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人形の呪い

 

「ぶぇっっくしょいっ!」


 ダンジョンに、俺の盛大なくしゃみが鳴り響く。

 いやー、調子に乗って『氷結の呪い』を使いまくってしまった。おかげでアイス食いまくった時みたいに、体の芯から冷えてしまっている。霜焼けにもなりかけたし。

 まあ、おかげでかなり感覚をつかめた。どれくらいの範囲までなら無理できそうとか、これくらいの範囲なら連発できるな、とか。

 あと、温度の調節はほとんどできない。空気が固体になってたのが、全力で手加減して液体になったところで止めるのが限界。これはギルドの情報にもあったのだが、俺ならできたりしないかな~とちょっと期待してたのでちょっと残念。


 それから、ギルドの情報にあった裏技もためしてみた。それは代償で体温を奪われる場所を指定できるというもの。普通に使うと全身からまんべんなく奪われるのを、例えば腕からだけ奪われるようにできたりする。まあ奪われる体温の総量は変わらないから、うっかり加減を間違えると凍傷になったりする。俺は霜焼けになりかけた。


「よし、次だな。」


『氷結の呪い』はとりあえずもう十分だと思う。

 だから別のスキルの練習に移ることにした。

 次に試すスキルは、【αⅢ09】『人形の呪い(カースオブドール)』。

 このスキルは『氷結の呪い』と違い、先人の情報が無い。それにあらゆるスキルの中で、色んな意味で最も凶悪と言われるのがこの『αⅢ(アルファタイプスリー)』に分類されるスキルだ。性能も、代償も、他のスキルとは趣がかなり異なる。

 俺の持っているものを除きこれまでに12個の『αⅢ』スキルが確認されているのだが、うち9個の持ち主は悲惨な最期を迎えたらしい。…まあ、ワールドチェインスタンピード時でのことなので、当たり前と言えば当たり前かもしれない。残り3個?ここ10年くらいで出てきたらしいけど、あまり情報が無い。


 つまりはただでさえ情報が少ないのに、使う前から扱いずらいことだけは確定しているという。

 まあなんとか他の『αⅢ』スキルの情報を参考に、手探りでやっていくしかない。


 まず、このスキルは人形を創り、操るスキルだ。

 これだけだとピンとこない人もいるかもしれない。

 まず人形を『創る』という部分。これは二通りの方法がある。まず、何かを人形に変えるという方法。生き物だろうが無機物だろうが、モンスターだろうが、このスキルなら強制的に人形に変えることができるらしい。時間経過で人形化は解けるみたいだが、半永久的に人形化させることもできる。これだけでもものすごく強い。

 そしてもう一つの方法は、スキルの力で創られた人形を複製する方法。こっちは俺もよくわからない。たぶん分身の術みたいな感じだと思う。

 それから『操る』っていうのは、そのままの意味。ラジコンを操作するみたいに、創った人形を自在に動かせる。


 かなり強く、応用の幅も広い。これだけならすごく優秀なスキルで終わる。だがこれは呪いのスキルとも言われるαスキル。その中でも特に凶悪とされる『αⅢ』だ。もちろん厄介な代償がある。

 それは、”使うと一時的にだが自分も人形になってしまい、さらに使えば使う程人形でいなければならない時間が長くなる“というもの。

これこそ、俺が人目を避けた理由の一つ。人目のあるところで人形なんかになってしまえば奇異の目で見られることだろう。

 まあ不可逆でないだけましだが、下手すれば一生人形でいなければならなくなりそうだ。

 …さっきみたいに調子に乗らないようにしよう。


 というわけで慎重に試していくことにする。


「『人形の呪い』!」

 …ガシャン


 うん。そうだよね。これはその考えに至らなかった俺が悪い。

 何が起きたかというと、まず俺はまた石に向かってスキルを発動した。これは成功した。ただの石が、人形(ひとがた)に変わるのを見たから。

 そしてその瞬間、俺も人形に変わった。そして当たり前だが、人形は一人で動けない。動けないということはバランスも取れない。そのまま俺は倒れてしまったというわけだ。

 その後すぐに人形化は解除されたが、痛みは無い。人形の体が頑丈なのか、人形化した時のダメージは持ち越されないのか。まあこれはそのうち調べてみようと思う。

 人形化させた石を見てみる。…どうやらすでに戻ってしまったらしい。次は半永久的に人形化させてみる。


 地面に座り、水筒などを入れたリュックに軽くもたれかかる。これでさっきみたいに転倒することはないはず。


「『人形の呪い』!」


 石はさっきと同じように人形(ひとがた)になる。

 感覚的に、さっきの十倍以上力をこめた感じ。

 さっきは5秒ぐらいで俺の人形化は解けたが、10秒経ってもまだ戻らない。

 ちなみに、人形になっても五感は生きているらしい。いや、味覚は死んでてもわからないな。口開かないし。

 そういや俺、今どんな見た目してるんだろ。司会の端に映る自分の手は、球体関節になっている。おそらく主要な関節も、球体関節になっているのだろう。なら、顔はどうなってるんだろ。よくあるマリオネットみたいな感じなんだろうか。…それはなんか嫌だな。不気味だし。できればビスクドールみたいなのだったら嬉しい。しまったな、鏡を持ってくれば良かった。

 ちなみに球体関節は、姿勢を維持できるくらいには固いらしい。

 そんなことを考えているうちに、人形化が解けて動けるようになった。石は…まだ人形になってる。おそらく成功したんだろう。


 次はこの石人形のコピーを作ってみる。


「『人形の呪い』」


 石人形の隣に、そっくりな石人形が現れる。成功。

 増やしてみる。1個、2個、3個…複数個出しても問題無さそう。石を人形化させた時よりもあまり力をこめなくていいし。


 次は動かしてみる。

 まずはオリジナルの方。

 ムクリと起き上がり、スクッと立ち上がった。そしてラジオ体操をし、コマ○チからのアイ○ン。

 全部俺の想像どうりだ。力もほとんどこめてない。

 コピーも同時に動かしてみた。問題なくできた。ただ、同じ動きならともかく違う動きをさせるのはかなり難しい。右手と左手で違う文字書いてるかんじ。

 なのでチュ○チュ○トレインさせてみた。最初はただ同じ動きをしていただけだったのが、徐々にずらしていき、最後にはきれいなチュ○チュ○トレインができていた。…何やってんだろ俺。






 

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