表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/124

【第26話】海界の王の猛攻

 朝霧は、呆けながら目の前に誕生した巨人に圧倒される。何よりもこれが生命体だと考えると一層恐怖心を煽られる。

 ──こんなもん倒しようがねーだろ!

 これが朝霧の本心だった。攻撃しても再生するのがオチ。倒すには力を与えている海龍を倒さないといけない……。が、そもそも攻撃が通らないため倒しようがない。ハッキリ言ってムリゲーだ。

 そんな困惑する朝霧をよそに、海界の王(タラッタ・バシレウス)は、巨大な右手をゆっくりと振りかざす。天高く上がった右手は朝霧めがけて、振り下ろされ彼の身体を見事に潰す──はずだった。

 パキパキ。

 そんな音をたてながら巨人は凍り始め、動きが止まる。


「なんだかよく分からないけど……いくら再生ができても動きさえ止めてしまえばこちらのものよね? いい加減観念した方が貴女のためよ」


 黒崎が女に向かいそう言う。


 ──そうか……無理に力を殺そうなんて考えなくても、動きさえ封じられれば隙ができる!

 ──よし、今のうちに。


 朝霧は、固まった巨人の拳を真下から波打ち際へと走ろうとする。が、女はこの状況でまだ少しにやけていた。その異様な表情に朝霧は、恐怖を覚え走るのを止める。


 パリン!


 そんな音がしたかと思った瞬間、巨人を包んでいた氷が割れ、水の塊へと戻る。と、巨人の右手が再び打撃をし始める。

 やば……。

 すかさず右手の手のひらを真上に向け爆風を放出させる。が、吹き飛んだ水の破片は、直後に再生していき元通りに戻る。

 朝霧は何度も爆風を真上に起こすが、幾度となく再生されるため、巨人の攻撃は止むことを知らず二回三回と続く。朝霧はそれを食い止めるのに精一杯で、巨人本体──ましてや海龍に攻撃を加えることなど不可能であった。

 そのため朝霧は、海龍の立つ水柱から射出された水の飛礫に気がつかなかった。

 ──なっ!!

 無数の水の飛礫は、朝霧の体のいたるところにぶち当たり、朝霧は痛みに耐えきれずその場にうずくまる。


「あっ……」


 そのとき朝霧は、自分に巨人の打撃が迫っていることに気がつく。朝霧の動きが完全に止まった。能力を発動させようにも間に合わない。

 朝霧の身体は、鈍い音とともに、水の拳に包まれた。


 何秒間かの沈黙が浜辺に訪れる。

 数秒が経ち、まず最初に状況を把握したのは結月だった。朝霧を助けるために動き始める。もちろん助ける術など彼女にはない。しかし動かなければ助けることなどできない。だから結月は走る。

 結月が水の拳の一〇メートル手前ほどまで近づいた時だった。突然、巨人の拳がパンという音をたてて、内側から破裂した。それと同時に朝霧の体が宙に舞う。


「ハヤテ!」


 結月は、思考よりもさきに走り出す。

 朝霧が落ちた落下点では、ドンという音と砂煙がたった。つまり、朝霧の体は砂浜に落ちた。

 と、その数秒後に結月が駆け寄る。


「ハ、ハヤテ! しっかりして!」


 意識がないのか指先すら動かさない。とにかく運ぼうと朝霧の体を抱き抱えようとするが、体格差の問題でビクともしない。

 結月が朝霧を運ぶなど、一般人がお相撲さんを運ぶのと同じくらい無理難題なものだ。だが、無我夢中の結月はそんな理屈に気がつかなかった。

 そして巨人がまた打撃を繰り出していることにも、気がつかなかった。

 ──っ!!

 結月が巨人の気配に気づいた時には、すでに遅かった。逃げることはおろか、迎撃することさえ不可能な距離まで拳が迫っていた。結月は歯を食いしばる。


「部位光化“腕”『龍の守護』」


 が、突如目の前に現れた男が巨人の打撃を受け止めた。瞬間、巨人の腕はおろか巨人の本体そのものが崩壊した。まるでそれは、風船が破裂したかのようだった。


「な、なんだ!?」


 海龍が困惑する。

 それもそのはずだ。龍術魔本が厳重に保管されていた理由は、それの生み出す力の強さにある。伝承では、ひとたび龍術魔本を発動すれば、その術式を殺すことはほぼ不可能と言われている。が、結月の目の前に立つ男は、いとも簡単に力を殺した。

 海龍が困惑しない方がおかしいのだ。


「貴様、ファンロン様に手を出そうなど百年早えんだよ、このくそったれが」

「て、てめぇ一体何者だ!?」

「俺を知らねーとは……黒龍会の教育も悪くなったものだな」

「……んなことはどうでも良い! さっさと質問に答えろ!」


 海龍がいらだちを露わにしながらわめき散らす。それは顔が美人の分類に入る海龍には似合わないものであった。

 そんな様子に結月やファンは少しビックリしたが、男は淡々と口を開く。


「……天空界王『アデス』と言えば理解できるか?」

「──ッ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