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【第28話】反撃開始

「アァ、ムカつくな。弱ぇくせにでしゃばってんじゃねぇぞクソ野郎がァッ!」

 

 海龍の右手から水柱が生成され朝霧を襲う。回転しているそれは、まるで渦潮のようだ。

 しかし朝霧もそれを生身で受け止めるつもりは毛頭ない。慣れない動作で、左手から二本の雷撃を生成し迎撃する。高電圧の雷撃は、水を強引に弾き海龍にぶち当たった。


 ──なぜ、だ……。

 ──私の技は完璧のはず。

 ──なのになぜ……竜の力の使い方もままならないこんな奴に負けるんだ?

 ──この少年は何千年と修行した私より強い?


 いや。

 そんなことは許せない、許さない、許されない。絶対に。絶対に!


 殺してやる。


 海龍は、意識が遠のくなか、朝霧を睨む。そこで朝霧が宙に浮いていることに気がついた。


「ヴィシャップ」


 それを端で見ていたアデスが隣に立つ女に声をかける。


「なんでしょう」

「面白いな、あの少年」


 アデスは楽しそうに笑いながら、それだけ言った。

 海龍もまた、アデスと同じことを感じ取っていながら、しかし奥歯を強く噛みしめていた。


 ──海界の王(タラッタ・バシレウス)の一撃を無意識とはいえ軽減させ。

 ──しかも風を操り、水圧を0近くまで減らし。

 ──気配の消し方も素人とは思えない。


 アデスと海龍が感じ取ったこと。それは朝霧の異常さだ。なんの訓練も受けてない少年とは思えぬ、あまりにも高い戦闘能力。戦闘だけに絞るのなら、朝霧は天才と言えるかもしれない。


 だが、黒龍会の者として何千年と修行した意地がある。上級龍族としてのプライドがある。こんなところで、こんな若造に負けるわけにはいかないのだ、と海龍の本能が囁く。


 どんどんと薄まる意識の中で、海龍は両手から先程と同じ水柱を生成した。ついで朝霧に攻撃する。

 さっきと全く同じパターンの攻撃。また雷撃で迎撃すれば問題ない。

 朝霧はそう考えながら、右手から雷撃を生成させ迎撃しようとした。そのとき──。


「なっ!?」


 二本の水柱は、雷撃を左右に避けながら朝霧を襲った。


「バカが! くぐり抜けてきた修羅場の数が違うんだよ!」


 二本の水柱はまるでハサミのように、朝霧を挟み込む。と同時に水柱の回転が強まり朝霧の皮を雑巾を絞るかのようにしダメージを与えていく。

 だが朝霧も必死に力を入れた。すると高電圧の電流が水を伝って海龍に流れる。それと同時に朝霧の身体が光り、そして消えた。いや正確には数十メートル先に朝霧の身体が瞬間移動した。


「ぐっ……なんなんだいその能力は。瞬間移動など聞いたことも見たこともないぞ」

「竜のお前が知らなくて俺が知ってると思うのかよ」

「ふっ、いーや、思わないね」


 海龍がふてぶてしく呟く。と同時に一筋の水柱を生成し、朝霧へ攻撃をしかける。


「けど理屈も知らない能力を使ってるようなヤツに負けるとは、もっと思わないね!」


 水柱は朝霧の直前で三筋に分裂し、多方向から迫る。しかし。刹那、眩しいほどの雷光が、朝霧の周囲に何本も展開される。雷の檻にぶつかった水柱は、進むことも退くこともできずに留まった。


 朝霧はその場から十数メートル上空へ瞬間移動する。そして海上へ向けて拳から暴風を巻き起こした。


「──ッ!?」


 急速で落ちた暴風により水がえぐられ、水が空中に散る。


 一体なにを。


「確かにお前は無知な俺なんかに負けやしねぇよ。けどお前は勝てもしねぇ。誰かを殺すことを肯定するようなヤツに、俺は負けるとは思わないんでな!」


 右手から生成された5本の雷撃が周りの水滴に通電する。雷撃は、無数に分岐していき複雑な攻撃パターンを作り出す。そして、無数の分岐した雷撃は海龍の頭上で一つの雷撃に戻り、海龍に直撃した。

 ドンという音とともに海龍の意識は完全に消滅する。


「うっ……………っがぁぁぁぁぁぁ!!」


 だが、龍術魔本に精神を侵されている海龍は本能のままに暴走し始める。「朝霧を殺す」と決めた本能は、普通あり得ない程の出力で両手に水の飛礫を生成させ圧縮していく。自分の生死など考えないその行為は、とんでもないエネルギーの飛礫を作り上げていった。

 朝霧が、雷撃で攻撃しようと右手の手のひらを海龍に向けた瞬間──、


「龍剣『空間斬撃』」


 そんな声と同時に海龍の体が宙に浮く。見たことのある衝撃波が海龍を吹っ飛ばしたのだ。

 と、同時に海龍の右手が斬撃によって吹っ飛んだ。

 両手で制御をしていた海龍の渾身の一撃ともいえる水の飛礫は、仰向けの状態で射出され宇宙の彼方に飛んでいく。

 海龍は、そのまま波打ち際へと落下した。

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