【第82話】タイムリミット
「で、そんな祓魔師がなんでここに?」
朝霧がそう問う。
祓魔師と言えば、聖書やら十字架やらで人間に取り憑いた悪魔を祓う──という、どこぞのオカルト番組でやっていたような知識しか、朝霧は持ち合わせていない。だが、この少年は聖書はおろか十字架すら持っている様子がない。
と、祓魔師は苦笑する。
「恐らく、祓魔師が悪魔を祓う職業……ということは知ってだろう?」
「そりゃな。逆に言えばそれしか知らないけど……」
「それだけ分かれば十分だ。もう少し説明を加えるとすれば、悪魔というのは魔界に棲む魔龍族のことを指す。まぁ、代表的な竜を挙げれば黒龍などが良い例だ」
朝霧は、前からのファンの(天界と下界と魔界が存在するなどの)説明のおかげでなんとなく祓魔師の言っている内容が掴めた。
と、そこで神宮寺が口を開く。
「理屈は、どうでも良いよ。ここにいるってことは、お前もこの術を止めようとする俺達の味方ってことだろ? それだけ分かりゃ後はどうでも良い」
「あぁ……君の言うとおりだ」
祓魔師は、そう言うと自身の右手に着けた時計に目を向ける。時計の針は十四時くらいを指していた。
形やタイプから察するに電波時計ではないようだ。
「タイムリミットまで残り四時間三十分くらいだ。先ほどから悪魔と思われる竜術は消えていることから、竜術の逆探知は無理だろう。各自、悪魔を見つけ次第連絡を頼む」
「いや、それが……術の影響なのか携帯が使えねぇんだよ。だから連絡は取れないと思うぞ」
朝霧は現状の説明を兼ねてそう言うが、祓魔師は少し微笑む表情をし「承知の上だ」と言う。と同時に、先程ナイフを入れた方とは反対の──つまり左側の腰に着いているウエストポーチに手を突っ込む。
祓魔師がウエストポーチから取り出したものは小型のトランシーバーだった。
「これは、異空間でも使用可能な祓魔師専用のものだ。三つあるから……そうだな。黒髪の木刀を持った奴とお前と僕が持とう」
祓魔師は、そう言うと取り出したトランシーバーを神宮寺と朝霧に渡す。と、ここで必然的に三班に分かれることになった。
このとき、探す場所が被ると手間がかかるため、役割分担も大まかながら相談した。結果、朝霧とファン、加奈子は駅のある繁華街方面。神宮寺とフェイロンは学校・河川敷方面。祓魔師が研究施設街方面といった感じになった。
と、言うのも朝霧班には力の使えない……というよりは、一般人の加奈子がいるため、比較的この公園から近く捜索範囲も狭い繁華街を、また祓魔師はフリーランニングで高速移動ができるとのことなので、この公園から遠く捜索範囲も広い学校・河川敷方面を探すことになった。
「そんじゃあ、元凶を探しに行くとしますか」
「そうだな。フェイロン行くぞ」
「無事を祈る」
それぞれが捜索場所の方向に消えていく。
朝霧もファンと加奈子を連れながら、駅の方向に伸びる出口──西側の通路へ向かう。
西側の通路は、ゲームセンターの集中する繁華街に繋がるため、術発動前には繁華街から溢れ出した不良が大量にたむろしている場所でもある。そのためなのか、毎日喧嘩が絶えない場所でもある。
そんないつもなら騒がしい通路を歩きながら、朝霧が唐突につぶやく。
「そういや……電子機器は使えなくなったのに時計は動くんだな」
「そりゃあ、この術は全宇宙をカバーできるほどの代物じゃないからね」
「……?」
「……はや兄ってバカ?」
「なっ!?」
朝霧は、意外な人物からのツッコミに思わずビクッとなる。まさか竜のことを今日初めて知った中学生に竜関連のことで「バカ?」とツッコまれるとは、誰も思わないだろう。
加奈子は、はぁとため息をつく──、
「ファンちゃん……で良かったよね? ファンちゃんの話を聞いてれば普通に分かるでしょ」
「いや、サッパリなんだが……」
「そんなんだから、女子中学生に見張りをされるんだよ?」
朝霧は、的確で痛いところを突いてくる加奈子の言葉にウッと言葉を詰まらせる。と、加奈子が続ける。
「つまりだよ。結界やらなんやらのせいで、この街は隔離状態なんでしょ? そしたら携帯の電波をキャッチする人工衛星との通信が遮断されるわけだから……」
「ちょっと待て。お前、なんか状況の飲み込みが異様に早くなってないか?」
朝霧は(自身の理解力の無さに目を向けさせないよう)加奈子の洞察力の高さにツッコミを入れる。加奈子はそんな朝霧に「これでも小さい頃の夢は探偵だったんだから」と、黒歴史にも似た事実を告げてくる。
恐らく、小さな頃に見ていた猫の探偵が活躍するアニメ──『名探偵コニャン』に影響され、そのような夢を抱いていたのだろう。
「探偵、ねぇ……」
「そうそう。まぁ今は、はや兄のお嫁さんになるのが一番の夢だけどね」
「…………へ?」
ファンと朝霧が、目を丸くしながら間抜けな声を出すと同時に、加奈子が駆け出す。と、同時に「ほらほら。さっさと行くよ~」と加奈子が言う。
朝霧は、静かな公園の森のなかに、得体の知れない気配がファンから放たれるのを感じつつ、加奈子の方へと(ビクビクしながら)駆け出す。
どうも
アオトです
少し熱っぼいなか書いたので、文章が変かもしれません
もし、誤字や文法のおかしい箇所がありましたら、ご指摘お願いしますm(_ _)m




