氷結の呪い
次の日、俺はダンジョンに来ていた。
昨日手に入れたスキルを、さっそく試すためだ。
ちなみに昨日、紫のランダムオーブを買うことを秘密にしていた俺は、初めてそのことを両親に話した。
最初は呆れたり、ギャンブルはやめろと注意されたりしたが、最終的にはおめでとうと祝福してくれた。
再度絶対安全に気を付けて、慎重に行動するよう言われたが。
俺は反省も後悔もしていない!
嘘ですごめんなさい。反省してますほんとに。
まあというわけで、気を取り直してやっていこう。
現在俺がいるのは、ダンジョンの中で最も数が多く、最もリスクの少ないとされるFランクダンジョン。
ランクは上からSABCDEFとなる。
主に魔素濃度を基準としているらしい。魔素はダンジョンに満ちる謎エネルギーだ。ダンジョンはこの魔素を用いてダンジョンを維持したりモンスターを創ったりしているとされる。実際、魔素濃度が高いダンジョンほど広く、モンスターも強くなる傾向にある。
他にも罠が仕掛けられていたり、生物が生存困難な環境になったりと、ランクが上がれば上がる程凶悪さは増し、攻略は困難になる。
しかしその分うまみもある。
ダンジョンから取れる資源の1つに、魔石という物がある。これは魔素が結晶化したもので、様々なものに利用されている。ほとんどの国が魔石を燃料に発電しているくらいだ。
そしてこの魔石、高ランクダンジョンほど質が良く大きいものが取れやすい。もちろんその方が高く売れる。
希少な魔道具が手に入る確率も上がる。
他にも、モンスターを倒すとまれにそのモンスターの姿が写された紙を落とすことがある。これはサモナーズブックを使うことで、そのモンスターを召喚、使役することができる。強いモンスターほど高く売れるし、サモナーなら自分で使ってもいい。
さて、俺が今いるFランクダンジョンだが、『人形のダンジョン』と呼ばれるこの近辺では最も人気の無いダンジョンだ。
Fランクダンジョンは、うまみが少ない変わりに危険も少ないことが利点だ。そのため、新しく生まれたモノ以外は初心者育成のために残されているモノがほとんど。利用価値の無いダンジョンは早々に消滅させられるためだ。
このFランクダンジョンも、そんな初心者のために残されたダンジョンの1つだ。しかし初心者でこのダンジョンに来る冒険者はほぼいない。
それにはいくつか理由がある。
まず一つ、手に入る魔石がショボい。最低ランクならあたり前じゃないかと言われるかもしれないが、ここの魔石は特にショボい。どのくらいショボいかというと、Fランクから取れるものなら1個平均500円くらい。なのだが、このダンジョンから取れる魔石は最大でも500円。ほとんどは100円くらいの価値しかない。
二つ、出現するモンスターがものすごく固い。
これは柔軟性が無いという意味ではなく、防御力が高いという意味だ。ここのモンスターは力が弱く、動きもとろいのだが、とにかく固いのだ。まず初心者が揃えられる戦力程度では、傷をつけられるかも怪しい程に。
三つ、階層ごとの敵の数の差が大きい。
このダンジョンの構造は、最もオーソドックスな階層型。つまりは何層かに別れているタイプで、ここは三階層に別れているそうだ。
入り口がある一番上の第一層は、ものすごくモンスターが少ない。数十分歩いて、一体見つけれるかどうかだ。それなのに第二層へ行くと、いきなり複数体同時に出てきたりする。さらに第三層ともなれば、見渡す限りモンスターだらけ。
第一層だけなら、スキルの試し打ちなどの使い道があるかもしれないが、それならもっと適した環境のダンジョンが駅から近い場所にある。
まあそんなわけで、立地など他にも様々な理由があるが、おおよそこの三つの理由からこのダンジョンには滅多に人が来ないのである。
ちなみにこれらの情報は、全て冒険者ギルドが無料で公開している。さすがに詳細な地図などの情報は有料だったが、それでも太っ腹である。
さて、それではなぜ俺がこんな超絶不人気ダンジョンに来ているのか。
別に目立ちたくないとか、孤高に活動したいとかの中二病みたいな理由ではない。
ここに来たのはスキルの試し打ちのために来たのだが、俺の持つスキル他人に見られると少々不都合があるため、恐らく人が来ないだろうここでやることにしたというわけ。
まずは【αⅡ022】『氷結の呪い』。俺の持つスキルの中で、唯一先人の残した情報があるスキルだ。
そうしたスキルの情報は、冒険者ギルドのサイトなどから無料で閲覧できる。
スキルは、取得した瞬間に使い方や大まかな効果などは頭に情報が流れるようになっている。しかし詳細はわからないため、そうしたサイトなどで自分で調べる必要がある。
このスキルは、指定した範囲の熱を、絶対零度近くまで消し去る効果がある。しかも範囲の上限はほぼ無限で、かなり調節もきくらしい。めちゃくちゃ強い。しかし使うと自分の体温もうばわれてしまう。さすが呪いのスキルと言われるだけあって、下手すれば死につながりかねない代償である。
ただ、Fランクモンスターを一体凍死させる程度ならせいぜいちょっと寒いぐらいで済むらしいので、多用しなければ大丈夫だろう。
というわけで。
「『氷結の呪い』!」
まずはためしに目の前の石に向かって発動してみた。
別に口に出す必要は無いのだが、なんとなくだ。
白い霜が、うっすらと石を包み込んでいる。
代償の方は、一瞬涼しくなったような?
まあ石1つ分くらいなら、代償もたいしたことないようで安心した。




