25. ぼんやりしていました
ぼんやり目が覚めて、隣にはオスカー様がいる。脈を測るように手を握ったまま、椅子に座って寝ている。窓の外を見ると、一番新しい記憶ではお昼過ぎだったはずが、どう見ても朝。
いつのまにか天蓋付きベッドに移されていて、豪華な部屋にいた。
「うあ゙」
オスカー様が唸る。起こしてしまったのだろうか。
「お、はようございます?」
「……起きたのか」
凛々しい顔に、無精髭がポツポツと生えているのが新鮮だ。人嫌いで完璧な王子殿下の部分しか見たことがなかったから。
でも、そうか。婚約破棄されて、突然結婚して、王子殿下の妻になったんだった。
「妻……」
今までのことを思い出すとぼぅっとして、また眠くなってくる。まだ聞き出したいことが、たくさんあるのに。
……ああ、こういうことを繰り返しているような。
「なんだか、とっても……眠、く」
「間隔は長くなってきている。安心するといい」
頭にモヤがかかっているようだ。何か大事なことに気づけそうで、気づけない。
「私は、どれだけ寝ていましたか?」
「一ヶ月くらい、起きては寝てを繰り返している」
いっかげつ。思っていたよりも長かった。
「疲れが溜まっていたのだろう」
「そう、ですか」
オスカー様が言うのなら、そうなのだろう。だって、この人は。
「何か知っているのですか?」
私が倒れても、驚かなかった。この人だけ、どこか遠くを見ている。ぼぅっとしている今だけは、なんとなくわかる。
「どうだと思う?」
「どっちでもいい……」
そう伝えるとまた私の頭を撫でてくれた。
「アンナは、おとぎ話は好きか?」
「私だって、女の子だった時もありましたよ」
おとうちゃんが生きていた頃は、おはなしを聞きながら寝る日々だった。嫌いな人なんて、いるのだろうか。
「そうか」
だから、どうしてそんなに悲しそうな顔をするのかはわからない。でも知ろうとも思わない。
「起きたら、好きだって言って」
「わかった」
でなければ、現実だって忘れてしまう。
「好きだ。おはよう」
それからというもの、起きては好きと言われて寝るのを繰り返して、やっと長く起きていられるようになった。段々と良くなっている気はしていたから、そこまで怖くなかった。
「なんだか憑き物が落ちたような気分なんですよね」
パン粥を食べながら、そう伝える。やっと寝ずに食べ終わるようになった。今まではオスカー様に食べさせてもらっていたらしく、想像するとちょっと恥ずかしい。
「そうか」
オスカー様はどうでも良さそうだった。そんなことよりも私をじーっと見つめてきていた。根比べは、私の負けだ。
「な、なんですか?」
「僕ばかりが好きだと伝えていたが、君は僕のことが好きじゃないのか?」
「……わかってるくせに」
「言葉で聞きたい」
いじわる。
「好き、ですよ」
多分、侯爵邸にいた時から。あの侯爵が気づいていないはずもないから、私だけが気づいていなかった。言って欲しいと思うけど、言われたところで否定して、侯爵の方に好きな人ができたのではないかと詰め寄っていた気がする。
「ず、随分と寝てしまっていましたが、王妃教育とか必要なのでは?」
「まだ戴冠をするつもりはない。ゆっくりでいい」
そんなこと言われても、今まではお妃様がいなかったからしていなかっただけで、もうとっくにしていてもおかしくない……。
「まあ、いいか」
ゆっくりでいいなら、それなりに頑張ればいい。新しいことを覚えるのは得意だ。
「新婚だからな。アンナを愛する時間が欲しい」
「え」
そういえば、愛されるのはあんまり得意じゃなかったような……。
「めでたしめでたしの後にも、人生は続いていく。僕は、おとぎ話が嫌いだ」
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「僕だけが、この世界を知っている」




