【第32話】起きてみたらハッピーイベント発生中
──なんか懐かしいなぁ
深い眠りに就いている朝霧は、ふとそんなことを思った。それは、昔……まだ捨てられる前の頃の記憶のような。
すると、「起きて」という声が聞こえてくる。
もう着いたのか……?。
朝霧が、目を開けると目の前には結月がいた。顔と顔がくっつきそうなほど、距離がわずかであることに驚く。心臓がこれ以上ないほどにバクバクになった。
「えーとね……ちょっと重いんだけど……」
重い? と疑問が浮かぶが頭から伝わってくるフニャフニャする感覚で疑問と眠気が吹っ飛ぶ。
このフニャフニャは、結月の太もも!? ってことは今膝枕状態!?
「ご、ごめん!」
朝霧は、バッと起きて周りの状況を確認する。電車の窓から見える月などから夜なのだと直感する。そこまでは、良かった。案内表示板を見た途端夢かと錯覚する。というか夢であって欲しかったというのが正確な表現か。
『次は第二六都市 桜新町』。
二六都市は、朝霧達の住む第二四都市の隣町。ただしく言えば隣県だ。つまり朝霧達は寝ていて降り損ねたというわけである。
「……ってなんでこんなところに!?」
「私も寝ちゃって……。それと今気づいたんだけど、この車両が終電らしい。ネットで確認したから確かなはず」
終電!?
朝霧は、腕時計を見る。が、まだ二一時前だ。
「まだ九時にもなってねーのにか?」
そう朝霧が結月に言うが結月は、はぁとため息をつく。なにか間違ったことを言っただろうか?
大体の鉄道会社は二三~二四時に終電になる。現代の国鉄と言われる東鉄なら、それこそ深夜も走っていておかしくないと思うのだが……。
「忘れたの? 晴村線は、九時を過ぎると晴美海岸駅から第三特別区までしか運行しないじゃない」
朝霧は、ここでハッと思い出す。
そういえば晴村線は、東京鉄道のなかでも利用客が比較的少ない路線。だから二一時という利用客が激減する時間帯からは、主要駅である晴美海岸から第三特別区しか運行しないのだ。
朝霧は、第三特別区内で大抵の用事は済ませるため、このことを完全に忘れていた。
ちなみに第三特別区というのは朝霧の住む地区のこと。超能力の研究機関が特別多くある地域であるため特別区という異名が地名になっている。
「どうすんだよ。これじゃあ帰れねぇじゃねーか」
「大丈夫。とりあえず桜新町で降りよう。おじいちゃん家があるからなんとかなると思うし……」
そう結月が言うと、「次は桜新町~、桜新町~」というアナウンスが聞こえる。つまり、電車は最後の綱である結月のおじいちゃん家がある駅に着こうとしているのである。
まだスースーと寝ているファン、黒崎、海龍をたたき起こす。全員が起きたと同時くらいに電車がホームにつき扉が開いた。朝霧は、まだ寝ぼけているファンをおんぶしながらホームへとでる。
ホームからは、ビル群の明かりがキラキラと見え、それはまるで星々を連想させる。まぁ本物の星は、その光のせいで見えないのだが……。
と、先導する結月のあとにつき改札を出るとバスターミナルが広がった。
「とりあえずあっちを歩いていけばおじいちゃん家だから……」
そう結月が言い歩き出す。まるで遠足のように、結月を先頭にした大所帯は大通りを歩いていく。




