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地面から生えていた宝石の陰や、盛り上がった土の側。
この部屋の至る所から、合計12機のドローンが一斉に飛び立った。
「これは……」
周囲を飛び回るドローンを見つめる柳を後目に、結花が手を挙げてその中の1機を捕まえる。
「みなさん今日は。1年2組の水谷 結花です。政府が秘匿する場所からの生放送、楽しんでくれてますか?」
普段の放送と同じように、結花が弾けんばかりの笑みを浮かべていた。
(最高! 政府機関に抗議の電話かけまくってるよ! 結花ちゃんマジ天使!)
(防衛省の回線惰弱すぎ。つながらねぇよ)
(上層部の連中、ぬっころしに行こうぜ! で、そいつらどこに居んの?)
腕に身につけた時計にそんな文字が流れていく。
「マスコミも重たい腰をあげたっぽいぜ?」
ほれ、と将吾が掲げて見せた画面には、俺たちの生配信を背景に映すアナウンサーの姿があった。
『“力でこの世界を支配する”。“愚民の命を救えたところでなんになる”。などと、不穏な発言が目立ちます』
『ーー速報です。たった今入りました情報によりますと、防衛省の前に調査官を乗せた車が到着した模様です。現場と中継がつながっております。現場の鳥山さん?』
段ボールをもった男たちが一斉に建物の中に入っていく。
チャンネルを次々切り替えるものの、どの局も、俺たちの姿を映していた。
「まぁ、この状況で化物を止めれるヤツが居るなら、止めるわな」
「…………」
呆然とした様子で画面を見つめていた柳のポケットから、呼び出しを告げる音が鳴る。
「……はい、柳です」
小さな声を絞り出した柳の顔が、より一層青白さを増していった。
一言、二言つぶやいて、柳が右手を掲げる。
周囲で動きを止めていた化物たちが、その身を光らせて、ビー玉へと戻っていった。
スマホを額に押し当てながら、柳が高級スーツに身を包んだ膝を地面に付ける。
力の抜け落ちた瞳で、ぽんやりと地面を見続けていた。
「それで、どうするのかしら? あなたが撃たないのなら、私が殺すのだけど?」
「いや、いいさ。アイツの相手なんてしている暇は無いんじゃないかな?」
ふと振り向いた先に見えたのは、宝石の街から浮かび上がる3つの光。
「めぐみ……?」
「ただいま――!! って、キョウちゃん! ちょっと成長しすぎてない!? なんか、不公平を感じるんだけど!?」
「ふふっ、そうね。めぐみはちっとも成長して無いわね」
「あー、ひどーい。これでも大きくなったんだからね!? ……たぶん」
ピシリと抱きしめ合った2人を宇堂先生とネネが、優しい瞳で見詰めていた。




