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【第45話】安否確認

 朝霧とファンは、ナポリタンを平らげ店を出るところだった。

 時計を見てみると、昼の一二時。昼時だからなのか、店を入れ違いで入る客がとても多いことに気がいた。


「さて、そろそろ出るか」


 朝霧は長居するのも店に悪いと思い、立ち上がる。そしてレジの方へ歩き出した。

 ファンもつられて朝霧の後を追う。レジでは既に朝霧が支払いを済ませており、店員の「ありがとうございました~」という声が聞こえてくる。

 朝霧は店の出口を出て一旦止まり、ファンを見る。


「小遣いもあるし、どっか行きたいとことかあるか?」

「んー……。銭湯は?」

「小遣い入っても庶民的だな。それに銭湯は無料だぞ。まぁ別に良いけど」

「やった~」


 ファンはにっこにこになりながら、朝霧と一緒に歩き出す。すると、目の前に先程の赤髪の男が歩いていることに気がついた。


「土屋さんちは見つかりましたか?」


 なんとなく話しかけてみる。もし、何か大事な用で、まだ家が見つからないのなら、交番を教えれば……と、思ったからだ。が、男は「あ? あぁさっきのアンタか。さっき土屋には会ったから大丈夫。ありがとな」と言いフラフラと歩いていった。


「な~んだか変な男」

「こ、こら。そんなこと言っちゃ……」

「別にそういう意味で言った訳じゃないよ?」


 ファンが少し不服そうな顔で朝霧を見上げてくる。


「なんというか邪悪なものを奥に秘めてるような。そんな雰囲気を漂わせててね。私なぜか知らないけど、そういうのには敏感だから」

「なるほどな。でもお前、敏感って……」


 少し笑いそうになるのを抑えながら朝霧は、ファンにそう言う。が、ファンの不服そうな顔は一層高まり、睨むような目に変わった。


「……はやて変態」


 そして、朝霧にそう呟く。それは、たった少しの呟きなのに朝霧にとって胸を貫くほどの大ダメージを負わせた。


「まてまてまて! そういう意味じゃねぇから! それじゃあ俺がまるでロリコンさんの変態さんみたいじゃねぇか!」


 そう朝霧が叫ぶ。そこで、朝霧はふと我にかえる。


 ここ歩道でしたね。


 気づいたときは、とき既に遅し。周囲の人は皆が皆、危ない人を見るかのような目で朝霧を睨んでいた。その様子は、蔑んでいたと言っても過言ではない。


「はやてったら本当に変態さんにならなくても──」

「お前はもう良い。黙ってろ」


 気を落としたような細く小さい声でファンにそう言う。段々こいつが結月に見えてきそうで怖くなる。

 もうなんて言うか……無邪気って怖い。


「帰るぞ……」


 トボトボと、冷たい視線に耐えながら歩きだす。このままじゃ通報されちまうのではないだろうかという不安が朝霧を襲った。

 寮に着くと、さっきまでの疲れが出たのか銭湯に行きたいとは思えなくなった。


「えーと……。さっきはごめん」


 ファンが朝霧の目の前で、ちょこんと謝る。やっぱり仕草は、可愛いんだよな~なんてことを考えながら「別に良いから。休ませてくれ」と、ファンに休みを乞う。

 精神的に疲れたため眠りにつくのに時間はかからなかった。






「ん……そういや寝てたのか……」


 そう呟き起きたのは、四時を少し過ぎたころのことだった。部屋を見渡すと、少し衣服が散らかってたのが整理されていた。ファンが片付けてくれたのだろう。当のファンは、疲れで眠っているみたいだが。

 伸びをし、手元にあるスマホをとる。電源を入れ、YaRoo!を開くと聞き覚えのある名前が書かれてあった。


 『五大能力者の土屋 健吾さん、死亡』。


 寝ぼけている頭で、なんとなくそのページを開く。と、それと同時に眠気が吹っ飛ぶほどの事実が目の前に広がった。


 『警察によると、五大能力者で有名な土屋 健吾さん(十八)が殺害された可能性があるとのこと。人工衛星の画像を解析したところ第三特別区で建設中の宇宙エレベーターの工事現場にて、大規模な地形の隆起、沈降を確認。これほどまでの大地操作が可能なのは、超能力者ランク(Sランカー)である土屋さん以外には考えられなく、その後赤い血溜まりのようなものが確認されたことから殺害されたかもしれないとの結論に至ったとのこと。犯人の分かっている特徴は、赤髪だということしかない』


 このようなことが、そこには書かれてあった。

 朝霧は、赤髪の人間という者に見覚えがあった。そしてそのことに驚きと恐怖が入り混じった。いや、恐怖したのは次の文を見たときと言った方が正しいだろう。


『なお、犯人は五大能力者を既に三人殺しているとみられ残り二人には、注意を呼びかけている』


 五大能力者なんて朝霧にとって、天と地ほどの差がある人間──だが、朝霧はそのなかの一人に昔からの知り合いがいる。

 すぐさま携帯で電話をかけた。電話帳を開き、発信ボタンを押す。何回か呼び出し音が鳴り、「どうしたのハヤテ?」という声が聞こえてくる。


「結月! お前無事か!?」

「な、なによ? もしかして、五大能力者殺しのこと?」

「そうだよ!」

「心配しなくとも、今黒崎と一緒にいるからそうそう殺られないわよ」


 朝霧は、安堵しホッとする。休んだはずなのに疲れがドッと出ていることが実感できた。


「なら良かった……。そういや今日も銭湯行くんだが、ファンの面倒見てくんねーか? 女子風呂に俺が入ったら逮捕されっから」

「別に良いけど。公安からは、黒崎と一緒ならどこ行っても構わないと言われてるし」

「了解。じゃあ七時に現地集合で」

「分かった。じゃあ七時に」


 そんな結月の声が聞こえたと同時に通話が切れる。安心のためか朝霧は、二度目の睡魔に襲われた。

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