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妹の身代わりに泉に身を投げた私、湖底の神の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中


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1、引きこもり令嬢

 【完結】妹に代わり泉へと身を投げた結果 (https://book1.adouzi.eu.org/n2136ja/)という、以前投稿していた作品を改稿したものとなります。

 以前の作品に恋愛要素を大幅に加えております。また途中から話の流れが前作とは全く違う流れです。エピローグも現段階では、以前の作品と全く異なる予定です。

 上記作品を読んでいただいた方も楽しめるような作品になっておりますので、是非ご覧ください。

「エーヴァ、君がいなくなることなど私は考えられないよ」


 初対面の時の無愛想なアダンはどこへ行ったのやら……私は彼に後ろから優しく抱きしめられる。

 腕の中で身じろぎする私は、段々と頬に熱が籠るのを感じる。羞恥心も手伝って彼の拘束を抜けようと、小刻みに動くのだけれど……彼はさらに腕の力を強めた。まるで私を逃さない、とでも言わんばかりに。


「愛しているよ、エーヴァ」


 これは私も何か言わなければ、手を離してもらえそうにない。この状態を他の人に見られるのが恥ずかしいのである。

 ここは彼の執務室。今は幸い人がいないとはいえ、彼の使用人や文官の者が頻繁に訪れるのだ。


 こうなってしまうと、彼は私が愛の言葉を告げるまで話さないのが定例だ。けれども、私はまだ自分の感情を言葉にすることに慣れていないため、狼狽えたり、照れたりしてしまうのだ。

 

 他人に見られるか、愛の言葉を紡ぐか――。

 

 私は意を決して言葉を紡ぐ。

 

「はい……私も、今、とても幸せですわ……」


 『愛してる』の言葉は照れが勝ってしまい、まだ言えなかった。それでも私は、彼に喜んでもらいたいと思ったので、私なりに言葉にしたつもりだ。

 私の言葉を聞いて、アダンの拘束が一瞬緩んだ……と思いきや。

 その後、更に抱擁が深くなった。どうやら、私の言葉が非常に嬉しかったらしい。


「あー! アダン様! エーヴァに抱きついてる! ずるいよー! 僕だって!」


 ――最終的にアダンに離してもらうことができず、ノアに見つかってしまった。彼にも抱きつかれ……その姿をアダン付きの文官に見られてしまい、赤面したのは言うまでもない。



 **



 公爵家の長女でありながら、使用人に「物置令嬢」「引きこもり令嬢」と呼ばれる私、エーヴァ。そんな彼女が屋敷の奥にある物置から本邸に呼び出されたのは、数年ぶりのことだった。

 

 目の前には実父である公爵と継母、異母妹が座っている。

 私の顔がひどく癪に障るのか、公爵は顔をしかめて私を睨みつけていた。そして継母と異母妹は、使用人よりも見窄らしい服を着ている私を見下しているようだ。

 公爵は私と喋ることすら拒否したい、と言わんばかりの表情で話し始めた。

 

「数百年ぶりに神託が降りた」

「神託とは……伝承にあるあの……?」

「そうだ。それ以外あるわけなかろうが。お前は馬鹿なのか?」


 私の回答が公爵の神経を逆立てたのだろう、彼は唾を飛ばしながら声を荒げる。その様子を見た継母は、下品な表情を隠しもせずにニタニタと笑っている。

 公爵に毛嫌いされている私を満足げな表情で見ていた異母妹は、公爵の肩に優しく触れた。

 

「お父様、仕方がないわ。お姉様は能無しなのですから」

「おお、リリス。お前は優しい子だね……」

「あの子には猿でも分かるように優しく伝えてあげましょうよ」

「ああ、そうだな……」


 私を嘲笑いながら家族愛を見せつける三人。私の歪んだ表情を見たいのかもしれない。けれども、私にとって彼らの行動はそよ風であり、私の心は石なのだ。弱々しい風がいくら吹いても石が動かないように……私の心は微塵も動かない。

 表情の変わらない私を見て、三人は一様に眉間に深い皺を刻んでいる。私の心が動じないことを察した公爵は、早く私を物置に戻らせることを優先することにしたらしい。


「そうだ。昨日、王宮にある教会の女神像から神託が降りたと我が家に通達が来た。その通達は、『妹を聖務者として命ずる』というものだった」

「聖務者に……?」


 私はその言葉を聞いて、王国の伝承を思い出す。


 王宮内には『女神の泉』と呼ばれる場所がある。

 そこは初代国王と側近達が、泉に顕著した女神と出会った場所と言われていた。

 

