消滅
結局、あれから二時間も待ってようやく人形の呪いの代償が終わった。
不思議の国の呪いの方は、最後にボスをちっちゃくしたのがかなり重かったのかなかなか戻りそうになかったので、仕方なくそのままギルドに連絡した。
最初に出てくれたのが、俺のスキルのことを知ってる植田さんだったお陰で面倒なことにならずにすんだ。俺の声、幼女のそれにしか聞こえないからな。
そんなわけですぐに調査が入る事になり、俺はギルドに呼び出されて事情聴取みたいなことを一時間以上受けた。しかも幼女の姿で。
幸い対応してくれたのがまたもや植田さんだったからまだましだったが、それでもかなり恥ずかしかった。
あー、それともう一つ。ギルドに寄ったついでに今まで手に入れた魔石なんかのドロップアイテムの査定をお願いした。
大量に手に入った魔石は合計6万ぐらい。そのうちボスの魔石は3千円ぐらい。もちろん売却した。
それからリビングドールのモンスターページ。実は2枚だけだがドロップしていて、2万で売れた。極低確率でしかドロップしないとはいえ、100体以上も倒せばさすがにドロップする。むしろあれだけ倒して2枚しか出ないと言うべきか。最後にボスからドロップしたのはかなり幸運だったな。
そして最後にそのボスのモンスターページ。Eランクなら10万はするし、Dに近い評価ならそこからウン十万。あのボスにはそこそこ苦戦させられたし、かなり高い査定がされるのではと期待していた。
「こちらは、12万ですね。」
12万。十分大金であるし、新人冒険者が数日で稼ぐ金額としては破格も破格。だが無駄に高まってしまった期待でなんとも言えない微妙な気持ちになってしまった。しかも査定額の説明を聞いたことで、より気分が沈んだ。
何でも、このドールマスターは蓄えている魔素の量だけならDランクにも引けを取らないらしいのだが、保有しているスキルに問題があるらしい。
それがこちら。
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【十糸の人形操り】十本の糸を使い、人形を操る。
【傀儡強化】操っている人形を強化する。
【不動の足】足が動かない。
【非力】力が弱い
【内緒話】近くにいる相手と他人に聞かれずに会話ができる。
【擬態】触れた対象に擬態する。
【声帯模写】聞いた声を完璧に模倣する。
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まず【十糸の人形操り】。普通に悪くないスキルに思えるが、これを使うにはまず人形を用意する必要がある。しかも普通の人形ではまともな戦力にはならず、最低限ダンジョン産の素材で作った人形が必要だが、費用対効果が釣り合わない。そのためマイナス評価にはならないが、プラスにもならない評価となった。
次に【傀儡強化】。先に紹介した【十糸の人形操り】の欠点をある程度補えるスキルではあるが、『操っている人形』しか強化できず元が弱ければ大した効果は発揮できない。これも評価はプラマイゼロ。
そして【不動の足】と【非力】。これは語るまでもなく明確なマイナススキルだ。思えばボスも歩いていなかったし、直接攻撃してきたりもしなかった。ボスのように待ち構える方ならともかく、ダンジョンを探索しなければならない冒険者にとっては致命的だ。ドールマスターの強みである頑丈さまでは低下しないのが救いと言えば救いか。
それから【内緒話】。遠くの相手にも声を届けられるならとも核このすきるはせいぜい手が届く範囲ぐらいでしか使えない。正直使い道が思い付かない。よってプラマイゼロ。
最後に【擬態】と【声帯模写】だが、はっきり言ってダンジョンの探索にはまず必要の無いスキルだ。まだ【不動の足】が無ければやりようがあったかもしれない。精度で言えばかなりのものらしいのだが、残念ながら評価はプラマイゼロだ。
そんなわけで、辛うじてEランクとしては最低価格に近い金額になったと言うわけだ。
それで俺は、何というかこのドールマスターのモンスターページを売るのが惜しくなった。なんせこのドールマスター、俺のスキルとの相性がすごく良い。人形を作るのは俺がやって、操るのはドールマスターにやってもらえばいい。そうすれば俺は代償をかなり小さく抑えることができる。
