【第19話】プライベートビーチへLet's go
真夏の炎天下。絶好の海水浴チャンスとも言えるこの日……。駅には朝霧とファン、結月、黒崎がいた。なぜだかファンが黒崎を怖がっているのが気になるところ。
まぁそれはともかく目指すは、黒崎のプライベートビーチ。どれだけ学園で儲かっているのだか……あの昭和の古臭ババアが。なんていう正当な意見をそっと胸の奥にしまい込みつつ改札を抜けていく。
「水着とか持ってこなくて良いってどういうことだ?」
ホームで黒崎に問いかける。すると黒崎は「貸し出し可能だから」と返してきた。まさか水着まで完備しているとは……。恐るべし昭和の──ではなく学園長(笑)。
そんなことを考えているとホームに電車が滑り込んでくる。行き先表示には『急行 第二二都市“晴海海岸”行き』と書いてある。
社会の授業で習ったことだが、昔の東京都という場所には晴海埠頭という場所があったらしいが、晴海海岸とは全く関係がないらしい。
朝霧は、そんなどうでもいいことを回想しながら電車に乗り込む。
冷房が効いており、真夏を感じさせない。これだから夏風邪をひくやつがいるわけだ、と朝霧は納得する。
「はやて~。少し寒くない?」
案の定ファンは、この気温差についていけてないみたいだ。朝霧は、念のために持ってきた上着をファンに着せる。
「少しはマシだろ? 晴海海岸まで少し時間掛かるから、それ着て寝てろ」
そう朝霧が言うと「分かった」とファンは返事をして、寝る体制になる。
寝ようとしてから落ちるまでに時間はかからなかったみたいだ。朝霧の肩に頭をのせスヤスヤ眠っている。無邪気な寝顔は、朝霧の罪悪感を助長させる。
──って俺は一体何を考えてんだ!?
朝霧は、顔をブンブンと横に振る。
と、そんな朝霧の異変に気づいたのか、すかさず結月が話しかける。
「にしてもファンちゃん懐いてるわね~。拾った子とは思えないくらいに」
その瞬間、沈黙が訪れる。
結月が放った言葉は、周りの時間を止めた。黒崎の動きが完全に止まり、辺りは電車の走行音以外何も聞こえなくなった。
「…………拾った子?」
そんな沈黙を破るように、黒崎が疑問を口にした。
──これはマズい。
朝霧の防衛本能は、危機的状況だと悟った。物理的にではなく社会的に……。なぜなら、もし目の前の友達が、いきなり『幼女拾って今養ってるんだ』なんて言い出したら、普通あなたはどういう反応をする?
普通なら一一〇番通報でお縄だ。
「あ、いやそれは……」
朝霧が戸惑っていると結月が助け舟を出す。
助け船も何もお前が言い出したのだが……。という正論をそっと胸にしまい込み、今は結月を頼りにすることにした。
「そ、そのね。ファンちゃん実は竜なのよ。卵の状態だったのを助けたとかで……」
まだ朝早いため、この車両に俺達四人しかいなかったのが幸いだろう。まぁいつかは話すことだし、隠してても仕方ないよな。
そんな開き直りに似たことを考える。しかし、黒崎の瞳は動揺の色から人をバカにする色に変わっただけだった。
「だれがそんな嘘を信じますか?」
まっとうな意見だと思う。そりゃあ目の前の少女は、実は竜でした──なんて話、普通は信じない。『頭沸いてんのか?』という言葉で決着がつくレベルだ。朝霧は、適当に話題を逸らす。
──今じゃなくてもいつか話せば良いよな。




