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【第34話】お父さんがやるんだから大丈夫だよ

「──心配するな。危険な実験じゃないからな……」


 学校が休みの夏休みのなか、カプセル型の機械の中にあるベットに寝かされた少女──結月に男はそう話しかける。

 機械にはいくつもの配線が伸びており、物々しい雰囲気を醸し出していた。カプセル型の機械のある部屋は、それ以外にも配線が大量にあるが、他に物があるわけではない。

 なんだかこのカプセル型の機械のために作られた部屋のようだ。

 隣の部屋とはガラスで仕切っているため、そちらにいる女の顔がしっかりと見れる。

 結月は、目の前の男──つまり父である健介の実験の被験者になるところであった。実験というのは、新たな能力を作成するというもの。それは誰もが憧れ、なれない存在である不老不死になるための能力だ。

 そんな不可能とも思える実験を隣の部屋でガラス越しに観察する女──つまり結月の母である広美は、不安げな視線で結月を見ていた。

 まだ解明されていない未知な能力ということや、まだ結月が小学校4年生という幼い身体であるということが広美の不安を一層強める。


「お父さんがやるんだから大丈夫だよ」


 結月が健介にそう言う。少し普通ではない光景のなかで、微笑ましい家族愛がそこにはあった。

 健介は少し安心した顔を見せる結月に笑顔を見せ、カプセル型の機械を閉じる。完全に密閉されたカプセル内にパイプで酸素を送り始めた。


 実験時間は、最大で十二時間。


 身体が新たな能力に適応できるかどうかは十二時間で決まる。つまり十二時間経って生命反応が示されなかったら結月は死ぬということである。

 健介は、隣の部屋へと入りBAS溶液を結月へと注入するためのボタンを押す。この溶液は、能力開発をする際に絶対に使用しなくてはならないもので、使用せず能力を開発すれば被験者は、拒絶反応を起こし死に至る。

 健介は、生命反応の消滅を確認するとEII型溶液を結月に注入するためのボタンを押す。

 EII型溶液は、この世に一つしか種類が存在しない。そのためどの能力が自分に備わるかは、分からず全てランダムなのだ。が、健介の作ったEII溶液は違った。確実に不死能力が備わるものなのである。

 ──これが成功すれば、人類最大の発明になる……!

 健介は、そんな気持ちでいっぱいだった。だからこそ溺愛していた自分の娘すらも実験体として使った。

 俺は間違ったことはしていない。

 罪悪感をなくすかのようにそんなことを考えた。何時間その場で、その行為をしていただろう。瞬間、甲高い機械音が鳴り響く。


「生命活動を再開したか……」


 気がつけば十時間もすぎていたようだ。どうやら結月の身体はEII型溶液に適応できたようで、カプセル型の機械のなかで目を開けているのが伺える。カプセルを閉じていた蓋が開き結月が起き上がった。

 これで実験は成功か……。

 健介が安心する。が、健介の思惑通りに物事は進まなかった。結月の治癒能力は今まで通りで、能力検査では無能力者の判定が出たのだ。

 結局変わったことは、EII型溶液が成長ホルモンを止めてしまい結月の成長が止まってしまったということだけだった……。

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