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【第81話】エクソシスト

 喉元に当てられたナイフが、ジリジリと食い込む。恐らく、刀で言うところの“峰”を押し当てているのだろう。

 朝霧は、どうにか少年から逃れようとするが、小学生くらいに見える身体からは、考えられないほどの強い力で押さえ込まれ、身体をピクつかせることもできない。

 と、瞬間、ヒュンという風を切り裂く音がしたと同時に、少年の身体が宙に舞う。音の正体は、神宮寺の木刀から放たれた衝撃波のようだった。

 宙をクルクルと舞う少年は、数メートルくらい飛ぶと体操選手のように着地する。

 どうやら構えたナイフで衝撃波を受け止め、ジャンプをしたことでその衝撃を和らげたようだ。


「何? 見たところ龍神には見えないけど」

「……貴様、何者だ」

「こっちが質問してんだけ──「答えろ」」


 少年から、とても低い声が響いた。と、同時に禍々しいオーラが出ているのが伺えた。まるで、天敵に見つかった小動物が決死の覚悟で睨みつけるようにも見える。

 そんな少年の気迫に押され、僅かな沈黙が続く。と、フェイロンがその沈黙を破る。


「ふむ。着ている服や武装から、白の騎士団と推測するが……」

「──?」

「白の色調は、バハムート王家への忠誠の明かし。記憶が正しければ、下界で唯一の王家直属の部隊だったはずだが」

「……その通りだが、なぜそんなことを知っている?」

「我は、フェイロン……と言えば分かるか?」


 そうフェイロンが言ったところで、少年は少し驚いたような顔をする。数秒間、そのまま固まった後、構えていたナイフをウエストポーチのような物にしまう。と、少し躊躇いながら朝霧の方へと歩み寄る。

 少年と朝霧との距離がわずか数メートルにまで迫ったとき、少年が頭を下げる。


「勘違いとは言え、主君の知り合いに刃を向けたことをここに謝罪する。すまなかった」

「あ、いや、うん。別に良いけど……」


 朝霧が突然の謝罪にビックリしていると、突如正面の方向から「はやて~!」という少女の声が響いてくる。

 紛れもないファンの声だった。


「竜術の気配がすると思ったら……まぁ、無事みたいで何よりだけど……」


 ファンは、金髪の少年の後方から走ってくると、そう言う。少し後ろに加奈子もいるようだった。

 

「全く、だから私も行くって言ったのに」


 ファンは、いかにもムッとした表情で朝霧を見つめた。と、その瞬間ふとファンの視線が朝霧から逸れる。

 数秒間、ファンの動きがピタリと止まり、唐突にある少年の名前を漏らした。


「フェイ、ロン?」


 ファンのその言葉は、今にも泣き出しそうな、あまりの嬉しさに震えているような声だった。

 朝霧は、ファンとフェイロンの関係を少なからず知っている。だからファンの今の気持ちが、よく分かった。

 黒龍会と呼ばれる者達の襲撃により、この世界──下界に避難してきた二人は、何故か生き別れ状態になってしまった。もう、二度と会えないと思っていたかもしれないし、諦めていたかもしれない。だが今、そんな二人はひょんなきっかけからこうして再会したのだ。

 もし、朝霧がこの立場だったら嬉し泣きで顔がぐしゃぐしゃになるだろう。離れていた間の出来事をたくさん話したいだろう。

 朝霧もそれが分かるからこそ、ファンとフェイロンが二人だけになれる時間をとってやりたいのだが、現実はそう上手くいかない。


「姉君、お久しぶりです。いろいろと話したいことはありますが……分かっているとおりこれを解決しないことには……」


 そう、フェイロンが言った通り、二人が再会できたきっかけ──つまり、今の状況は、あまりにも二人の再会を祝うことができる環境とは言えない。

 朝霧は、舌打ちをする。

 このような環境を作った黒龍会の悪魔に、そして二人を生き別れ状態にした元凶──黒龍に対して──、


「分かってるよ」


 ファンは、ため息をつきながらそう言う。そして、フェイロンから神宮寺、そして金髪の少年に視線を移す。


「……で、そこの二人は誰なの?」


 そして、その二人に向けて質問をする。実のところ、朝霧も金髪の少年の正体が気になっていた。

 あれだけの挙動に高校生である朝霧を押さえ込めるほどの力を持つ小学生。気になって当然だと思う。

 神宮寺が適当に自己紹介を済ませる。と、自然に金髪の少年に全員の視線が集まる。

 少年は、はぁとため息をつきながら言う。


「僕は斑鳩 澄哉(いかるが すみや)。白の騎士団に所属する祓魔師エクソシストだ。以後よろしく頼む」


 朝霧は、エクソシストというオカルト用語に引っかかっていたが、ファンの「この術を発動した堕ちた竜──悪魔を退治するのに特化した職業だよ」という解説のおかげで、大まかながら理解できた。

 まぁ、正確には悪魔は魔龍族だとかいう余計な解説のおかげで、また頭が混乱したりともしているのだが──、

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