表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/124

【第97話】誘拐

 朝霧疾風と篠崎健二は、やっと寮についた。今頃、部屋ではファンと加奈子がご乱心状態になっているであろう。


「急いで帰ってきたは良いが。なんだか入りたくねぇな」

「ははは……」


 そんな朝霧の心の声に、健二は苦笑いを浮かべる。まるで、俺もそんな苦労が過去にあったな、なんてことを言外に伝わらせる笑い方だ。

 だが、そうこうしていても仕方がない。飯の材料を置かなかったのは自分の落ち度だ。

 覚悟を決めて寮の階段を登り始める。

 朝霧は二階の自身の部屋につくと、


「あっ、俺明日休むから。先生に言っといてくれ」


 後方からそんな声をかけられる。


「いきなりだな。……なにか用事か?」

「ちょっと、隣町までね。親父に呼ばれてよ」

「親父? 確か健二の家って……」

「あぁ、寺だよ。と言うか正確には神社なのかな? 俺に神主の座を渡すとか言ってるし」

「ほう……、親父さんになにかあったのか?」

「いや電話のときの声はかなり元気がだったから、それはないな。全く……俺はもう神社とは無縁の生活を送る予定だったのに」

「な、なんだかドンマイ……。先生には伝えておくから、安心してくれ」

「おう、ありがとな」


 言うなり、健二は部屋へと入っていく。

 さて。

 部屋の中にいる金髪凶暴竜娘と無邪気が恐怖の中学生。コイツらをどうするか……。

 朝霧は扉の前で少し思案し、まぁ結局は怒られるんだから元気よく行くか、と適当な答えを導き出す。

 そして、バン! と玄関を開け放ち、


「たっだいま~!」


 元気よく帰ったことを知らせる。

 ……だが、返答はない。それどころか部屋からはなんの音もしてこない。まるで、その空間の時が止まったかのような錯覚さえしてくる。

 それも仕方ないだろう。なにせ、テレビの音やせんべいをむさぼる音など、生活音という生活音が一切ないのだから。

 いやな予感に襲われる。まるで、目の前に地雷がたくさん落ちているような。なにか重大なミスをしたような。そんな予感。

 朝霧は靴を瞬間的に脱ぎ、一気に廊下を駆け抜ける。そしてリビングと廊下を区切る扉を開けた。


 ──と、そこには倒れている加奈子の姿があった。


「──~……っ!!??」


 朝霧はまさかの事態に声が出ない。だが、そんな中でも思考は嫌なくらいに回り続ける。

 まさか死んでいるのか。殺されたのか。そしたら誰に?

 そんなネガティブなことしか頭に浮かんでこない。


 と、そんなとき。


 学ランのポケットに入れていたスマホが鳴りだす。完全に思考にふけっていた朝霧は、その音で我を取り戻した。

 朝霧はポケットから勢い良くスマホを取り出すと、画面を見た。見たことのない電話番号だ。

 だが、ここで悩んでいても仕方がない。電話にでる。


「もしもし?」

「はぁ、やっと出た。家電には全く出ないし、携帯電話の特定には時間がかかるし……。大変だったんだからな?」


 スピーカーの向こうから聞こえてきた声は神宮寺洸大のものだった。あんな残虐で傍若無人な奴の声を聞いてここまで安心できたことがあっただろうか。いや、もしかしたら残虐で傍若無人だからこそなのかもしれない。


