表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

即死

 明くる日。

 今日から本格的に高校が始まる。ちょっとドキドキする。

 まあ、実際はそんなに中学と変わらないだろう。ほどほどに人付き合いをして、平均点が取れるぐらいは勉強して。

 それに前よりは俺が冒険者であることを隠す必要も薄れてきた。

 何せ影武者ができたからな。ヒントは先日倒したボス、ドールマスターからもらった。ドールマスターはリビングドールにボスを演じさせ、自分はただのリビングドールのふりをしていた。あれと同じようにドールマスターを俺に擬態させて俺は操られているだけのただの人形のふりをすれば、端から見れば俺はただの美幼女人形使い。何も問題は…いや多少ましなだけで全然問題あったわ。

 まあ、前より全然ましなのは確かだし、例えバレてもこのモンスターがたまたま手に入ったとか安かったとか色々言い訳はできる。うん、問題無いな。

 だからまあ、自分から言いふらすことはしないが、聞かれたら普通に話すぐらいでいいか。下手に隠すとやましいと思ってると言ってるようなもんだしな。


 そんなことを考えていたら、教室についていた。ガラガラっと引戸を開けて入る。一瞬何人かの視線がこっちを向くが、すぐに外れる。いきなり全員に挨拶をする勇気もないので、軽く誰にともなく会釈をして自分の机に座る。

 さて冒険者の二人は…まだ来てないようだな。と思ったところでガラガラッという音とともに。


「おはよう!」


 元気な挨拶が教室に響いた。すげえな、俺には絶対に真似できない。入ってきたのはお察しの通り、冒険者の一人である聖。陽のオーラが見えるようだ。

 クラスのみんなもはおはようと返しているし、なんなら数人とさっそくおしゃべりを始めている。すごいコミュ力だ。

 そんな風に聖に感心していると、またもやガラガラという音とともに一人のクラスメイトが。

 もう一人の冒険者、竜胆だ。聖のように派手な挨拶をすることもなく静かに自分の席へ向かっていく。

 そんな竜胆に聖が声をかける。


「竜胆さん、おはよう!」


 ぺこ。


「今、林さん達に冒険者のことについて話しててね、良かったら竜胆さんも参加しない?」


「遠慮しておく。」


「わかった。じゃあ今度良かったら、冒険者同士情報交換も兼ねて話をしようよ。」


 コク。


「ありがとう。じゃあ後で!」



 聖すげえな。あんな塩対応されておいてそれでも顔色1つ変えずにあんな風に話しかけられるとは。

 さすが真の陽属性は違う。にしても竜胆さん、見た目どおりクールな人だなあ。

 戦い方もクールなんだろうか。氷の遠距離攻撃とかしてきそう。いや、そういえば空手やってるとか言ってたし、意外とゴリゴリの近接主体なんだろうか。もしそうだとすれば、召喚モンスターの方が遠距離型かもしれないな。まあそんな戦い方する人かなり少数派だろうし、さすがにないか。


「ねえねえ、ダンジョンインシデントって、見たことある?」


 俺が考えを巡らせていると、少し気になる話題が。


「いやー、俺は無いなあ。あれすごいレアな現象だし。あ、でも最近この近くのダンジョンで起きたらしいよ。幸い、そのダンジョンを攻略中だった冒険者がすぐ報告したから大事には至らなかったらしいけど。俺はまだまだ半人前だから、万が一巻き込まれたらけっこうヤバいね。」

「へー、そうなんだ。」

「やっぱり冒険者って危ないことも多いんだね。」


 この辺で最近起きた異変といえば、おそらく先日俺が報告したやつか。Fランクの、それもすぐに消滅させられたダンジョンの異変なんてニュースでも一回放送されるかどうか。聖、さっきも竜胆さんを情報交換に誘ってたし、情報の大切さをよくわかってる。まあなんでもそうだが、特に冒険者は情報が命。それは教習所でも叩き込まれるが、ちゃんと実践してるのは素直に尊敬する。

 おっと、ホームルームの時間だ。一限の準備でもしてようかな。




 そんな感じで、特に何事もなく日は過ぎ、あっという間に週末が来た。

 ほんの5日だが、高校にも少しずつ慣れてきた。それなりに話が合う相手も見つけられたし、順調ではなかろうか。

 というわけで、冒険者業(こっち)も充実させていこう。

 今日は新たなFランクダンジョンに挑戦する。今回挑むのは、『山犬のダンジョン』というその名の通り犬型モンスターが多く出現するダンジョンだ。地形は山、というよりはいくつもの小高い丘が連なっている感じ。

