【第39話】電子光線
朝霧は、走りながら目の前のゾンビに近寄る。そして次の瞬間、ゾンビの脳天に高電圧の稲妻をぶち当て、頭を吹っ飛ばした。
朝霧はゾンビの位置確認も兼ねて後ろを振り向く。と、結月にゾンビが迫っていたのが分かった。「ヤバい!!」と朝霧が迎撃しようとした瞬間、しかしゾンビが跡形もなく消し飛ぶ。いや、燃え尽きるというほうが正しい。
「悪いわね……もう慣れたわ」
そう結月が呟くと同時に結月の周りが炎に包まれる。火の粉が庭の芝生に落ちないかとヒヤヒヤするが、今は気にしてる場合ではない。
黒崎も近くにいるゾンビを氷漬けにし、応戦する。なんだかんだで二人の頼もしさを実感し、朝霧は苦笑いを浮かべた。
だが、そんなことを考えるのも束の間、目の前のゾンビは死ぬことを知らず何度も立ち上がる。なかには首が無くなっている者もいることから、脳天をぶち抜いても数分間は生き続けることが可能だということが分かった。となると、これだけの量をこのままの方法で潰すのは少し無理があるのは明白だ。
「埒があかねぇな……くそ。結月、黒崎さん! 伏せて!」
朝霧はそう叫ぶと、空中へと瞬間移動する。同時に右の拳に電気を溜めると、それを地面に落とすように投げ下ろした。
刹那、伏せた結月と黒崎の上空を稲妻が走る。
爆発音。そして衝撃。無数にいたゾンビ達が煙に巻かれ見えなくなる。
──やったか……?
朝霧は地面に着地した。立ちこめる煙の層が薄くなり、そして消える。しかしゾンビは消えていなかった。ゆらりと立ち上がり、またこちらへ歩を進めくる。結月は苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「……まるで不死身ね。良い気分しないわ」
「…………」
朝霧は不意に結月の方に顔を向けた。そしてなにかを言おうとして、それは黒崎の「前!」といえ声に阻まれる。
朝霧は正面に振り返る。と、そこには獲物に飛びかかるライオンのようなゾンビがいた。とっさに電撃を繰り出すと、それを吹き飛ばす。が──、
数瞬後、月明かりに、無数のシルエットが浮かび上がった。それがゾンビだと分かったのは、さらにコンマ一秒後のことだ。
朝霧は右手に電気を溜め、すぐさま前面に放出する。電撃の網がゾンビを何体か吹き飛ばした。が、大多数は網の目をくぐるように抜けてくる。
そして結月の目の前に八体のゾンビが降り立つ。降り立つ、などというほど綺麗な着地ではなく、骨が砕けるような音が鳴り響いたのだが。
結果的に、その音に畏縮した結月はゾンビに対しての反応が遅れた。ゾンビの一体が結月の顔めがけて、鋭利な爪を振り下ろした。
バン!
小さな爆発音とともに、結月に襲いかかったゾンビが吹き飛んだ。
「結月に手ぇ出すんじゃねぇよ……」
結月の目の前に瞬間移動した朝霧の、ボソッとつぶやいた声が小さく、低く、響いた。後ろにいた七体のゾンビが折れた脚でなお飛びかかる。朝霧は人差し指を向けると、そこに電気を全力で溜め──、
放出した。
無数にいたゾンビ全員が蒸発したかのように消し飛ぶ。
そして、はるか向こうに見える山にビームがぶち当たり、爆発した。
「大丈夫か、結月?」
「う、うん」
「ったく……まだ過去のことでなんかあんなら相談しろっての」
「別になんにもないし」
「嘘つけ」
朝霧ははっきりと言う。
「だったらなんで今日、俺に昔話しようと思ったんだよ」
「……別に、深い意味はないに決まってるでしょ」
「…………。そうか。まぁ俺はお前の話なら、どんな意味のない内容でも聞くから、それだけは言っとくわ」
「……愚痴でも?」
「あぁもちろん」
「どうでも良いような世間話でも?」
「あぁもちろん」
「ハヤテへの悪口も?」
「それは言わないで貰えると嬉しいかな?」
結月はクスクスと笑う。暗かった顔が少し晴れたような気がした。
「やっぱハヤテはハヤテかぁ」
「……? なんだそりゃ」
「なんでもなーい」
「あのぉ?」
と、そこで後方から声が聞こえた。
「そこで良い雰囲気を醸し出してるとこ悪いんですけど……ゾンビも消滅したことだしそろそろ寝ません?」
黒崎が酷く不機嫌そうな顔で、そう朝霧達に言う。
完全に仲間外れにされていたのが気に食わないのだろうか? と、朝霧は思った。だが、それを指摘しても怒りを助長するだけだと思い、朝霧は黒崎に合わせることにする。
「そ、そうだな。わりぃわりぃ」
そんなことを話ながらポチも一緒に連れて家へ入る。
その様子をゾンビを輸送した運転手は唖然としながら見ていた。
──で、電子光線!? と、とにかく健介さんに連絡を……!!
