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ボス

 そこを初めて見た感想は、白い。これにつきた。

 白く、広々とした四角い空間。大きさは、学校の体育館ぐらいだろうか。模様や飾りもない。強いて言えば、向かい合うように門が二つあるぐらい。その片方が、俺が入ってきた入口だ。ということはもう片方は出口だろうか。

 そして、その門の前に佇む存在。

 そいつはこれまでさんざん潰してきたリビングドールと似たような姿をしている。だが、粗末ながら黒衣を身に纏い、金属の輪を頭に乗せているそして何よりそいつの足元に跪く10体のリビングドールが、これまでの人形達との格の違いを如実に表している。

 ギルドにあった情報と同じだ。間違いなくこいつがボス、ドールマスターだろう。

 余裕からだろうか、こうして俺がこのボス部屋に入ってきても動きがない。


 歩みを進め、ボス部屋の中心付近まで来たとき、ようやくボスに動きがあった。いや、正確にはその足元で跪いていた10体のリビングドールに。

 カタカタと音を鳴らしながらゆっくり立ち上がったかと思えば、これまでの鈍さが嘘のように機敏に動き出した。

 しかも三体がボスの守りに残り、残りの七体が攻めるという明らかに連携を意識した動きで。さらにまとめて潰されないためか、広がるようにして向かってくる。今までは知能の欠片もないように、ただ突っ込むだけだったのに。


 正直驚いたが、冷静に考えればボスの取り巻きなんだからこれまでと同じな方がおかしい。それに速いと言っても、これまでと比べたらの話。たぶん、俺が走ったときとそう変わらないと思う

 だからまだ焦る程じゃない。

 落ち着いて対処するんだ。


 とにかく迎撃だ。今まで何体もリビングドールを潰してきたんだ。多少足が速いぐらいなら、なんとかなるはず。

 いつものように手を叩きつければ…あれ?潰れない。頑丈さも上がってる?まじかめんどくせぇ。

 て、とか思ってる場合じゃない!

 巨大人形の攻撃を逃れた他のリビングドールが、横をすり抜けて俺に向かってきてる!


(『人形の呪い』!『不思議の国の呪い』!)


 とりあえず、巨大人形を二体増やして俺の護衛をさせる。いちいち潰してたら俺に攻撃が届くかもしれない。だからとにかく、向かってきたそばから弾き飛ばす。て、ああ!さっき潰し損ねたリビングドールも向かってきてる!

 守りと攻撃の両立が難しい!

 守りを優先してたら攻撃に移れないし、攻撃しようとしたら防御がおろそかになる。

 どうすればっ!

 いや、こういうとき程慌てちゃだめだ。

 そう、こういうときは…一旦距離をとる!


 俺は一度リビングドールを大きく弾いた後、後ろに下がった。

 そして、さらに巨大化させ出力を上げた巨大人形に一体ずつ潰させた。

 無理せず安全マージンをとって追いつかれそうになったらまた距離を離し、一体潰し、なんとか7体のリビングドールを倒すことができた。

 次は、こっちが攻める番だ!


 ボスは、最初の位置から動いていない。しかも、攻撃部隊のリビングドールがやられている時も、守備に残らせたリビングドールを増援に回すこともなかった。あの時に10体同時に来られたら、もっとやりずらい状況になっていたと思う。やはり、多少は連携を取れると言ってもそこまで臨機応変な行動はできないらしい。

 だが、この状況は俺にとって好都合。


 あとは囲んでボコるだけ!


 そう意気込み、巨大人形達を向かわせた。

 手を振り上げ、後は一斉に振り下ろすだけ。しかしその瞬間、ピタリと巨大人形が動きを止めた。それどころか、俺の操作に抗ってリビングドール共々こちらに向かってこようとした。

 初めての出来事でテンパった俺は、とにかくなんとかしようと人形操作の出力を上げた。どうやら力業でどうにかなる事態だったようで、再び人形を操作できるようになった。でもまだ、なんというか抵抗感のようなものを感じる。また人形がいうことをきかなくなるといけないので、さっさとボスに手を叩きつけて握り潰した。

 それと同時に人形の抵抗感も消え、どうやらボスの仕業だったらしいと安堵する。

 良かった、人形が反抗してきたとかじゃなくて。

 しかも、ボスを倒したせいかボスを守っていたリビングドールも糸が切れた操り人形のように倒れこんで動かなくなった。いや、ようにではなく操り人形そのものだったのかもしれない。それが、ボスという人形使い(ボスも人形だけど)がいなくなったことで停止したとかだろうか。