まあ、とは言ってもサモナーズブックが無ければ召喚できないので意味がないのだが。いつかは手に入れたい。
その日はその後すぐに帰った。帰るころには代償の消化も終わっていて、なんとか両親に見られずに済んだ。まあみられてもあの二人なら軽く流してくれるだろうが、むしろそれが辛いというか。
うん、見せるのはしばらくいいな。
それから三日後、あれからしばらく俺はダンジョン攻略を休んでいた。かといって何もしていなかったわけではない。次にどのダンジョンに潜るか考えたり、どうにかサモナーズブックを安い価格で手に入れられないか調べたりしていた。成果はあまりなかったが。まあそんなものだろう。コツコツ貯金していくしかないか。
それより明日からの学校の準備でもするか。とりあえず冒険者の二人は注意するとして、あとはまあ無難に?。
まあなんとかなるだろう。
そんなわけで家でゴロゴロしていたのだが、ギルドから連絡が来た。
何やらあのダンジョンのことについて色々話したいことがあるのでギルドに来てほしいとのこと。
できるだけ早い方がいいということなので、特に用事も無いし今日行くことに。
そしてギルドに来た俺に対応してくれたのはまたもや植田さん。あまり緊張しなくて済みそうだ。
そんな植田さんから聞かされたのは、あのダンジョンを消滅させることになったということと、それを俺に依頼したいということ。
詳しく話を聞くとどうやらあのダンジョンは異変により難易度がワンランク上のEランク相当になったものの、取れる魔石の大きさは変わらなかったりと、残すことにメリットが無くなったのだとか。Eランク相当では新人育成用にも使いづらい。
そこでもう消滅させてしまおうとなったらしいのだが、それを誰にやってもらうかが今度は問題になったのだという。Eランク相当のダンジョンなのだから普通は複数のEランク冒険者かDランク冒険者に依頼すればいいのだが、問題は第三層の迷路とその先のボスだ。調査では二人のEランク冒険者と一人のDランク冒険者の三人が護衛を担当したらしいのだが、火力不足で三人がかりでも三層の突破が難航。
ダンジョンの消滅には攻略が不可欠。だがそれをするには人員の追加をしなければならないのだが、それでは費用が嵩む。時間をかければこのままの人員でもできなくはないが、それでは攻略を終える前に核が引っ込んでしまうかもしれない。
どこかにランクは低いが高い火力の持ち主はいないかとなり、俺に白羽の矢が立ったというわけらしい。
Fランクなので本来はあまりよろしくないのだが、俺はもう既にそのダンジョンを攻略している。ボスを除けば相性も悪くない。
それから報酬なのだが、なんと80万。これは第一発見者としての情報提供料も混みらしい。
というわけで俺はこの依頼を受けることにした。
まさかこんな早くサモナーズブックの分の金を手に入れられるチャンスが巡ってくるとは。
というわけでサクッとやって来た。第三層は相変わらずだったが、前よりはスムーズに行けたんじゃだろうか。それからボスも、前回は初見殺しに苦しめられたが今回は対策していたのですぐ倒せた。対策?最初から出力を上げた人形を突っ込ませる。やっぱゴリ押しよ。
そしてダンジョンコアを抜き取るのもやった。祭壇からコアを取るとダンジョンの壁や床にヒビが入って、次の瞬間一気に弾けた。そしたら黒い何もない空間に放り出されて、少ししたら地上に立っていた。事前に説明されてなかったら、すごい取り乱してた自信がある。だって知っててもすごく怖かったし。正直かなりビビってたけど人形状態だから、見届けに来てた植田さんには気づかれてないと思う。
それからギルドに行って、依頼達成の手続きをして報酬をもらった。そしてすぐにその金でサモナーズブックを買った。
これで俺はバトルサモナーになったわけだ。
さっそくダンジョンに行って試してこよう、と思ったが今日はもう遅い。今度の終末に行くとしよう。
で、家に帰って今日あったことを両親に話すとまた説教されました。自分で稼いだ金だからそれの使い道についてどうこう言うつもりは無いが、もう少し慎重にじっくり考えて行動するようにと。
全くもってその通りです僕が悪かったです。
とまあそんなわけで以後気を付けようと思う。
ちなみに報酬の余った残りは両親に渡そうとしたのだが、それは自分に使えとのこと。本当に良い両親を持ったと思う。




