、華やかな戦場。

 まるで舞台のような美しさに、観客席は静まり返る。


 やがて、ふっと風が止んだ。


 スミレの防御が遅れた――その一瞬。

 美穂の光の魔法が、彼女の足元を穿つ。


 スミレの体が、ぐらりと揺れる。


 次の瞬間――笛が鳴った。


「勝者――美穂!」


 大きな拍手が広がる中、スミレは軽く笑って頭を下げた。

 美穂は一歩近づき、手を差し出す。


「ありがとう、スミレ。……私、あなたのおかげで、ちゃんと自分の気持ちと向き合えた」


「そう……よかったわ」


 二人は握手を交わし、静かに微笑み合った。

 観客席で、リリスはため息をつく。


「はぁ……やっぱ女って怖い」


 蓮はまだ、状況を呑み込めていない。


「俺、なんか……見られてた?」


「バッチリよ。あんたの心の持ち主が、いま争われたの」


「……なんだその物騒な表現……」


こうして騎士団員の試合は幕を閉じた。


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― 新着の感想 ―
あぁ……応援していたスミレが……。 (´;ω;`) でも、スッキリとした良い決勝戦でした。 恋の決勝戦は逆にドロッドロの泥仕合を期待します! (´ε`)
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