表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/166

第12話 体調不良?

「二ノ宮、起きろ」


 朝、いつものように愛梨を揺さぶる。

 湊の動き自体は慣れたものだが、あまりにも可愛らしい愛梨の寝顔を見慣れる事は無い。

 ほんの少しだけ胸の鼓動が速くなるものの、無視して何とか叩き起こした。

 相変わらず起きてすぐの彼女は頭が働いていないのでボーっとしている。

 朝食を作りながら、のっそりと洗面所に向かうのを見ていると違和感を感じた。


(何だ? 何かが変だ)


 伊達に三週間以上一緒に生活していないので、些細(ささい)な変化はすぐに分かる。

 見た感じ顔は赤くなっていないので風邪では無いと思うが、何かがおかしい。

 そのまま横目で愛梨を観察していると、普段より明らかに溜息が多いし体がだるそうだ。これは何かしら体調が悪い可能性がある。


「二ノ宮、体調は大丈夫か?」

「……体調ですか? 普通ですよ」

「本当か? 具合が悪いとか無いか? 大丈夫か?」


 思いきって朝食を摂っている時に聞いてみたが、きょとんと首を(かし)げられた。

 先程は妙に体調が悪そうだったし、今も少し顔色が悪い気がするのだが気のせいなのだろうか。先程も返事に微妙な間があった気がする。

 愛梨の性格上、体調不良でも我慢しそうなのでもう一度聞いてみたのだが、穏やかな微笑みを向けられた。


「大丈夫ですって、何を心配してるんですか?」

「いや、何か違和感を感じるんだ」

「心配性ですね、何もありませんよ」


 何もない、普通だ。と言う愛梨だが不安が拭えない。

 とはいえここまで聞いても答えないということは、本当に何もないかもしれない。

 湊の取り越し苦労だったら良いが、一応釘を刺しておくべきだろう。


「分かった。体調が悪かったら無理せず言うんだぞ」

「はいはい、分かりましたよ」


 あまりしつこいと怒られそうなのでここら辺で止めておいた。

 呆れ気味に苦笑する愛梨の、湊への対応は本当にいつも通りに見える。


「言える訳ないでしょう、何で九条先輩は気付けるのかな……」


 湊が朝食の皿を洗っている時に何かボソッと言われた気がしたのだが、水音でよく聞こえなかった。


「すまん、何か言ったか?」

「いいえ、何も。先に行きますね」

「ああ、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 愛梨の方が歩くスピードが遅いので、基本的に彼女が出るのが先だ。

 これ以上気にしても仕方無いので、湊も片付けを終わらせて学校に向かった。

 




「お、あれ二ノ宮さんじゃん」


 教室で一真と話していると、愛梨を見つけたようだ。

 どうやら次の授業は体育らしい、彼女を含む一年生がグラウンドに集合している。

 まあ愛梨は目立つので見つけやすいだろうなと思い、何となくグラウンドに目を向けた。

 鮮やかな銀髪はすぐに見つかった、太陽の光を反射して輝いているようにも見える。

 しかし愛梨はグラウンドの端に向かっていく。どうやら見学するらしい。


(なんで見学? 体調不良じゃなかったはずだ)


 湊の頭に疑問が浮かぶ。

 朝もあれほど聞いたが何も問題無いと言っていたし、愛梨は運動も出来ると聞いているので休む理由が無い。

 けれど、体調不良でもないのに見学するようだ。


「あれ、二ノ宮さん見学なんだな」

「ああそうらしいな」

「ふーん、紫織が『二ノ宮さんは運動も出来る』って言ってたのにな、何か出来ない理由があるのかね」

「さあな、他人の事情なんて分からねえよ」

「確かにな」


 一真も愛梨が運動出来る事を百瀬伝いで知っているようだ。彼女が見学することを不思議がっている。

 二人して愛梨を見ていると数人の女子が彼女に話しかけた。

 表情はあまり見えないが楽しそうにはしておらず、眉を寄せて愛梨に何か聞いているようだ。

 周りの人も特に騒いでいないので、喧嘩(けんか)ではなくどうやら心配しているらしい。


(体調不良でもないのに見学していると女子が心配する? ……もしかして)


 その時ようやく閃いた。

 湊の答えは合っているはずだ。これなら確かに湊には言えないし、体育も見学するだろう。

 ようやく納得のいった湊は、メッセージアプリで愛梨に連絡した。

 (さいわ)い今日はバイトが無いのですぐに帰れるだろう、晩飯の買い物も湊が出来る。

 おそらく体育が終わったら見るだろうと思い、愛梨から目線を外した。




 

 放課後、家の近くのスーパーに向かった。

 最近は買い物を愛梨に任せっきりだったので、かなり久しぶりに感じる。

 先程までのメッセージアプリでのやり取りを思い出して湊は苦笑いになった。


『今日の晩飯は俺が作る、お前は大人しく家で待ってろ。食べたいものを教えてくれ』

『急にどうしたんですか? いつも通り私が作りますが』

『偶には作りたいと思ってな、いいだろ?』

『九条先輩がそう言う時は必ず何かあります、何があったんですか?』

『特に何も無いぞ。バイトも休みなんだし、今日くらいは作らせてくれ』

『納得できません』

『頼む』

『分かりました、帰ったら覚悟して下さいよ』

『了解。それで、食べたい物は何かあるか?』

『何でもいいです』

『なら米だけ炊いておいてくれないか?』

『分かりました』


 文面だけでは感情があまり分からないものの、どうやら相当ご立腹のようだ。

 百瀬も月一で機嫌が悪くなるのでそういう時は一真に任せている。朝は何とか取り(つくろ)っていたようだが、今日の愛梨は情緒不安定なのかもしれない。

 これは帰った時に問い詰められるなと湊は溜息を吐いた。

 確かに湊が突拍子も無く料理を作る事など無かったので怪しまれるのは分かるのだが、こちらとしても理由を言う訳にはいかない。

 

(普段何もしてないんだし、こういう時くらいは俺が作らないとな)


 スマホでこういう時の女性が何を食べるか検索して食材を買う。

 割と簡単に作れるようで、失敗もしなさそうだ。気づけて良かったと安堵(あんど)して家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