 犬達は吠えながら向かってくるので奇襲の心配は無いが、これまで相手してきた人形と違いかなり素早い。注意が必要だ。


 だが俺が何より注意しなければならないのは、このダンジョンの環境やモンスターではない。それは、準備中(・・・)を絶対に他の冒険者に見られてはならないということ。見られてしまえばせっかく用意できた影武者が意味をなさなくなってしまう。

 本当は家で準備を済ませて来たいのだが、諸々の事情でそれは断念せざる終えなかった。

 それは親に幼女人形姿を見られたくないとか、公共の場でスキルを使ったりモンスターを召喚してはいけないとか色々ある。だが何より、そもそもモンスターはダンジョンの外ではまともに活動できないのだ。それにはおそらく魔素が関係しているのではないかと言われているが定かではない。


 まあとにかくそんなわけで俺はダンジョンで準備、つまりはドールマスターを俺に擬態させて、俺は幼女人形に変わるというのをしなければならない。

 だがこの山犬のダンジョンは、人形のダンジョンと違い人がそれなりにいる。隠れてこそこそ準備を整えるのは無理がある、と思っていた。だがなんと言い感じに人に見られないだろう場所があった。それはダンジョンの入り口から少し離れたところにある窪地の様なところ。ここなら入り口からも死角になる上、モンスターもまず現れることが無いため安心だ。



 で、準備を終えたのだが、なんというか、あれだ。

 実際にやってみると絵面がなかなかに間抜けというか、滑稽になってしまった。シュールともいう。

 何せ、巨大な幼女人形に男子高校生がお姫様だっこされているという状態だ。しかもそのとなりにはもう一体の幼女人形(俺)が。

 完璧な作戦だと思ったのだが、思わぬ落とし穴が。これでは前とあまり変わらないじゃないか。一体何がダメだったのか……

 あーあれだ、やっぱり幼女人形にだっこされてるのがダメなんだ。持ち方がダメなのかとだっこからおんぶに変えてみたが、むしろ悪化したな。これが例えば、車椅子とかに座ってるならそんなにおかしい感じはしないだろう。…しないよな?


 帰ったら車椅子を買うべきだな。

 ちょっと前にも車椅子を買おうとしたのだが、ダンジョンでも使える頑丈で悪路にも強いタイプだとかなり値が張った。

 だが今の俺には先日の報酬の残りがある。ギリ足りるはずだ。

 ついこの前お金は大事に使うべきだと言われたばかりだが、これは必要経費だ。問題ないだろう。


 そんなわけで帰ろうかとも思ったが、せっかく来たのだし少しぐらい探索しようと思う。できればモンスターも倒しておきたい。

 他の冒険者に今の状態を見られるのは正直嫌だが、このまま手ぶらで帰るのもなんかなあ。

 後はまあ、操り人形にされて動く感覚に慣れたいとか今まで全然使えてなかった『氷結の呪い』もちゃんと性能を確かめたいとかもある。

 指定した空間から熱を奪うこのスキルは、対生物においては抜群の殺傷力を持つはずだ。それを今までは無生物を相手にしていて発揮できなかった。

 そろそろちゃんと使ってみたい。

 というわけでさっきから探しているのだが…

「ワオーーーン!ワンワンワンワン!」


 お出ましだ。思ったよりけっこう速いな。あまり指定範囲を狭くすると外れるかもしれないな。

 そこそこ広めにして

(『氷結の呪い』!)


 その瞬間、さっきまでやかましく吠えたてながらこちらに向かってきていた犬型モンスター『ワイルドドッグ』は唐突に沈黙。慣性によって走っていた勢いのまま前に転がった。そしてすぐに消滅し、魔石をドロップした。


 呆気ない。正直予想してはいたが、呆気なさすぎる。これならたぶん、生物系のモンスターが相手なら無双できるんじゃないだろうか。

 しかも普通ならこのスキルは、使いすぎれば体温がどんどん低下し死にかねないリスクがある。それが俺の場合は人形の体だ。冷えてもカイロやらなんやらで暖めればいい。

 今更ながら、思っていた以上にとんでもないスキルを手に入れてしまったかもしれない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