 とにかく、無事ボスを倒すことができた。最後はかなりヒヤッとすることがあったし、今後の課題もみえた。けれどそれは今は置いておこう。俺はついに、ダンジョンを攻略することができたのだ。

 この人形の体では喜びを表現できないのがとても残念でならない。おそらく生身であったなら、「よっしゃあああ!!!」とでも叫んで跳び上がりながらガッツポーズするのを何度も繰り返していたことだろう。…やっぱ人形で良かったかもしれない。


 おっとそうだ、ボスモンスターのドロップアイテムもちゃんと回収しておかないと。

 なんせ初めて倒したボスだ。どうしても期待せずにはいられない。

 まあボスとはいってもFランクダンジョンのだ。換金額1万を越えたら御の字とでも思っておこう。


 そんなことを考えながら、さっきまでボスがいた場所に近づいていく。もう危険は無いだろうから、巨大人形は消してある。そこにあったのは、ボスが身につけていた黒衣と金属の輪、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これはおかしい。ダンジョンのボスは、そのダンジョンに出現する他のモンスターのワンランク以上上の力を持つ。そしてランクが一つも上がれば、魔石の体積は倍以上になる。

 それなのに普段のリビングドールと全く変わらない魔石がボスから出てきた。これが意味することはつまり…。


 そんなことを考えていた時だ。

 急に視界が回り、背中に衝撃を感じた。

 たぶん、地面に叩きつけられたのだろう。だがなぜ?敵は全て倒したはず。まさか、まだいるのか?

 そこまで考えたところで視界に、一人でに動く一体のコピー人形が。


また制御を奪われたのか。ということは、ボスはまだ死んでいない。

 とりあえず、コピー人形に追撃されてもたまらないので、コピー人形の出力を上げて無理矢理ボスの干渉を振り切る。だが、やはり抵抗感は薄れない。

 次に、状況の確認のため、もう一体コピー人形を出して俺を抱えさせる。制御を取り戻したとはいえ、さすがに操られた人形に抱えさせる程俺は度胸が無い。そしてこっちを操られるのは嫌なので、常に出力を高めにしておく。代償がどんどん蓄積しているが、今は気にしていられない。

 さて、それではボスがどこにいるか探さないといけないわけだが、普通に考えればそこで倒れているリビングドールのどれかがそうだろう。違ったら、また考えよう。

 とりあえず、なんとなくこいつっぽいと思った真ん中のやつを、コピー人形を巨大化し殴らせる。そしてどうやら当りだったようだ。他の二体がすごい勢いで飛び上がり、ボス(推定)を助けに入った。

 その瞬間、ボス(推定)の体が黒く染まり、体の大きさが一回り程小さくなった。そしてよく見ると、手にはしっかりと指が形成されている。

 これでほぼ確定か。まさか擬態能力まであったとは。そういえばさっき倒したボス擬きは、装備はともかく体はまったくリビングドールそのものだったな。

 だがこれで種は割れた。後はさっきやったのと同じことをするだけ。


 そう思っていたら、ボスが俺を指差した。かと思えば俺は、コピー人形の腕の中から抜け出し、ボスに向かって駆け出していた。一瞬何が起きたのかわからなかった。だがすぐに、俺が操られたのだと理解した。よく考えれば当たり前だ。コピー人形が操られたなら、俺も操られてもおかしくない。

 というかはやくなんとかしないとまずい。コピー人形はかなり頑丈だったから今の俺の体も滅多なことでは壊れないと思うが、だからと言って攻撃を受けたくはない。

 だがコピー人形で対処しようにも、新しく出すにしろ今出しているのを使うにしろ間に合いそうにない。ならば──


(『不思議の国の呪い』!)


 その瞬間、ボスとその取り巻きは人差し指程のサイズにまで小さくなった。それと同時に俺を操る力まで小さくなったのか、俺は派手に転ぶように転倒した。

 目の前には、超ミニサイズの三体のデッサン人形が。

 いくら小さくしたとはいえ、無防備な状態でいつまでもいたく無いので、速くコピー人形に抱え上げて貰おう。

 後は、ひたすら踏み潰すだけ。だがさすがはボスとその取り巻きと言うべきか、小さくしたのにそれでもかなり固い。特にボスの固さはすごかった。倒すのにそこそこかかってしまった。

 さて、咄嗟だったけどなんとか上手くいった。最後はなんとも言えない終わりだったが、これで今度こそボス撃破だ。








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