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【第86話】人間嫌い

 と、目の前に何の表示もされてない電光掲示板が現れる。天井から吊り下がっているそれは、終電の終わったあとの駅を連想させる。が、昼間という時間帯がそれを打ち消す。

 朝霧とファンは、ここで気が付いたのだが、電気という電気は消えているらしい。となると、地下街は真っ暗……ということになるだろう。

 朝霧は、改めてレーダー……否、サーモグラフィをしてみて良かったと感じる。


「さて、と。確か12番線の方から人の気配みたいのを感じたから……って、ファン?」


 朝霧は、左手の先──つまりファンの方を見る。と、そこにはなぜか目を輝かせながら改札口の方を見つめる少女の姿があった。

 なんだか、嫌な予感がすると感じながらも朝霧は、ファンに話しかけてみる。


「はやて……あれ可愛い」


 案の定、朝霧の嫌な予感はあたっていた。ぎこちない動きで首と身体を回転させ、ファンの視線の先を見る。と、そこにはなんの変哲もない服屋があった。

 入り口の横にあるショーウィンドウには、大中小様々な真っ白なマネンキンが置いてある。恐らく、いろいろな年代層の客に購入意欲が高まるよう計算されているのだろう。そして、その店側の計略にまんまと引っかかった少女がここにいる。

 少女の視線の先には小さなマネキンがあった。そのマネキンには恐らく小学生向けであろう服が着せられているのだが──、


「アレが欲しいのか……?」

「…………」


 金髪少女ファンは、無言のまま小さくうなずく。朝霧は、もう一度視線をマネキンに移す。

 マネキンには、白黒のチェック柄のワンピースに真っ白なガーディアンが着せられている。朝霧は少し頭を悩ませてから「一着くらい新品を買ってやるか……」と、ファンの手を引き改札口を出る。


