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【第89話】化け物

 神宮寺の気迫に朝霧は圧倒される。まるで、さきほどまで気兼ねなく話し合っていた者と同一人物とは思えないほどの豹変具合だ。

 朝霧は息を呑みながら、ラハブやファンに視線を向ける。と、全員の表情が心理的な重圧にじっと耐えてるような息苦しそうな顔をしていた。

 神宮寺は、そんな場の雰囲気を楽しむように眺めながら、少し笑う。


「仲間同士で恐がってちゃ、あのふざけた野郎にトドメは刺せないよ?」


 トドメ。

 朝霧は、その言葉に引っかかりを覚えた。

 恐らく、この言葉を言ったのが不良やヤンキーなどだったら、大して気にしなかったであろう。だが、神宮寺は闇の組織の人間。だからこそ引っかかった。

 朝霧は、少し躊躇ためらいながら神宮寺に問う。


「トドメって……お前アイツを殺すつもりか?」

「もし、そうだと言ったらどうするの? 俺を止めるの?」

「当たりめぇだろ!」


 朝霧がそう怒号をあげる。が、神宮寺はさもつまらなそうな顔になる。


「だから君は甘いんだよ。その甘さが原因で夕霞 健吾を仕留め損なったということを忘れたの?」

「そ、それは……」


 朝霧は、言葉に詰まる。

 神宮寺の言ってることは正しかった。確かに、この性格のせいで夕霞 健吾を逃した。それは事実だ。

 が──、


「……あぁ、確かにそうだ。けど、それでも命を奪うことは正義なんかじゃねぇはずだ」

「はぁ、まだそんな平和ボケを──」


 哀れむような目をしながら、神宮寺はそんなことを言う。と、途中で言葉を切り、とっさに後ろを振り向く。

 朝霧は、そんな神宮寺の行動に少し首を傾げながら視線を彼の奥に向ける。

 そこには別に特別でもなんでもない商業施設が広がっていた。大型のビルで、見上げても屋上が見えないほどデカい。その上、どこかの研究施設もあるのか『パリコーラカース・コンポレーション』という文字も見える。

 まぁ、この実験都市では商業ビルに研究施設を入れ込むのは珍しいことではない。と、言うのも研究施設の持つ“悪いイメージ”を払拭するという目的があるらしい。

 朝霧は、そんな実験都市のどこにでもあるビルを凝視する。


「なんだあの光は……」


 神宮寺と朝霧は同時にそんなことを口の中で呟いた。

 ビルの壁を取り囲むように、うっすらと光っているのが見えた。二人はじっとそれを見ながら考える。

 何秒経っただろうか。神宮寺が、もしかして──と、思考を浮かばせた……そのときだった。

 光がピカッと強くなり爆発音を響かせる。

 濁った黒い煙が四方八方に飛び散り、ビルの壁が破壊されるのが確認できる。

 五十メートルほど離れた地点にいるのにも拘わらず細かい破片が飛んできた。神宮寺は、レーザーによるものだと確信する。


(まさか簡易結界外でレーザーを使うとは……っ!)


 神宮寺は、爆風により飛ばされてくる粉塵から目を守るため、下にうつむく。と、同時に口の中でそう怒鳴る。

 だが、その防御行為が裏目に出てしまったらしい。

 ゴォォォという空気を潰すような音が頭上から聞こえてきた。と、同時に何かが迫ってくるのが分かる。


(ま、まさかビルが……!?)


 神宮寺は、冷や汗が出てくるのを感じた。

 そう、最初からレーザーは朝霧達のことなど攻撃していなかったのである。

 では、なぜ攻撃してこなかったか? そんな理由は簡単なことだった。

 それは、簡易結界という竜の力を無効化するものがあるから──、

 そして、その結界の存在を既に斑鳩は知っていたから──、

 つまり結界のある今のうちでは、レーザーによる攻撃は当てられない。だが……ビルの破片という竜の力が関与しないものであれば攻撃可能というわけである。

 まぁ、簡単に要約すると……ビルごと倒壊させ朝霧達を潰そう、というわけだ。


「くっそ、あの野郎っ!!」


 神宮寺は、そんなことを口から漏らす。まるで感情が爆発したかのようだった。

 と、感覚的に木刀を探し当てそれを構える。そして衝撃波を起こしビルごと破壊しようとした。が、この状態では照準を合わせるどころか、剣を振ることすらできない。


(チッ、この粉塵さえなけりゃあ……)


