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【完結】狭間で俺が出会ったのは、妖精だった  作者: 紫羅乃もか
間章②団内個人戦トーナメント開催!
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準決勝

 準々決勝が無事に終了した。

 観客席に戻ったミネルは相変わらずの無表情だったが、それでもどこか、微かに――ほんの少しだけ、楽しげな雰囲気を纏っていた。


「ミネル、お疲れ様」


 蓮が声をかけると、ミネルは眉間に皺を寄せながら言う。


「身体に“痛みに近い反応”が出ている。早く修復を済ませたい」


 それでも、視線は訓練広場に向けられていた。


 蓮の目も自然とそちらに向く。そこにいるのは、連戦で挑むタオの姿――

 そして、その正面でふわりと笑ったのは、白い髪の少女だった。


「まさかタオと戦う日がくるなんて思わなかったわ」


 陽光に揺れる髪。柔らかな微笑みとともに、スミレがタオの前に立つ。

 その仕草一つ一つが、無自覚ながらも見る者を引き込む。


 ――準決勝、第1試合は、タオ vs シェリー。


 広場にざわめきが広がる中、観客席ではリリスが息を呑み、蓮と目を見合わせた。


「ちょ、見てらんないんだけど……」


 兎耳をしょぼんと垂らしながら、リリスがいじけたように呟く。


「なんか、ムズムズするのよ、あの二人見てると……!」


 蓮も苦笑する。


「スミレ、自然に甘えるっていうかさ。あいつらって、信頼で繋がってる感じするよな」


 リリスは頬を膨らませた。


「……純粋っていうか、悪気がなさすぎて。タオもあれ、満更でもない感じするし……」


 そして――笛が鳴る。

 スミレは一歩前に出て、朗らかに笑った。


「タオ、よろしくね。楽しみにしてたわ」


「お、おう……手は抜かねぇからな?」


 そう言いつつ、タオはどこか目をそらす。

 正面から向き合うスミレの瞳は、まっすぐで、濁りがなくて。


「タオは、私に本気では攻撃できないと思うの。……私も、できる自信ないけど」


「お前な……」


 スミレはふわりと首を傾げて、悪気も駆け引きもなく、言う。


「だって私、タオのこと、好きよ?」


 ――観客席の蓮とリリスが、同時に叫んだ。


「「はあああああ!?!?」」


 スミレが魔力を展開すると、ふわりと白い花が咲いた。小さな火の蝶、水の羽が彼女の周囲を舞い始める。

 その所作は、まるで踊るようだった。


「頼むから、そういう誤解される発言やめてくれっ!」


 タオが魔法をかわしつつも、足取りはどこかおぼつかない。


「あら? どうして? 本当のことなのに」


「いや、だからってだな……!」


「だって私は、団のみんなのことが大好きだし。タオは特に……」


「あーー!もういい!いつもの“みんな大好き”モードな!わかったから!」


 二人の間には、殺気ではなく、どこかあたたかな空気が漂っていた。


「……なにこの空気……やわらかすぎでしょ……」


 リリスの声は、低い。


「ていうか“好き”って言ったよね?ねえ!?告白したよね今!?」


 蓮も必死でツッコむ。


「おい!“家族みたい”って前言ってたよな!?こんな戦い方するか普通!?」


「……兄妹が戦闘中に告白風味の魔法撃つわけないでしょ!!!」


 タオは距離を取り、苦い顔をする。


「お前、ほんとにもう……戦いにならねえよ……!」


 スミレはきょとんとした表情を浮かべた。


「あら? 本気で来ていいのよ? 私、ちゃんと受け止めるわ」


「……くっそ、真っ直ぐ言われると否定しにくいんだよな……」


 リリスの心の声が漏れる。


(これ、私……完全に空気負けしてる……)


 そして、戦闘が少しずつ加速する。

 スミレの魔法が小さく爆ぜ、タオがすぐに回避。砂煙が舞う。


「……ごめんね、ちょっと当たっちゃったかしら……?」


「当たってねーよ!だからそういう“心配そうに謝るの”やめろっ!」


 砂煙の向こう。

 タオは額の汗を拭いながら、深く息を吐いた。


「……お前さ、マジでなんなんだよ……」


 スミレは小首をかしげる。


「なにか、変なことしたかしら?」


「全部だよ」


 呆れたように言って、タオはふと笑った。

 ああ、もう。

 こんなんで――どうして、本気になれるってんだよ。

 花の魔力に包まれたスミレの周囲は、どこか柔らかく、温かかった。

 攻撃の意志はあるはずなのに、どこまでも優しくて、痛みすら拒んでくる。

 ――こんなの、傷つけられるわけねぇだろ。

 次の瞬間、タオは構えていた手をすっと下ろした。


「悪い、シェリー。俺、ここまでにするわ」


 スミレが、ほんの一瞬だけ目を瞬いた。


「え?」


 静寂が広がる中、タオははっきりと言った。


「降参だ。……これ以上、お前に爪は向けられねぇよ」


「……っ」


 その言葉に、観客席がざわめく。笛が鳴り、審判の旗が上がる。


「勝者――シェリー!」


 歓声が上がる中、スミレはそっとタオのもとへ歩み寄った。


「……ごめんなさい。私のせいで、戦いづらかったわよね?」


「……違ぇよ」


 タオはスミレの頭にぽんと手を置いた。

 その手は優しくて、少し照れたようで。


「お前と戦えて、楽しかったよ」


 スミレは少し驚いたあと、ふわりと笑った。


「そう……よかったわ。私もよ。ありがとう、タオ」


 柔らかな風が吹いた。

 二人の間に、殺気はなく、ただ信頼だけが残っていた。


 一方、観客席では、リリスが腕を組みながら――うんうん唸っていた。


「……これ、あれだよね。タオの好感度爆上がりイベントだよね……?」


 蓮は少し引きつった笑みを浮かべた。


「たぶん……でも、スミレは気づいてなさそう」


「で、タオも鈍感すぎて自覚ないってわけ!?」


 リリスの耳がぴょこぴょこと揺れる。


「……どっちももう、どうしようもないくらい“純粋バカ”なんだわ……」


 そう呟いた彼女の目は、ほんの少しだけ潤んでいた。


 次に戦う相手は、美穂。

 広場を歩きながら、スミレは振り返る。


「タオ、応援してちょうだいね」


 その一言に、タオは軽く手を振った。

 どこか、くすぐったそうに――それでも、誇らしげに。 訓練広場の片隅で、白い吐息が静かに宙に溶けていく。

 

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― 新着の感想 ―
そのような結末の流れになるとは……。 二人の関係も少しずつ変わってきていますけど、変わらないものもあるんですね〜。 (*´ω`*) 決勝も楽しみ! (╹▽╹)
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