【第60話】少し頑張らないと
朝霧は、目を覚ますと体感的に朝だと思った。実際、目覚まし時計の針は十時を指している。ふと隣を見るとファンの姿はもうなかった。
「さて、俺も起きるかな」
朝霧は、そんな独り言を言いながら起き上がる。寝室を出ると野菜炒めのような匂いが漂ってくる。
また、ファンに朝飯作らしちまったか。
朝霧は、そんなことを思いながら台所を覗く。と、そこにはファンと健二の姿があった。
「あっ……。はやておはよー」
「よっ」
「えーと……なぜに健二が?」
「あぁ……先程ファンちゃんが俺の部屋に来ましてね。『フライパンが使えない』と助けを求めてきたので俺の部屋のを……」
そういや、昨日バカが能力でムチャな料理してぶっ壊したんだっけ……。とりあえず結月からフライパンを貰わないと……じゃないと、このままじゃ健二に迷惑をかけすぎることになる。
「にしてもファンちゃん料理上手いな」
「ん? あぁ……それについては、俺も同感だ」
ファン曰わく『下界の料理は一通り学んだ』と言っていたが、玉子焼を知らなかったことからどうせ俺の作り方を見真似してるのだろう。
それにしても上手く作れるのだからたいしたものだ。
「それじゃあお皿に盛るからテーブルまで持っていってくれる?」
「分かった」
ファンは、フライパンの野菜炒めを慣れた手つきで皿に盛りつける。朝霧も見てるだけでは気が引けると思い、茶碗にご飯を盛っていく。
「健二さんも食べてって」
「あっ……アザッス」
盛りつけられたご飯と野菜炒めをテーブルに運び3人は、席に着く。
「いただきます」
三人揃って食事のあいさつを終えると勢いよく食べ出す。食べ終わるのに時間はかからず十分ほどで、食器は流し台へと運ばれた。
「そんじゃあ俺帰るわ。じゃあな」
「おう」
「あっ……そうそう。ハヤテに話があったんだ」
「ん?」
「結月さんのことなんだが──」
朝霧と健二がそんな話をしている頃、結月は自分の部屋のパソコンで『夕霞 健吾』のことを調べていた。なぜかというと、榊原の言った言葉が気になったからだ。
──お前の父さんは俺が殺した。
別にあんな奴が殺されようと知ったことではないが、もしそうなら母さんが悲しむであろうことは火を見るより明らかだ。
だが、もし死んでいるのなら関連施設は閉鎖しているはず。あんな大それた実験を公にするとは考えにくいし、そもそも提携機関がないことは調べがついてる。
このようなことから、結月は健吾のことを調べていた。
だが──。
「んー……どこもここも閉鎖してないか」
結月の読みは外れた。結月は、父さんの研究を継ぐものがいるのかと考え、調べることを止めようとしたその時──、
『研究所爆破事件』という見出しのサイトを発見した。結月は気になり、そのサイトを開いた。
そこには『七月二十四日の明朝。夕霞健吾氏の運営していたクローン研究所が連続爆破の犯人によって破壊された。この前にも同人物により、夕霞氏のクローン開発施設が破壊されたばかりであり、捜査当局は犯人がなんらかの恨みを持っていたと見て捜査をしている』
この事件は、結月にとって忘れたくても忘れられない事件だ。なぜならこの犯人を結月自身が捕まえたからだ。
まぁ実際は忘れたくても忘れられないというのは、犯人が結月に向かって「こんな小学生に捕まるとは」と言ったからなのだが……。
「確か犯人は第二特別区の叢雲地区の拘置所にいるんだっけ……」
結月は、そんなことを呟きながら風呂場へと向かう。徹夜で風呂にも入らず健吾のことを調べていたため汗でベタついているのだ。
結月は、ささっと服を脱ぎ風呂場に入る。シャワーをザーッと浴びながら今日の予定を頭の中で考える。
──さて、少し頑張らないと。




