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人形

 

まあどうしても嫌なら、ここのような人が少ないダンジョンを選んで活動すればいい。

それでも活躍するようになれば、世界でも数少ないαⅢスキル所持者ということで注目されるようにはなるだろうが、そんな先のことを今考えても仕方ない。それにそもそもすぐに挫折してそんなこと言えなくなるかもしれないんだ。今は気にせず、目標に向かっていくべきだ。


 俺がつらつらとそんな風に思考を巡らせていたときだ。


 カツン…カツン…カツン…


 何か硬質な物同士がふれあうような音が響いた。

 一瞬何の音かよくわからなかったが、理解した瞬間俺はその方向へからだごと視線を向けた。もちろんまだ人形化は解けていないので、スキルを使ってだ。


 そこにいたのは、ヒト型をした白っぽい何か。しかし顔にあたる部分はのっぺりしており、かろうじて目や鼻の凹凸がわかる程度。

 主要な関節こそ曲がるようになっているが、手足の指はなく板、もしくはスプーンのようになっている。

 マネキンというには精巧さに欠けたそれの見た目は、まるで人間大のデッサン人形。


 こいつはいったい何か?

 もうお察しの人もいるだろう。

 こいつはこのFランクダンジョン───『マリオネットダンジョン』に出没するモンスター、『リビングドール』だ。…名前が安直すぎるとか言ってはいけない。

 こいつの特徴はとにかく固いこと。代わりにとろくて力も弱い。

 それに第一層なら同時に二体以上と遭遇することはまず無い。落ち着いて対処すれば大丈夫、なはず。

 だからまあ心配いらないだろう。


 突然初戦闘となってしまったが、ある意味ちょうどいいかもしれない。

スキルを手に入れ、ある程度何ができるか把握できたが、実戦でどこまで使えるかためしてみたかったところだ。

 というわけで…


(『氷結の呪い』!)


 リビングドールから熱が奪われ、絶対零度近くまで冷える。

 表面には霜が降り、ただでさえ白っぽいリビングドールがさらに白くなる。

 …勝ったな。

 と思ったが、リビングドールは変わらずこちらに歩いてくる。あるぇ?

 いや、少し動きがぎこちなくなったか?元々動きがトロイよくわからん。


 というか、人形を凍らせても意味無いよな。生物じゃないんだから。俺馬鹿じゃん。

 まあすぎたことは仕方ない。なぜかそんなに寒くないし。


 出しっぱにしてた俺のコピー人形(金髪碧眼美幼女バージョン)を向かわせる。

 …俺、ずっと無駄に『不思議の国の呪い』と『人形の呪い』発動し続けてたんだなあ。代償の消化終わらないじゃん。

 とにかく、ささっとあいつを片付けてしまおう。

 さあコピー人形ちゃん。やっておしまい!

 コピー人形選手、リビングドールの股間を…殴り付けました!リビングドール、傷一つつかない!

 あるぇ?

動きは止まったし、多少揺らいではいるけど、ひびすら入ってないんだけど。


 …ああ。重さ、ぜんぜん違うもんなあ。

 コピー人形はだいたい130センチあるかどうか。それに対してリビングドールは、だいたい2メートルぐらい。でかくね?本当に大人と子供ぐらいの体格差だ。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。今この状況をなんとかしなければ。

 まあ、もうすでに1つ方法は思いついている。『人形の呪い』の出力を上げればいい。体格の差を覆す程にパワーを上げれば、とろいリビングドールならどうとでもできるだろう。

 ただ、代償の人形化時間はできるだけ延ばしたくない。最悪、人形化したまま家に帰らなければならなくなる。それは嫌だ。

 せめてコピー人形が幼女でなければ…。なぜ俺は、『不思議の国の呪い』を発動しっぱなしにしてしまったんだ。よく廊下の電気を消し忘れるお父さんじゃないんだぞ。

 まあ、元の俺もギリギリ170センチだ。どっちにしろリビングドールの方が背が高い。


 仕方ない。検証も満足にできていないが、使うしかないだろう。


(『不思議の国の呪い』!)


 リビングドールを小さくしてみた。だいたいコピー人形と同じくらいに。これで大丈夫だろう。

 コピー人形がリビングドールをぼこぼこにしてる。ただ、やはりかなり固い。ひびを入れてそこからひびを広げていくように壊していってるのだが、そのひびを入れるまでが長い。弱点である核が収納されているはずの胸部は、ひびすら入れられない。やっぱり出力を上げた方がいいだろうか?いや、でもなあ。

 俺は油断しきっていた。もう勝った気でいた。そして、敵はこいつだけしかいないと思いこんでいた。

 一度に二体以上と出会うことはまず無いとはいえ、無いわけではないのだ。


 カツン…カツン…

 カツン…カツン…


 俺の耳に、コピー人形がリビングドールを殴る音に混じって、その音が聞こえてきた。

 気づけば、新たにリビングドールが二体近づいてきていた。おそらく、戦闘音に引かれてやってきたのだろう。その証拠に、俺の左後ろ方向から来ていた一体は、俺を素通りしてコピー人形に向かっていっている。もう一体は正面方向から来てた。…なんで俺気づかないかなあ。

 とにかくちょっとまずい。一体にすら手間取ってるのに、さらに二体来られたら手に余る。

 とりあえず小さくして、時間を稼ぐ。

 今まで石にしかやってなかったのに、モンスター相手に立て続けに使っている。しかもちゃんと把握できていない『不思議の国の呪い』を。代償がどれだけ積み上がってるのやら。


 まあそれは後だ。人形化がこれより延びるよりはましだろう。さて、どうしたものか。

 やはり問題はコピー人形が軽すぎることか。リビングドールをさらに小さくすることもできるが…いや待てよ?


(『不思議の国の呪い』)


 コピー人形を大きくしてみた。だいたい倍ぐらいに。うん、最初からこうすれば良かったな。

 みるみるリビングドールが壊されていき、すぐに胸から、拳大の赤い石が出てきた。弱点の核だ。それを砕くと、リビングドールは光の粒になって崩れるように消えていった。後に残ったのは、ビー玉ぐらいの青く光る石。魔石だ。

 ダンジョンのモンスターは、倒すとほとんどがこのようにして消えていく。

 動画などではよく見ていたが、直接見るのは初めてだ。


 と、感動してる場合じゃない。

 残りも速く片付けないと。





 

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