 初代国王は建国の許可と守護を求めたところ、女神から『神託で名前を上がった者は、聖務者として泉に身を投げよ』という条件がつけられたのである。最初は拒否していた初代国王であったが、身を投げた者は丁重に扱うと言う話を聞き、初代国王は了承。そして今日まで王国は発展し続けたという話だ。


「聖務者は一ヶ月ほどしたら王宮へ上がり、その後泉に飛び込む必要がある。何故お前でなく、リリスなのか……」

「私の可愛いリリス……」


 継母は涙を流して異母妹を抱きしめる。そんな光景を後ろで控えていた侍女や執事達は、布で涙を拭いながら聞いていた。

 二人の様子に温かな視線を送っていた公爵は、次に私を見ると目を細めて睨みつけた。

 

「本当に忌々しい……何故可愛い娘が生贄にならなくてはならないのだ、と私は思ったのだ。それでだ、リリスの代わりにお前が生贄として泉に身を捧げろ。背格好も似ているし、入れ替わっても問題ない」


 私がリリスの代わりに身を投げる……それもいいのかもしれない。

 彼らに反抗する気力など、とうの昔に消えている。物置に閉じ込められ、味のないスープと所々黒ずんでいるパンを食べるだけのこの状況から抜け出せるのなら……。

 

「感謝しなさいね? 私の美しい名前で呼ばれるのだから」

「本当ね。お前などリリスと比べれば薄汚いドブネズミのようなもの。私たちの役に立つ事ができる最後の温情よ」


 既に諦めの境地に至っている私は、「承知いたしました」と力無く答えると、リリスは声を上げて嘲笑う。


「お姉様は公爵家の汚点だもの。私に付いた悪評も死後の世界に持っていってくれるわ!」

「可愛いリリスを妬んでいる者が多いのよ。これで綺麗さっぱり、幸せな人生を送れるわね」

 

 異母妹の噂――我儘で欲しい物は手に入れないと気が済まない。そして極め付けには平気で人を傷つける。まあ、事実しか言っていないと思うけれど、公爵と継母はそう思わないらしい。

 私は何も感情が籠もっていない……冷めた目で彼らを見ていた。

 

 

 

 その日から、私の待遇は変わった。

 社交界の噂になっている『男遊びが激しく、だらしのない異母妹』に仕立て上げようと彼らは躍起になっているらしい。まず私を太らせようと、食事の量が今までの数倍に増やされていた。

 けれども今までパンとスープしか食べていない私が、いきなりフルコースの料理を出されても食べられるはずがない。

 半分ほど残して食事を終えたのだが、皿を下げにきた侍女は「旦那様の指示だ」と言って完食するまで無理やり食べさせるようになった。


 それだけでなく週に一度侍女が訪れ、私の身体をマッサージをするようになる。

 その侍女も「臭い」だの「鶏ガラ」だの嫌味や悪口ばかり言いながら、痛みを感じるほどの強さで身体を押すため、見えないところに痣ができてしまっていた。

 

 後は数日に一回だった身体の清めが毎日に変わったくらいか。

 物置に近い使用人用の扉の前に大きなワインの樽が置かれ、その中に水が入っている。私は毎日それに入るよう指示された。必要経費だと割り切っているのか石鹸も使うように指示され、以前よりも非常に綺麗な身体になっていた。

 

 それが一ヶ月ほど続いた頃――。


 物置の窓から外を見つめていた私は連れ出され、公爵達の前に立たされる。

 彼らは私を上から下まで舐めるように視線を動かす。そんな三人の行動を見ても、私の心は凪いだままだ。沈黙が場を支配する中、最初に声を上げたのは公爵だった。


「ふむ、こいつに少しでも金をかけるのは嫌だったが……あの時よりは大分マシになっただろう。これなら入れ替わった、と言われても気がつかないだろうな」

「これなら上手く進みそうですわね、お父様。……お姉様、喜びなさい? 私が昔着ていたドレスを下げ渡してあげる」

「ああ、生贄なのだから宝石類はつけさせないわよ? お前になぞ勿体ないもの」


 ニタニタとした笑みで私を見下す三人。私は「仰せのままに」と告げて静かに頭を下げた。

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