 神宮寺がそんなことを思った……瞬間だった。粉塵の嵐が爆風により吹き飛んだ。

 神宮寺は、思わず驚きの声を漏らす。だが、その暴風自体にではない。暴風を放ったのが朝霧だったからだ。

 まぁ、朝霧の能力は電撃のみだと思っているのだから仕方ないだろう。

 そんな神宮寺の一方で粉塵は、飛ぶ方向が定まらないのか、グルグルと回り始める。それを見ているとまるで、竜巻がすぐ横で巻き起こったかのような錯覚さえ覚える。

 と、均衡を保っていた風圧のバランスが崩れた。不安定に飛ぶ粉塵は突如、完全に押し返されたのだ。

 神宮寺は、その隙を見逃さなかった。

 ヒュン! と、空気を切り裂く。たった一筋の斬撃は、暴風よりも早くビルのど真ん中を突き破り、大きな風穴を空けた。

 そして、数秒遅れで、その切り取られたビルの上部分を朝霧の暴風がぶち当たった。ビルの上部分は、まるで発泡スチロールなのかと錯覚するほど重さを感じさせずに吹っ飛ぶ。

 そんな青空の向こうへと消えていくビルを見上げながら、ファンとラハブはポカンと口を開けていた。

 特にラハブは、目が点になりながら──、


(コイツらホントに人間か!?)


 と、心の中で叫んでいた。

 契約者と言えど、まだ一カ月も契約から経っていない。にも拘わらず、これほどまでに力を使いこなせているのは異常でしかないのだ。

 ラハブが目をぱちぱちさせながら、朝霧と神宮寺を見る。が、朝霧はそんなラハブなどよそに「はぁ……」とため息をつく。


「一体なんなんだ……? ビルごと倒壊させるって、やってることが化け物じみてんだろ」


 朝霧がそんなことをボヤいていると、神宮寺が何を今更と言わんばかりに視線を送る。そして、吐き捨てるように言う。


「化け物じみてるわけじゃない。化け物なんだよ、存在自体がな」

「まぁ……確かに、竜の力を使えるなんて化け物以外の何者でもねぇな」


 朝霧は、頭をかきながらそんなことを言う。と、同時に少し不安が襲う。


 ──ファンの命を狙う輩は全員が全員こんなんばかりなのだろうか?


 もし、そうなのであれば朝霧はファンを守りきれる自信がなかった。ビルを倒壊させ、殺すことすらも躊躇わないような者に勝てる気がしない。

 だから朝霧は頭をかく。

 この心情が……この不安がファンにバレて心配させることがないように。


「と、まぁここらで分かったでしょ? 四天王を相手にするのがどれだけ危険かね」


 と、神宮寺は普段の雰囲気と話し方に戻りそんなことを言う。まるで違う雰囲気に朝霧はゾクッとしながら「あぁ……」と曖昧な返事をする。

 神宮寺は、そんな朝霧に笑みを浮かべる。


「分かったんなら、殺す気でかかりな」

「けど──」


 朝霧が反論をしようとする。そんな彼の反応を予測してたかのように神宮寺は「だが……」と、朝霧の言葉をキレイに遮断する。

 そして、少し間を空け神宮寺は言う。


「殺せ、とは言ってないよ。君が誰かを殺せる人間とは思ってないしね」


 神宮寺はニヤニヤと笑いながらそう言う。明らかに朝霧の反応を見ながら楽しんでいるようだった。

 朝霧は、少しムッとし……真剣な眼差しに表情を変える。


「だったら、てめぇも約束しろ。絶対に殺さない、ってな」

「もし破ったら?」

「てめぇを狩って、今晩のご馳走にでもしてやんよ」


 神宮寺は、ついに笑いを堪えきれなくなったのか、大笑いし出す。目に涙を浮かばせているとこを見ると、本当に面白いのだろう。


「ハハハ。いや~、最高だよ君。俺が目をつけた人間なだけあるわ」


 朝霧は、ちょっとだけムカつきながら神宮寺を見つめる。と、神宮寺はその目を見るなり、爆笑とは違う笑みを浮かべ言う。


「だが、まぁ……良い目になったよ。OKOK、約束でも何でもしてあげる」


 朝霧は、唐突の神宮寺の言葉にキョトンとなる。数秒が経ち、やっと理解したのか朝霧の顔に安心したような表情が広がる。


「だけど……味方こっちに危険が迫るようならその約束は破るよ?」


 神宮寺は、そんな朝霧の表情の変化を阻むようにそう言う。と、朝霧はそれを聞くなり笑みを浮かべた。

 神宮寺は、少し戸惑った。恐らく、彼は朝霧の反論する反応を待っていたのだろう。

 だが、朝霧から出た答えは──、


「別に構わねぇよ?」


 朝霧は、二ヤっと笑いながらそう言う。それはまるで、無邪気な野球少年のような顔であった。

 神宮寺はそんな朝霧を見ながら数秒間困惑した後、少し笑みを浮かべる。理屈も、確信も、良策もあるわけではないのに……この絶望的状況下で笑みを浮かべられるバカ(朝霧)を尊敬するように、神宮寺は笑う。

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