38. 血族です
サーラ様とのお茶会を無事に終えて王宮に戻ると、心配と嫉妬の混ざった様子のオスカー様が全然離してくれなくて困った。サーラ様は確かに可愛いけども、やっぱりオスカー様が一番可愛いと思ってしまうのは妻だからだろうか。
普段通りの生活の中で、午前の王妃教育を終えてオスカー様の執務室で過ごす。大量の書類の中に、侯爵からの書簡があった。
「そうですか……」
ブランドン家との話がついたという内容だった。クリフを見習い騎士として迎え入れると共に、私を正式に一族の者だと認めると。認めると決めた上で、一度顔を合わせたいと。
突然現れて上からの権力で血族にしても、という話なのだろう。クリフはものすごくお父ちゃん似だから大丈夫だとは思うけど、でも。
「それってその、母は……」
「行かない」
実際はお父ちゃんが覚悟を決めたのだろうけど、ブランドン家からすればあまりいい印象はないだろうと思っていたから、安心する。お父ちゃんの死に嘆いていた姿を、一番隣で見ていた身として、これ以上傷ついてほしくはない。
「別に拒否することもできるが」
「いいえ、行きます」
心配そうなオスカー様を撫でた。ここで怯えを出していまえば、策略と権力で握り潰してしまうだろうから。
当日の馬車には先にクリフが乗っていた。田舎者丸出しではなく、ちゃんとした正装をしていて驚く。凄く様になっていて、見たことはないけど若い頃のお父ちゃんのようだった。
「クリフ、緊張してない?」
「姉ちゃんこそ、大丈夫?」
でも、中身はクリフ。姉想いで優しい良い子だ。里帰りするたびに自分が働くから戻ってきて欲しいと言ってくれていたのを無碍にしてしまって、悪いと思っている。馬鹿なこと言うんじゃないと叱りつけないで、ちゃんと説明してあげればよかった。
「色んなことがあったもの。この先何が起ころうと大丈夫な自信があるわ」
「……無理はしないでよ」
クリフが眉を顰める。お母ちゃんが中流家庭の奥様に気に入られてさっさと働き始めたという話を聞いて驚いている間に、馬車は伯爵邸の前についた。
王都近くだとは思えない、まるで要塞のような邸宅だった。実際は侯爵の方が辺境の防衛の要になっているわけだけど、この家の方がそれっぽい。
使用人に案内されて、応接間に通される。ドアが開いたと同時に軽くスカートを持ち上げて、片足を斜め後ろに引く。初対面ということもあり、より丁寧に頭を下げた。
「お初にお目にかか…………血族」
「……まあ正しい反応ではある」
顔を上げた瞬間、凄まじい破壊力だった。
クリフはお父ちゃんに凄く似ていたけど、一族全員似ているとは思わなかった。みんな目が赤くて、濃い金髪で、そして生命力に溢れていた。
「確認は取れた。あの馬鹿の子であり、私の姪と甥なのだな」
「え、ええと、はい」
一番偉そうな人はしれっとお父ちゃんを馬鹿呼ばわりした。否定はしないけど、随分と嫌われている。そのままクリフを睨んだ。
「君は……」
「クリフと申します。これからよろしくお願いいたします、ブランドン卿」
クリフが礼儀正しく頭を下げると、ブランドン卿が瞬きをする。どうやらクリフがお父ちゃんと同じような性格だと勘違いしていたようだ。
「……すまない、君たちにとっては父である者を悪く言った。私はどうにもアレが苦手でね」
「馬鹿な子ほど可愛いじゃないか。まさか逃げた上に子供なんて作るほどだとは思わなかったが」
「姉さんは私が受けたとばっちりを知らないからそう言えるんだ」
つらつらと語られるのは、お父ちゃんがやらかしたいたずらや破壊行為の尻拭いをさせられた話。身内としてとても申し訳ない所業ばかり。伯母様は聞き慣れているのか、右から左に全て流している。
話を聞く限り、伯母様が長女で、当主であるブランドン卿は弟らしい。後ろにいらっしゃる呆れた様子のお二人もおそらく伯父様。お父ちゃんが生きていたらおそらく年下だろうから。
「だからだな……」
これは娘としてどう反応すれば良いのだろうかと思っていたところで、コツン、と杖をつく音がする。
「お黙り」
後ろからお婆さんが現れたことで、全員黙った。凄い強さを感じる。
「あんた達が、私の孫かい?」




