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【第93話】情報操作

「か、ハッ……!?」


 その男の手元から、空気を全部吐き出すような声が聞こえてくる。神宮寺は、声のした方を見てみる。

 と、そこには、なにが起きたのか全く分からない、と言った顔をしている斑鳩がいた。彼は殴られたのか、たたきつけられたのか。ともかくコンクリートにめり込んでおり、額から血を流していた。

 そんな斑鳩に初老の男は話しかける。


「なんだコイツ、竜と人間のハーフってやつか? まぁ、どちらにしろ俺の足元にも及ばないみてぇだが……」

「な、なんですか、あなたは……。なぜ、僕に気配を、感じさせずに、攻撃をしかけられたんですか……!?」


 腹から声を絞り出すように斑鳩は聞く。その声は震えており、恐怖という感情が隠っているのがよく分かる。

 そんな斑鳩にやれやれと言った顔をしながら男は応える。


「俺は、三大界王アデス。テメェも竜の端くれやってんなら、名前くらい聞いたことあんだろ?」


 斑鳩は戦慄する。いや、アデスがバハムート族の家臣というのは知っていた。三大界王だというのも知っていた。だが──、


 生きていたことを知らなかった。


 斑鳩は三大界王アデスは、黒龍会と王国との戦闘で死んだものだと()()()()()()()のだ。だから、目の前の男が三大界王だとは思えなかった。

 と、そんな斑鳩の様子を見たアデスは斑鳩から目を離す。そして、さも余裕だと言わんばかりにタバコを取り出し火をつけ、


「……ったく、誰の手先か知らんが舐めた真似をしやがって。少し仕置きが必要みてぇだな」


 敵意を込めながらそう言う。その目から発せられる眼光は凄まじく、斑鳩は肝を冷やす。

 そのためなのか、それとも先程負った怪我がそうさせるのか……。斑鳩は息がどんどん荒れ始める。彼は、少し深呼吸をした後、アデスに逆に問う。


「アデス、あなたに聞きたいことがあります。……あなたは王都奇襲攻撃の時点で死んだはずじゃないんですか?」

「死んだ? なんだそりゃ。まぁ、確かに俺は黒龍の攻撃で深い傷を負ったが死んじゃいねぇ」


 アデスがそう言う。

 このとき、斑鳩は少し考えた。

 ──もし、僕がアデスのことを知っていれば白の騎士団に使った『放射術』を二つの地点に使い混乱を起こしていたはずだ。


 だが、それを良く思わない奴が黒龍会内部にいたとしたら?

 もし、白の騎士団のスパイが黒龍会に潜んでいたら?


 考えられるは一つだ。


「……チッ、情報操作か」

「? 何がなんだか分かんねぇけど、テメェ。黒龍会と繋がりがあるみてぇだな」

「……だったらなんだと言う」

「そりゃあ、ひっ捕らえて知ってること全て吐かすに決まってんだろ」

「ククク、そんなことできると思ってるんですか?」

「お前な……そう言う言葉はコンクリートに顔面を叩きつけられる前に言うもんだぞ」

「黙れ。今、僕が結界を解けば一人犠牲者が出ることになる。ファンロン達が探しに行ったが間に合わないだろう。それでも良いのか?」


 斑鳩はニヤリと笑いながらそう言う。だが、アデスは特に表情を変えず、


「あのなぁ……こんな敵が何人いるか分からないような結界内に俺一人で乗り込んだとでも思ってんのか?」


 ダバコをふかしながらそう言った。

 斑鳩は「え……」と言った顔になる。と、そのときだった。


「アデス。加奈子とか言う少女の救出に成功したぞ。まぁ、まだ気絶したままだがな」


 そんな女の声が響き渡る。斑鳩はとっさに声の持ち主に視線を移した。

 と、そこには黒龍会と連絡がつかなくなった龍術魔本の達人──海龍が立っていた。


「海龍……ッ! 話は聞いているぞ。黒龍会から援軍を待つよう指示されたにも関わらず、単独で行動。挙げ句に目標に撃破された上、黒龍会を裏切った反逆者とな!」

「そいつは光栄だな。まぁ、今はそんな話をしてる暇はないんだ。契約者の傷の手当てをしてやらんといけないんでな」


 海龍は、斑鳩に背を向けると朝霧に視線を落とす。完全に意識を失っているためか、朝霧はピクリとも動かない。

 竜の力と人間の神経の関係性が全く分からない海龍から見ても、相当酷い傷だというのが伺える。


(吐血してるのか……チッ、内臓破裂が起きてなければ良いが……。とにかく回復系の竜術で一命を取り留めとかないと)