運転手は、携帯を取り出し健介に電話する。何度か呼び出し音がしたあと「はい」という声が聞こえてくる。
「き、聞いてねーぞ! なんだあの少年は!」
「何かハプニングでも?」
「電子光線を放てるような能力者がいたんだよ! あんな化け物がいるなんて聞いてねぇぞ!」
「電子使いですか……? フム、あの村にも厄介な能力者がいたものですね。仕方ない、今回は退きましょう。とにかくあなたは帰投してください。捕まっては事だ」
「分かった。とにかくそんなことがあってデータは取れなかったけど……報酬は貰えるんだろうな!?」
そう運転手が言うと、健介の少し笑った声が聞こえる。
「えぇもちろん。その代わりに面白い情報が得られたから良い」
「そ、そうか。なら良いんだが……じゃあ切るぞ」
運転手は、通話を切る。その頃健介は、高笑いをしていた。
電子光線……聞いたことのない能力者だ。電子使いと見ても、そのレベルは間違いなくSランカー……。これは研究の余地がありそうだな。EWU放出物質も視野に入れ調査を開始するとしよう。
「健介。あいつ生命活動再開したぞ」
と、太った男が健介を想像の世界から現実に戻すかのように報告をする。それを聞き健介は、カプセルを開いた。
「榊原君、起きたか! 調子はどうだい?」
「まぁまぁかな~」
「これで私の研究は成功した……ありがとう」
「まぁ感謝するのは俺のほうだよ~。これで俺は5大能力者より強くなれたわけだし……。いや四天王レベルかなぁ」
「まぁ理論上はな」
「理論上?」
榊原と呼ばれる男は健吾を少しばかり睨みつける。
「あぁ。俺の分析からそうでてる」
「なんだぁ。確実じゃないのかぁ。まぁだったら実証するまでだけどねぇ」
榊原がニヤリと笑う。それは、とても楽しそうな……愉快そうな、狂気に満ちた笑顔であった。
「だ、ダメだ。君はこれから調査を……」
「俺が何も知らないと思ってんのかぁ? 知ってんだぞ。これの前に実験されてた不死能力のこと。実験で成功した人間が拷問とも受け取れる調査をされてることもなぁ」
「そ、それは……!!」
「俺はそんなことにつき合うなんて真っ平ごめんだ。行かせてもらうぜぇ」
榊原は、近くにあった白衣を生身の上から直に着ると出口の方へと歩き出す。が、太った男が腕を広げて阻止しようとする。
「なんだぁ? 邪魔すんなら殺すぞ」
「健介……作動させろ」
そう言った途端、電子音が部屋に響く。ウィーンという音は、どこかで聞いたことがあるような音であった。が、それがただの音ではないということに榊原は気がついていた。
「能力殺しか」
「さて、こちらに来てもらおうか。君には付き合ってもらわないと困るんだ」
「断るねぇ。能力殺しが適用されんのは現在明らかにされている能力を持つ超能力者ランクまでだろぉ? はったりは、止せよ。俺の今明らかにされたばかりの能力にそいつは通用しねぇぞ?」
榊原が指の関節をパキパキと鳴らせる。次の瞬間拳を握り、思いっきり地面を叩く。地面が消え去り、壁もろとも天井が崩落し始めた。
の、能力殺しで弱体化されてるはずなのに……!!
そう思った瞬間健介は、気がつく。数メートル先に肉片と血が散らばっていることに……。紛れもない太った男の死骸だった。それに気を取られ健介は、自分の背後に榊原が回っていることに気がつかなかった。
榊原が健介の背中を触った途端、健介の身体に丸状の穴がぽっかりあく。すかさず榊原は、健介の頭部や足を消し飛ばす。わずか数秒の出来事だった。
そして。全員が消殺された後、研究所は崩落、爆発を起こした。