「試着して良いサイズのがあったら、袋に入れて持って行くぞ」

「い、良いの?」

「これくらいしか贅沢させてやれねぇしな。金ならレジの横にでも置いとくから問題ねぇだろ」

「はやてって、変なところは生真面目だよね」

「……お前は、その服買って欲しくないのか?」


 ファンは、顔を横にブンブンと振ると、すぐさま店に入っていく。と、マネキンに着せてある服をジロジロと観察している。どうやら服の商品名を確認しているのだろう。

 朝霧が、駅の知識はないけど、そういう無駄な知識はあるんだなと感心しているとファンが店の奥へと姿を消していく。──そのときだった。

 コツン……コツン……という軍靴の音らしき音が後ろから響いてきた。朝霧は、一瞬にして加奈子の物ではないと察する。

 バッと後ろに振り返る。

 そこには、青髪の男がこちらに歩いてきていた。年齢は朝霧と同じかそれ以下くらいだろう。どちらにしろ、高校生くらいのその男は、朝霧と目を合わせるなり動きを止める。

 男は、黒のコートに黒のズボンを着ていた。まるで漆黒や闇を表すかのような服装を更に強調するかのように、白のラインが少し入っている。

 朝霧は、この服装に見覚えがあった。


「黒龍会……っ!!」


 朝霧は、口の中でそう叫ぶ。それは、ファンの命を狙う組織の名前である。彼は、露骨なほど正面にいる男を睨みつける。

 と、男はそんな朝霧を見るなり「やれやれ」という顔をする。


「君が契約者か。噂は聞いてるよ……しちめんどくさい野郎だってな」

「なにを言うかと思えば……いきなりレーザー攻撃で奇襲してきやがるお前の方が、よっぽどたちが悪いっつーの」

「レーザー攻撃? やれやれ、なんのことを言ってるのだか……」

「おいおい、商店街を軽くぶっ壊しといて、そりゃねぇだろ」


 朝霧は、なんでこんな無意味な嘘をつくのだろうかと思いながら、やれやれとため息をつく。だが、それと同時に()()()男もため息をつく。

 朝霧は、今までの竜とは種類の違う男の態度に少し疑問を抱く。と、言うのも敵なのに凄く喋りやすい。例えるなら、翔太と同じ雰囲気をかもし出してる。

 多分、このような立場の違いがなかったら良い友達になれたと朝霧は思う。


「まぁ……、そんなことはどうでもいい。俺には任務があるんだ。そこを退いてもらおう」

「あのなぁ……敵を目前にして誰が退くかっつーの」

「……悪いが、もはやお前さんは我ら黒龍会の敵ではない。それは、ファンロンも同様だ」

「そんな見え見えの嘘つかれても困るんだが……まぁいいや」


 朝霧は、ポケットからトランシーバーを取り出す。理由は他でもない。斑鳩いかるがを呼び出すためだ。

 前までの朝霧なら斑鳩を呼ばず、自分でどうにかしようと考えただろう。しかし、本物の竜がどれだけ危険かが分かる今、目の前の敵を朝霧一人で相手にするのは分が悪すぎる。

 幸い、今のところ男に戦意は無いようだ。この間に斑鳩を呼び、来るまでの間朝霧が場をつなぐ。これが朝霧の考えた作戦の概要がいようだ。


「あー、あー、こちら朝霧。黒龍会のメンバーを──」


 そこまで言ったところで、トランシーバーが手元から吹っ飛ぶ。例えるなら、刑事物のドラマなどで犯人の拳銃を手元から綺麗に吹っ飛ばすような──そんな感じである。

 反射的に男を見ると、なにやら投げナイフのような物を持っていた。恐らく、それでトランシーバーを吹っ飛ばしたのだろう。

 と、その事実に気づいた途端、朝霧の背筋に冷たいものが流れる。なぜなら、軌道がズレていたら自分に当たっていた可能性が限りなく大きいからだ。


「そのトランシーバー……どこで手に入れた……!!」

「あ? どこって斑鳩さんから貸してもらってるだけだ」

「斑鳩?」

「あー、俺も詳しくは知らないけど……白の騎士団とかいう組織に入ってるとか言ってたっけな」


 朝霧のその言葉を──白の騎士団というキーワードを聞いた瞬間、男の表情が退屈しきった顔から露骨に不快そうな表情へと豹変する。

 まるで、聞き捨てなら無いことを聞いたかのような豹変具合だ。朝霧は、そんな男の表情の変化に少しビクリとする。


「ふざけるな……」

「へ?」

「ふざけるな! 貴様ら人類は、なぜいつもそう邪魔しかせんのだ! この術だってそうさ、私の命のかかった任務を邪魔しおって!」


 男は右手に力を込めながら、おもむろに横へ手を向ける。そして、手のひらがゆっくりと開いた瞬間、黒くて丸い塊が放出される。

 塊はそのまま駅の天井へと衝突しドン! という爆発音を響かせる。と、同時に煙がその場に立ち込め視界を悪くする。


「チッ……!」


 この煙が目隠しの役割を果たしたのか、男の姿が完全に見えなくなる。

 このような戦闘になると、朝霧は不利だ。

 と、言うのも朝霧は戦闘のプロでも軍人でもない。一般的な高校生である。それに対し、黒龍会というのは戦闘のプロ中のプロ。煙などハンデにもならないだろう。それどころか朝霧の視界を奪うため、完全に不利な状況を生むのは明白だ。

 朝霧は、目を凝らしながら男の姿を捉えようとする。が──、

 突如、白い闇の中から男の姿が現れる。朝霧は、なんとか姿を捉えたものの助走をつけての攻撃を防ぐ手立てもなく、そのまま拳を食らう。


「ウッッ、ガハッ……!!」


 さすがは戦闘のプロ。と、思わせるほどの重いパンチは朝霧の胃液を逆流させる。

 ──が、それは神宮寺の物と比べれば、大したことのない物だった。腹からこみ上げてくるなにかをグッと堪えながら朝霧は腹に食い込んだ腕を掴む。


「なっ……!?」


 男は、朝霧が気絶しないことに驚いているのだろう。それもそのはず、彼のパンチは常人なら数日は気絶するであろうほどの威力を生み出すのだ。

 だが、それはあくまで常人の場合。

 朝霧は、竜の力という──それも竜王の莫大な力を身体に通わせている。そのため治癒能力はもちろん、運動能力も飛躍的に伸びているのだ(本人は治癒能力しか自覚してないが)。

 朝霧は、腕を掴み男の回避能力を奪ったところで、右足を真上に蹴り上げる。

 朝霧の右足は、思い通り男の腹……それも不幸か幸か鳩尾にクリーヒットする。男は、反撃など予想だにもしていなかったのか、言葉にならないほどの悲鳴を上げる。

 と、男の膝がガクッと落ちる。その瞬間、目くらましの役割を果たしていた煙がスゥッと消えていく。


「いってぇ……ったく、目くらましからの奇襲とは予想にもしなかったぞ……」


 コンマ数秒レベルの奇襲に驚きつつ、朝霧は地面に倒れ込む男にそう言うが、男は腹を手で押さえながらずっと咳き込んでいる。どうやら、鳩尾への蹴りがかなりのダメージだったらしい。


「……っておいおい、大丈夫か?」


 朝霧は、黒龍会の竜(海龍も含めて)は防御より攻撃重視なんだな、なんてことを考えながら男の背中をさする。

 なんだか、こうやってると本当に友達感覚になるから恐ろしい。


「や、めろ。人間ごときに心配されるほど落ちぶれてはいない」

「とは、言ってもな……俺がやっちまったことに変わりはねぇし、結構ダメージ負わせちまってるし……」

「そんなことは……ゲホッ、ゲホッ!」


 朝霧は、男の不正直さにため息をつきつつ、水でもあげようかと考える。が、電気がない今の状況では水道水を汲んでくることは不可能だろう。

 だからといって近くにコンビニがあるわけでもない。いや、駅構内に行けばあるだろうが、その間に男が逃げないという保証はない。


「……で、お前名前なんつーんだ」

「人間に名乗る名前などねぇよ」

「ははは、なんだ? 人間嫌い病かなんかかお前?」

「そりゃあ、何もしてないのに悪獣のレッテルを貼られれば、誰でも人間嫌いになる……」


 朝霧は、何のことだ? という視線を男に送る。と、そのとき騒ぎを聞きつけたファンが「はやて~!!」という大声を出しながら店内から出てくる。

 袋を持っていないところから察するに、それどころではないと判断したのだろう。


「大丈夫!? ……って、ありゃ? もう一人の方は誰?」

「お前……ファンロンか?」

「そうだけど……って、もしかして黒龍会!?」

「あー、ファン落ち着け。別に危害は加えない……というか加えられない」

「そこの坊やの言うとおりだ。安心しろ」


 ファンは、朝霧と男の言葉を聞き少し平常心を取り戻したようだった。だが、それでもソワソワしているのが可愛らしいなと、朝霧は少しふしだらなことを考える。


「……で、なんかあったのかよお前?」


 朝霧は、男の方に視線を戻しそう聞く。男は「君なら良いか……」と、言うと自分の過去を話し始める。

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