<23>新生活2日目2
「……2度目はないわ」
もう1度強い殺気を撒き散らして、榎並さんがスカートをひるがえす。
左右に揺れるポニーテールの先では、クラスメイトたちが気まずそうに進路を開けていた。
出来上がった一本道を進み、彼女がゆっくりと離れていく。
「あーぁ、殺気立ってるねー」
入れ替わるように近付いてきた将吾が、隣に並んで肩をすくめて見せた。
「確かに昨日はオッサンだけが目立ってたからな。いやはや、人気者はつらいねー」
くくくっ、と声を漏らしながら将吾が彼女の姿を流し見る。
サッカーゴールの前を居場所に決めたのか、ポストに背を預けて腕を組み、彼女は未だに俺を睨み続けていた。
「銃で撃たれないのなら、何だっていいさ」
ふぅー……、と肩をすくめて、彼女から視線をそらす。
居心地は悪いが、俺に出来ることなど何もないだろう。
同じクラスのメンバーとして、背後から突然撃たれることはないと思いたい。
「高校生相手に脅されて現状を曲げるのは、大人としてどうかと思うからな。可愛らしい子の嫉妬くらい、正面から受け止めるさ」
「おっ、かっこいいね、オッサン」
隠れて冷や汗を拭う俺の肩を将吾が楽しそうに叩いていた。
そうこうしているうちに約束の時間となり、宇堂先生が校舎の影から姿を見せる。
「授業をはじめるぞ。全員で隊列を作れ」
その背後にはなぜか、全身を迷彩服でキメた2人の男がいた。
サバイバルゲームマニア? 自衛隊?
そう思いたくなるような出で立ちの2人だった。
宇堂先生も含めた全員が、体を包めそうなほど大きな袋を背負っている。
「今日は基礎訓練だ。まずは俺が手本を見せる」
宇堂先生が背負っていた袋の口を解いて、中に手を入れる。
引き抜かれたのは、カバーに入れられた1本のナイフ。
「これは国からの支給物だ。全員に配るが、取り扱いには細心の注意が必要になる」
そう声を飛ばしながら、カバーを外して中身を引き抜いた。
鍛え抜かれた腕と変わらない太い刃が、先生の手の中で怪しく光っている。
「伍長。袋を解いてくれ」
「はっ!」
背後のひとりが足をそろえて敬礼をし、背負っていた袋を開けた。
中から出てきたのは、抱えるほどの大きな檻。
「え……!?」
「あれって……」
閉じこめられていた生き物の姿を見て、周囲から声が漏れた。
それは、手のひらサイズの丸いゼリーに、細い目を取り付けたようなもの。
「魔物……!?」
橘さんが取り出したものよりも、ひとまわり小さなスライムがそこにいた。
俺たちの反応を流し見た宇堂先生が、軽く咳払いをする。
「これは5等級の当該生物だ。君たち世代には、雑魚モンスターと呼んだ方が解りやすかろう」
大真面目な顔で宇堂先生が俺たちに視線を向ける。
「俺も詳しいことは知らないが、コイツは日本の最先端技術らしい。お前たちの仕事はコイツを倒し、動画をとること、そうだな?」
ナイフの先端を檻に向けて、宇堂先生がニヤリと笑った。




