第29話 ゲームの才能
「九条先輩。これ、どんなゲームでしょうか?」
バイトから帰って来ると、有名な落ち物パズルゲームを持ちながら愛梨が尋ねてきた。心なしかわくわくしているように見える。
どうやら部屋の掃除中に見つけて気になっていたらしい。
最近彼女はRPGをやり込み終えて一段落したので余裕ができ、いいタイミングだからと湊に聞いてきたようだ。
「それは落ち物パズルゲームだな」
「パズルですか」
「ああ、二人で対戦も出来るから、教えながらやってみるか?」
「はい、やってみたいです」
一真が湊の家に一昔前の携帯ゲーム機を置いていったので、湊のものと合わせれば教えながらできる。
湊の分のゲームを引っ張り出し、何回か対戦しながら愛梨に操作方法と多少のコツを教えた。
「結構難しいですね、かなり頭を使います」
「最初から出来たら苦労しないからな。こういうのは慣れと、後は他の人の動きを見るのも大切だ」
愛梨は結構苦戦しており、悩ましそうに顔を顰めている。
RPGは最初に操作方法を教えて、後は一切手出しをしていなかったらかなり上手くなっていた。
なので、今回ももしかしたらすぐ出来るかもしれないと思ったが違うらしい。
湊と一真と百瀬の中だと対戦ゲームは百瀬が一番上手い、本能で動かすのが得意なので性に合うのだろう。
こういう考える系のものは湊が一番上手い。
一真はいろいろ手を出すのだが、基本的に湊と百瀬には適わない。あと多人数となると絶望的に運が無い。それでもめげないのは流石のメンタルだが。
湊の言葉を聞いた愛梨は顎に手を添えて考え込んだ。その後、いい案が思いついたというように、にっこりと微笑む。
「でしたら先輩の動かし方を見せてくれませんか?」
「それはいいんだが、参考になるかどうかは分からんぞ?」
「はい、構いませんよ」
この手のものは一人用モードもあるので見せるのは問題無い。
とはいえ、湊自身は得意だと思ってはいるものの別に極めるつもりは無いし、オンラインで対戦するつもりも無いので参考にならないと思う。
それでも構わないと言われたので、とりあえず一通り一人用モードを終わらせた。
その間チラチラと愛梨の様子を見ていたが、彼女は真剣な顔で画面を見ていた。いつも勉強している時より真剣だったかもしれない。
「なるほど、だいたい分かりました」
「え、見てただけだろ?」
「そうですね、まあとりあえず対戦しませんか?」
「ああ、いいぞ」
湊の動かし方を見ていただけで分かるのなら誰も苦労しないが、愛梨は妙に自信有り気に微笑んでいるので本当に分かったのかもしれない。
湊は怪訝な表情をしながらも、言われるがままに対戦をすると――
(なんだこれ、動きが違いすぎないか?)
先程対戦した時とは明らかに動きが違う。まさか本当に分かったと言うのだろうか。
だが愛梨が上手くなったとはいえこちらは経験者だ。負ける訳にはいかないので多少本気を出して勝った。
「むぅ、勝てませんか、本当に難しいですね。なかなか頭で思い描いた通りにいきません」
「そう上手くはいかないのが対戦だ」
愛梨は悔しそうにしているのだが、湊は正直なところ焦っている。
なにせほんの数回の対戦と、他人のプレイを見ただけでここまで上手くなったのだ。
あと何回か対戦すれば抜かれる可能性がある。
内心冷や汗を掻きながら平静を装って答えると、愛梨の方は納得がいかないのかムスッとした顔になった。
「もう一回、お願いします」
「分かった」
ここで湊が引くのは愛梨に悪いと思いもう一度対戦したが、更に上手になっていた。
なんとか勝ったものの、その後にまたもう一度とお願いされ、それを何回か繰り返した。
その結果――
「やった、勝ちました!」
「おめでとう」
ついに負けることになった。
対戦している最中にそうなるだろうとほぼ確信していたが、想像以上に早かった。
湊は途中から本気でやっていたのだが、それを上回る愛梨の上達の早さには驚きを隠せない。
もしかしたら彼女はゲーム全般に才能があるのだろうか。百瀬と対戦ゲームをさせた時が楽しみだ。
ようやく湊に勝った愛梨の顔は本当に嬉しそうで、満面の笑みを浮かべている。
こんなに楽しそうにはしゃいでいる姿を見れるのなら、負けた悔しさも無くなってしまう。
「では、もう一度です」
「え、まだやるのか?」
当たり前のようにもう一度と言われたので、思わず聞き返してしまった。
「当然です、まだ私の負け越しですから」
「いや、二ノ宮。普通は短時間でここまで上手くはならないんだぞ?」
「そうなんですか? でも楽しいんで、まだやりましょうよ」
どうやら自分の上達の仕方が異常だと思わないらしい。
対戦ゲームなどしたことが無いと思うので理解は出来るのだが、納得がいかない。
負け越している、という発言と先程までの湊への食い下がり方を見るに、愛梨は結構負けず嫌いなのかもしれない。
「分かったよ、遠慮しないからな」
愛梨が勝ち越すまで止めないのだろうなと湊はひっそりと溜息を吐き、楽しんでいる彼女の熱を冷ましたくないので提案を受けた。
とはいえ、とっくの昔に手加減などと言ってる場合では無くなっている。
「ええ、本気でお願いします」
その後、本当に愛梨が勝ち越すまでゲームを続けさせられた。
最後の方になると湊がほぼ負けっ放しになり、湊の小さなプライドは粉々に砕け散ってしまった。
「こういうゲームも楽しいですね」
「……ああ、そうだな」
楽しそうに微笑む愛梨を見ながら、どうすれば彼女の異常さを伝えられるだろうかと湊は項垂れた。




