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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と騎士

読んでいただいてありがとうございます。

 正直に言うと、セレスは少し疲れていた。

 ガーデンにも帰れず、王妃と第二王子に付け狙われ、王都内を自由に出歩くことも出来ず、おまけに自分の気持ちにほんのちょっと前に気が付いたばかりなのに、それを本人に告げるのは待ったをかけられた状態だ。

 公爵家の人たちは全員優しく気も遣ってくれているので、居心地は悪くない。

 魅了の香水については、ガーデンに帰ってから研究しようと思っていたのだが、庭の一角にオースティがセレス専用の調剤小屋を建ててくれた。

 どうせここが実家になるのだから、帰って来た時に必要になるよ、そう言って父は、表からは見えない場所を好きに使っていいよと許可をくれた。

 一応、薬草の類いを扱うので万が一漏れるということも考えて、本邸からは少し離れた場所に建てられた小屋の中には、必要と思われる全ての物が用意された。

 小屋の周りには薬草園があり、基本的な薬草は植わっているが、手入れはもっぱら専属の庭師がやってくれている。彼らの仕事は完璧で、セレスが手を出すこともない。足りない物は薬師ギルドからお取り寄せ出来るので、セレスは連日ここに籠もって魅了の香水が自分でも作れないかどうか実験していた。

 ある程度は、匂いなどから使われている材料がこれかな、というのは分かったが、何かが足りない。

 それが分からなくて、ちょっと精神的にやられていたということもあるにはあった。

 結果、セレスはふらふらっと屋敷内を徘徊し、花瓶に飾られていた黄色い花を見つけた。

 同じ黄色の花でも幻月の花のように花弁がいくつもあるものではなくて、五枚の花びらから成る小さな花。花束にしても主役になるというよりは、引き立て役になりそうな花だ。

 花瓶には、黄色の花とかすみ草のような小さな白い花が束ねられて飾られていた。

 あまり目立つこともなく、屋敷でも家族が使うエリアに飾られていた花束。


「……これも出るのかな……」


 ちょっとストレスが溜まっていたセレスは、近くにいた侍女に許可をもらってその花束をもらうと、小屋に帰って何も考えずにそれの精油を抽出した。本来なら違う花なので、別々に精油しなくてはいけないのだろうが、セレスは一緒に抽出した。

 そしてそれを作りかけの魅了の香水の中に適当な量を入れた。


「…………えぇー……」


 結果、魅了の香水が出来上がった。

 匂いだけならもらった物とほぼ一緒だ。後はこれで本当に魅了出来るのかどうかなのだが、セレスやオースティ、アヤトなどには効かないし、誰で実験すればいいのだろう。

 オースティに相談したところ、どうせ僕には逆らわないから、という理由で、公爵家の騎士数人が実験に付き合ってくれた。

 

「本当にいいんですか?」

「問題ありませんよ、お嬢様。この香水は長期間摂取していると精神が全面的に汚染されるそうですが、短期間ならばこの香水を纏っている方に逆らいづらくなるだけだと聞いています。それにもし最悪、香水の影響から抜け出せなくなるとしても、我々は普段からオースティ様には逆らいませんので」


 にこにこと実験を受入れてくれた騎士の言葉に、ちょっと納得しそうになったが、いくらそうでも精神を操られるのは怖くないのだろうか。


「実は、体験したいという気持ちをずっと持っていたのです。十年前、友人がこの香水の被害に遭いました。幸い、友人は影響が浅かったようで、事件後に正気を取り戻しましたが、香水の影響下にある間、彼女の言葉通りに動く自分の身体を、どこか遠くから眺めているような気持ちになったそうです」


 何となく違うと感じながらも、リリーベルに従順な返事と彼女のお願いに逆らえない身体。それをどこか冷めた様子で見るもう一人の自分。それも匂いを嗅ぐ度に、ゆっくりと自我が眠っていくように感じたという。


「友人は、何度も強烈な気付薬と洗浄薬を飲まされて、吐く物がなくなるまで毎日、身体から全て出していたそうです。ひどい時には己の身体をかきむしって血だらけになっていました。彼は、そのおかげで身体の血を入れ替えられたから助かった、と笑っていましたが、落ち着くまではひどい有様でしたよ」


 身体中包帯だらけの友人は見ていて痛々しかった。第一王子の護衛の一人だったが、リリーベルに見目麗しい彼らが近付くのをあまり歓迎しなかった王子の命で離れていることが多かったので、何とか影響が最小限で留められていた。


「彼の言うことを疑うわけではありませんが、言葉よりも体験した方が手っ取り早いと思いまして、志願いたしました」


 正気に戻った友人に、抜けられなかったのかと聞いたが、無理だと答えられた。

 あれは体験した者でないと分からないと青白い顔をした友人が言っていたので、オースティが事情を説明した時に真っ先に手を挙げた。

 意志の強かった友人をあそこまで落とす香水とはいかなるものなのか、ずっと気になっていたのだ。


「今回は短期間だけと聞いておりますし、お嬢様もいらっしゃいます。解毒薬もあるのですよね」

「……でも、それだって上手く解毒できるかどうか……だって、皆さんが初めての方になるので……もし今回、失敗したとしても、何年かけたって絶対に皆さんを元に戻します」

「お嬢様を信じております」

「はい、よろしくお願いします」


 セレスは志願してくれた騎士に頭を下げた。

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