 海龍は竜術魔本の知識を脳から全て取り出す。だが、良いものが見当たらない

 と言うのも、竜術魔本は様々な攻撃系の竜術が書かれた書物。回復系の竜術はあまり書かれてないのだ。

 まぁ、全くないのではなく、あるにはあるのだが……どれもこれも強い効果のない回復系の竜術ばかり。恐らく、単体で使っても吐血した原因をなくすことはできまい。

 海龍は落胆のため息をつきつつ、少し考える。


 ──今はめんどくさがってる暇はないか。契約者。これで借りは返したからな。


 海龍は、そう考えると、それらの微弱で貧弱な回復系の竜術を折り重ねる。


「竜術魔本二十九条四十七項。三十一条二十四項。六十条十一項……合術『治癒リカバリー』」


 と、海龍の言葉と同時に朝霧の身体が光に包まれる。このとき、朝霧の身体のなか──つまり、切れた血管──では、傷の修復が行われていた。

 胃の中に血管を流し込んでいた血管の切れ目が、ピタリと閉じる。

 おおよそ、十秒。光は段々と収まり、そして消える。


「なんとか治癒できたか……まぁ、まだ完全に治ったわけじゃないな。アデス、さっさとソイツを気絶させて結界を解け。早くしないと契約者の命が危ない」

「分かってるっつーの」


 そう言うとアデスは空いた左手を振りかざす。


「チィッ!」


 と、その瞬間、斑鳩は結界を解いた。

 周りの景色が一瞬白くなると、今まで無人だった街に人が戻る。それと同時に斑鳩の姿が消える。


「逃げたな……まぁ、結果オーライってことで良いか。…………てか、ここどこ!?」


 アデスは周りの風景を見て、驚いた。

 アデスや神宮寺、海龍に気絶した朝霧が今立っている場所。そこは大きな木が中心にあり……それ以外の物はなにもない寂しげな空間だった。

 つまり──、


「大崎自然公園か。……それにしても、なんでこんなとこにいるんだかねぇ? 俺達は……」

「恐らく。結界を解いたと同時に私達をここに強制召喚したんだろう。その証拠に奴が召喚術の達人と聞くしな」


 海龍が視線を大きな木の方に向け、そう言う。と、ほぼ同時に「はやてー!!」という幼い少女の声がそちらの方向から聞こえてきた。

 紛れもないファンの声である。


「ファンロン、契約者なら気絶してる。今から病院とか言う場所に連れて行くが……お前も来るか?」

「は、はやてが……!? 当たり前! 早く行こう!」

「だったら俺が連れて行くよ。俺なら顔が利くし、なによりこの世界に疎いお前らに任せておけない」


 神宮寺がそう言う。

 すると、海龍とファンは少し顔を見合わせる。数秒間、その行為が続き沈黙が訪れた。


「おーい、早くしないと朝霧の命が危ないんじゃ──「約束してね」」


 ファンが神宮寺の言葉を遮る。


「絶対、はやてを助けるって約束して」

「……あのねぇ、そういうのは俺じゃなくて医者に言って欲しいんだよね」


 神宮寺が吐き捨てるようにそう言う。と、ファンが泣きそうな目になり、神宮寺は少し戸惑う。


「……全く。腕の良い医者は選ぶし、俺にできることは全て最善を尽くすよ。これでOK?」


 ファンは小さく頷く。やれやれとため息をつきつつ、彼は朝霧を背負い病院へ行こうとした……そのとき、


「どこへ行くのですか?」


 唐突にヴィシャップに話しかけられ、動きを止める。


「どこって、病院に決まってるでしょ?」

「病院に行っても無駄ですよ。竜の力を除去する薬は天界にしかないのですから」

「じゃあ、どうすりゃ良いわけ?」

「契約者の家に、ビンに入った薬が置いてあります。人塗り心臓辺りに塗ってもらえれば落ち着くはずです」

「朝霧の家? 俺、知らねぇぞ」

「じゃあ、私が案内する!」


 ファンが片手を挙げてそう言う。

 神宮寺は、更に荷物が増えるのか……と、疲れきったため息をつき、


「しっかり道案内してよ」

「当たり前なんだよ!」


 そんなやり取りをする。と、金髪碧眼美少女は、公園の出口に向かい走り出す。

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