入学式
とある、大きな建物の中。
広いその空間には、何人もの人が集まっていた。
前方の、他より高いステージの上では、年配の頭の寂しいおじさんが小難しい話をしている。
それを見上げるのは、同じような服装をした若い男女。綺麗に並べられた椅子に座っている。
その後ろでは、フォーマルな装いをした人々。何人かはカメラを構えている。
そう、今日は入学式だ。
あの後、俺は無事リビングドールを倒すことができた。ビッグコピー人形は強かった。
ただ、その日は代償が解除されるのを待って、すぐに帰った。気分的にけっこう疲れてたし。
次の日から昨日まで、ダンジョンで試行錯誤していた。
『氷結の呪い』でなんとかリビングドールを倒せないかとか。『人形の呪い』で腕だけ創れないかとか。『不思議の国の呪い』で、幼女姿から上手く成長させられないかとか。
成功もあれば失敗もあった。…正確に言うと失敗の方が多かった。
だがそのおかげで、色んな発見があったし、基本的な戦闘スタイルを固めることができた。
例えば『氷結の呪い』の代償による体温低下。これは人形化していれば、それこそ絶対零度まで体温が下がっても死ぬことはない。まあその状態で人間に戻れば死ぬが。そのため、カイロなどで暖める必要がある。
他にも『不思議の国の呪い』は、自分に使うのが最も代償が重く、次にモンスター、コピー人形、その他の順に軽くなっていく。質量や体積にもよるが、だいたいこのようになる。出力は変わらないのに、不思議なものである。
つまり敵モンスターを小さくするより、コピー人形を大きくして戦う方が代償が軽くすむ。
これをふまえて、俺の基本的な戦闘スタイルは、『人形の呪い』を軸にしたものに決まった。
ただ、移動手段は少し考えるべきかもしれない。今は、少し大きくしたコピー人形に抱えてもらっているが、戦闘の度にゆっくり下ろして座らせてもらわないといけない。これはちょっとカッコ悪い。
もう一体出せばいいと思うかもしれないが、すでに一体出してるのにそれもなんかなぁと。
いっそ車椅子でも買うか?そうすればコピー人形はすぐに戦闘に移れるし。…意外といいかもしれない。帰ったらさっそく値段を調べてみよう。
そんなことを考えているうちに、校長先生の長い話が終わったらしい。
これから各教室に行って、説明を受けたり自己紹介をしたりで終わりのはず。
自己紹介は無難に終わらせるつもりだし、説明だってどうせ同じことが書かれたプリントをくれるだろうから、てきとうでかまわないだろう。
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まずい。たいへんまずい。
何がまずいって?
そりゃあ…
「聖 雅之です!最近冒険者初めました!サモナーやってます!相棒は白いオオカミです!トゥウィッターやってるので、良かったら見てください!趣味は体を動かすこと全般です!」
同じクラスに冒険者がいたからだよ!しかも爽やかイケメンの!
これの何がまずいって、ダンジョンで鉢合わせる可能性があるってことだ。
別に冒険者であることがばれるのはいい。あまりおおっぴらに言うのがなんとなく気恥ずかしいというだけで、どうしても隠したいわけじゃない。
けれど戦闘を見られるのは別だ。人形(幼女)に変身するところとかクラスメイトに見られてみろ。気まずいどころじゃない。
だがこいつはまだいい。同性だし、性格も悪い奴では無そうだ。万が一見られてもスルーしてくれるかもしれないし、最悪頼めば黙っていてくれるだろう。
しかし…
「竜胆 彩愛。冒険者です。戦闘スタイルはバトルサモナー。趣味は空手。よろしく。」
こっちはダメだ。
まず女子である。この時点でもう絶対ばれたくない。
そしてなにより最も致命的なのが、顔がめちゃくちゃ良いことだ。つまりは美少女、それもクール系の。それこそ美幼女人形となった俺に迫るほど。物静かな雰囲気と相まって、すでにこのクラスでは高嶺の花認定されているはずだ。
だって俺もそう思うし。
こんな美少女に人形(幼女)に変身するところなんて見られてみろ。ゴミを見るような目で見られて『うわぁ』って引かれるかもしれない。
そんなことになったら俺の心は粉々だ。
だいたいなんで同じクラスに、冒険者が三人も集まるんだ。日本の総人口に対する冒険者の割合は、2000人に一人ぐらいだったはず。そしてこの高校の定員は、確か150人ぐらいだった。つまり新入生の中に冒険者は、いなくて当たり前。一人いればすごい偶然。それがたった30人しかいない1クラスに三人だ。俺じゃなくてもどんな偶然だと思うだろう。
ともかく、なんとかばれないように気を付けなくては。
ばれて特殊性癖の変態なんてウワサがたちでもしたらとんでもなくめんどくさい。
それで冒険者をやめるなんてことは絶対無いが、できれば平穏な学生生活を送りたい。




