【第43話】五大能力者
朝霧達は、ホームからの『まもなく列車が来ます』というアナウンスを聞いた途端、ホームに繋がる階段を駆け上っていく。
タイミングは、図ったかのようにバッチリで、余裕で停まっている列車に乗り込めた。列車は急行『晴海海岸』行きで第三特別区は、次の駅だということが分かる。
と、その電車は発車ベルと同時にドアを閉めると、第三特別区へと向かう。わずか十数分で駅につき、目の前には見慣れた風景が広がった。無機質で生活感のないビル群、うんいつも通りの第三特別区だ。
朝霧達は、電車を降り、改札を抜けその無機質なビル街を歩く。一五分くらい歩いただろうか。やっとの思いで寮の前までたどり着く。
「じゃあな結月。女子寮の場所分かるか?」
「バカにしないでよね。公安委員会で、ここらの道とか建物とか全て頭に入ってるんだから」
「そうかそうか。じゃあ楓さんの案内頼んだぞ」
「言われなくてもよ」
そう言うと結月は、楓を連れて消えていく。黒崎も家へと帰っていったらしい。その場には朝霧と健二、ファン、海龍しかいなかった。
「……んで、海龍はどうすんだ?」
朝霧は、一番の疑問を口に出す。さすがにファンに加えて海龍をも朝霧が住ませるとなると金がいくらあっても足りない。
「私らが預かろう。今更ファンロン様を殺そうとは、しないであろうしな」
後ろからそんな声が聞こえてくる。ビクッとしながら後ろを見ると、そこにはヴィシャップとアデスが立っていた。
二人は、なにやら疲れたような顔をしており、昨日の疲れがまだ取れてないであろうことが伺える。
「な、なんだ!? この人達いつのまに……?」
健二がいきなり背後に現れたヴィシャップ達に驚く。まぁ無理もないだろう。が、健二の次の言葉は意外なものであった。
「あっ、えーと……妖怪かなんか?」
「へ? 妖怪?」
「あっ……いえ、なんでもないです」
健二は、話を逸らすかのように「それより部屋に……」と、言う。朝霧は、そんな健二の反応にツッコまない方が良いのだろうと直感し、それ以上は聞かなかった。
「あ……あぁ、そうだな。とりあえず海龍をよろしくお願いします。じゃあ海龍、またな!」
海龍は少し顔を縦に振るが、何も喋らなかった。そんな海龍を背に健二を部屋へと案内する。
「えーと……部屋は俺の隣だな。何かあったら隣に来てくれれば、できる範囲で協力するから……」
「分かった。わざわざありがとな」
健二はそう言い部屋へと入っていく。ドアのあいた隙間から部屋の中が見える。まさに空き部屋と言った感じで生活感のない空間が広がっていた。
逆を言えば全く散らかってなく、羨ましい限りなのだが。
「ハヤテ……。私のこと忘れてたりしないよね?」
「ん? ファンのこと忘れたりしねぇよ。飯が食いたいんだろ?」
「分かってるじゃない。そうと決まればファミレスへレッツゴーだよ!」
ファンはそう言うと寮の前の道へと駆け出す。その様子は、遊園地にでも行く子供のような姿だった。
「ちょっ……その前に銀行行かねぇと……」
今日は、やっときた小遣い支給日なのだ。銀行に五万円くらいは入っただろう。まぁ二人暮らしの一ヶ月を五万円って……もう趣味には使えないなぁ。
なんてことを考えながら先を急ぐファンを追いかける。ファンと一緒に銀行へと入り、お金を引き出した。
「ねぇねぇ。まだ~?」
「今終わったから。五千円ありゃ十分だろ」
銀行で五千円の引き出しを完了させ、今回の目的であるファミレスへ移動し始める。
「ファミレスって、どんな料理があるのかなぁ」
ファンが隣でそんなことを呟いている。
人生初めてのファミレスなので期待してるのだろうが、ファミレスの料理など知れている。大抵は庶民料理だ。
まぁ子供のためにと言わんばかりのサイドメニューの豊富さは、ファン(のような幼児)にはとても喜ばれるのだろうが……。
妹がいたらこんな感じなのかなぁなどと考えながら歩いていると、目の前から歩いてきた赤髪の男に肩をたたかれる。
「お前、土屋 健吾とかいう人の家知ってるか?」
初対面でタメのうえお前ってなんだコイツ。などと、思いながら「五大能力者の? あまりそういう方々との関わりがないので分からないです」と、答える。
五大能力者と完全に関わりがないと言えば嘘になるのだが……土屋という人間に関わりがないことに変わりはない。
すると、男は「そうか。なら良いんだ」と言いまたどこかへ歩いていった。
「五大能力者?」
ファンが頭の上に『?』を浮かべながら訊いてくる。まるで算数のかけ算がわからない小学生が、先生に質問をするような目だ。
「五大能力者ってのは五大元素を操る超能力者──つまり、Sランカーの総称だよ」
「五大元素というと…… 火・水・地・風・空のこと?」
「なんでそんなマニアックなこと知ってんだ」
「これでも竜だからね。仏教は一通り学んでるんだよ」
「な、なるほど……」
「そんなことよりファミレス着いたよ?」
視線をファンから前に向ける。と、ファミレスがデデンと建っていた。建物に汚れなく清潔感がある。更に第三特別区特有の無機質な感じもなく生活感溢れるものが、そこにはあった。
朝霧達は、ファミレスに入り、席に案内してもらう。
「ナポレオン食べたいかな~」
「偉人を食ってどうする。ナポリタンだろ」
「そうとも言うね~」
知識に偏りがありすぎだろ。と、朝霧はつくづく思う。仏教のマニアックな知識を知っているのに、中学生レベルの歴史を知らないなんて……。
朝霧がそんなことを考えていると、ファンが店員を呼びナポリタンを2つ頼む。
品を待つ間、暇なのでスマホでインターネットを見ていたところ朝霧は驚きすぎて、大声をあげるところだった。
YaRoo!(ヤルー!)の検索トップに『釜本山爆破の犯人は電気系能力者』というものがあったからだ。
「ど、どうしたの?」
ファンが行動のおかしい朝霧にそう訊ねる。が、今はファンを構ってる暇はない。その見出しをクリックし、ページを表示させる。
ページには
『警察の人工衛星の写真を解析したところ一筋の光が確認された。これは紛れもない電子レーザーである。が、今の電子レーザーでは、これほどまでの威力は出せないことから電気系能力者の可能性が高いと警察は発表した。
また、EWU放出物質は時間が経つと消滅することから能力者の可能性は更に高まると超能力学者の意見が出された。が、一部の超能力学者は、EWU放出物質が完全に消えるまで少なくとも一週間はかかることから能力者の仕業ということは有り得ないとの意見も出ており、捜査は難航すると思われる』と書いてあった。
朝霧は、少しホットするのと同時に疲れがドッとでる。
もし、犯人が自分だと分かれば逮捕されかねない……そう思ったからだ。