「じ、神宮寺。加奈子が倒れてる! 何があったか知らねえか!?」

「……そっちもやられたか」

「そっちも……ってことはお前も!?」

「大声を出すな。こっちも妹がやられたよ。やれやれ、あの野郎……本気でぶっ倒されたいみたいだね」


 朝霧の額に汗が伝う。

 神宮寺の声がいつものおちゃらけた調子ではないのだ。例えるなら、凄まじい殺気を声に乗せてるかのような感じである。

 だが、朝霧はそんな声に圧倒されつつも少し疑問に思う。


「あの野郎って、これやった奴の見当がついてんのか?」

「当たり前でしょ。俺とお前が昨日、一日中戦ってた奴。あいつを誰だと思ってる?」


 朝霧はそこでハッとした。

 ──斑鳩 澄哉。

 東京国のトップ四に入る能力者。『未知能力』という能力を持ち、その実力は世界一と謳われる。そのため、存在自体が都市伝説化していたのだが……。

 その正体は竜の力を操る人間で、正真正銘の神人にも引けを取らない神宮寺を正面からねじ伏せることができるほどの男の子である。

 昨日は、竜の力の副作用で気絶してしまい記憶が曖昧だったため、今の今まで忘れてしまっていた。


「って、ことはあいつが。でもなんのために……?」

「決まってる。ファンロンを連れ去るのが目的だよ」


 朝霧はそこで寝室へ走る。そして気づいた。

 寝室にファンがいないことに。


「まんまとやられたってわけかよ……」


 朝霧は怒りのあまり顔を熱くさせる。そのためかスマホの画面がとても冷たく感じた。

 と、そんな朝霧とは対照的に、神宮寺は冷静な声で言う。


「そういうこと。まぁ、あいつの目的にはお前も含まれてるだろうから、そろそろ連絡があると思うよ」

「目的?」

「昨日、斑鳩はお前を殺しにかかってたでしょ? つまりアイツの目的はお前の命ってわけ」

「……じゃあ、ファンは大丈夫なのか?」

「さぁね。ただ、お前を誘い出す道具としてファンロンを使うだろうから、殺してはないと思うよ」

「てことは、アイツから連絡が来るまで俺達はなにもできねぇのかよ……?」

「は? そんなわけないでしょ?」


 神宮寺のそんな声に朝霧は一瞬思考を止める。と、神宮寺は続けて、


「今からあの野郎の居場所に行くけど……君も行くよね?」


 そんな神宮寺の問いに、朝霧は一瞬の迷いも見せない。即答だった。


「当たり前だ」






 その数分後。朝霧のアパートに神宮寺がやってきた。ちなみに、加奈子はその間に結月に任せた。どういう訳か説明しろやゴラァ!! なんてことを言っていたが、全てスルーしたことは言うまでもないだろう。

 もし、変に心配した結月が首を突っ込むようなことがあれば、更に被害者が増える可能性がある。だから仕方のないことだ。

 それに今回は神宮寺もいる。だから、別に無謀なことをしようとしてるわけでもない。変に結月を危険に晒す必要もないだろう。


「さて、さっさと行くぞ」


 そう言う神宮寺は黒の短ラン姿に木刀を携えるという、いつもの『粛清スタイル』に加えて、マジ物の日本刀を一本背中に背負っていた。

 本当に殺る気みたいだ。


「て、てか神宮寺さん? アイツのところに行くって場所とか分かってるの?」

「なに日本刀見つめながらガクブルしてるの? 別に君を斬るための道具じゃないよ?」

「いや、分かってますけど……って、剣をさやから抜かないで! 危ないから!」

「大丈夫大丈夫」


 これだけの非常事態にも拘わらず、神宮寺は案外普段通りだ。まるで緊張感がない。


「──まぁ、フェイロンの『竜の力を感知する能力』を使って追う予定だよ」


 と、まるで独り言のように神宮寺は朝霧からの質問に答える。朝霧はそんな返答に少しホッとしながら、


「フェイロンは無事だったのか……」


 と、口から漏らす。


「まぁ、今日は俺と一緒に行動してたからね」

「てことはどっかにフェイロンいるのか?」

「車の中で待機してるよ」

「車ッ!? お前、車も運転できんのか!?」

「あぁ、このことを大京学会に話したら『四天王の一人を潰せる大きなチャンス』とかって話になってな。まぁ大京学会の学芸員である俺を襲ったんだ。斑鳩に落とし前をつける大義名分はそれだけでも十分だろ」

「ま、まぁそうだが……」


 朝霧は少し不安な表情になる。と、そんな表情に気づいた神宮寺は少し微笑んで、


「朝安心しろ。あくまで大京学会は落とし前をつけるだけで、あいつを殺そうとはしてない」


 一言。だが、そんな一言は朝霧を安心させた。


「なら良いけど……落とし前ってなんだよ?」

「分かってないなぁ。このまま大京学会の最高幹部の俺が斑鳩にやられたままでは、大京学会支持派からの信頼に影響する。そうなれば、政治への影響力も小さくなってしまう。だから、これを防ぎ逆に『俺が一般市民である朝霧を助けた』という印象を与えるんだ。そうすれば影響力の弱まりは一転、強まる方向へ転がる。だから大京学会は直接的に手は下さない。全て俺と君に委ねられてるよ」

「なるほどな」

「……よく理解もせずに分かったふりをするのはどうなのかな?」

「仕方ないだろ! 俺みたいなバカに政治の話をする時点で間違いなんだよ!」

「それ胸を張って言えることじゃないぞ」


 朝霧はうっと言葉を詰まらせる。と、そんな朝霧に神宮寺はやれやれとため息をつき、話を続けた。


「とりあえず、今から車で第十九都市の港へ行くぞ。そこからファンの力を感じるらしい 」

「お、おけ……」


 朝霧は弱々しい声で返事をし、玄関から外に出る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