王と王妃⑥
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街道沿いに予め手配しておいた替え馬に乗り換えながら、多少休みつつも馬を走らせたジークフリードとヨシュアは、朝には王城へと戻って来られた。
急いで部屋へと戻り旅の汚れを落として国王としての服に着替えると、最初に向かったのはリヒトの執務室だった。
「リヒト」
「陛下、お戻りなさいませ」
「ユリアナの様子は?」
「アルブレヒト殿下が様子をご確認にいかれましたが、医師より部屋に入るのを止められたそうです。毒物であった場合、殿下に万が一があってはいけないということでした。ですから、こちらも医師からの報告以外の情報は入ってきておりません」
「命に別状はないとのことだったが、起きられるかどうかも分からんか」
「医師の話では、会話は出来るそうです」
「そうか。では俺が行くしかないな」
ジークフリードは銀の飴をもらっている。そうである以上、毒など効かない。それはリヒトも同じだが、いかんせんユリアナは王妃だ。宰相が王妃の寝室に入るわけにはいかない。
「陛下、今回のことですが……」
「あぁ、色々とおかしい。本当に毒だとしたら、誰が持ち込んだ?食事や飲み物は全て毒味がされている。それをすり抜けてユリアナに毒を飲ませることが出来るのか?これが権力争いや王の寵愛を巡って女性たちがどろどろの争いをしている時ならともかく、俺は間もなく王位を降り、次の王はアルブレヒトだと決まっていて、仕事も順調に移行させている。今の王宮内でユリアナを害する理由が全くない」
そもそも四大公爵家の一つノクス公爵家の出であるユリアナは、ジークフリードの兄、王太子フィルバートの妃に選ばれた時も特に誰かとその座を争うことなく決まった。
誰もが納得する王太子妃だったのだ。
今、ユリアナが狙われた理由が全く分からない。
「アルブレヒトにはまだ婚約者がいないから、その座を狙うのならば母であるユリアナに害を為すのは悪手だし、俺に対する何らかの脅しだとしても、考えられるのは早く王位を降りろということくらいだが、すぐにでも喜んで降りるからあんまり意味はない」
「それはそれで、こちらがあまり嬉しくはありません。アルブレヒト殿下はがんばってくださっていますが、いかんせん比べる相手が陛下ですので、まだまだ物足りません」
「うわ。物足りないって、お前、もっと働きたいっての?いつの間にか俺の友人が重度の仕事人間になってるぅ」
リヒトの言葉に、王宮内を歩けるような服に着替えてからこそっと部屋に入って来たヨシュアが大げさに嘆いた。
「もちろんヨシュアも物足りないと申しております」
「止めてー!俺を巻き込まないで!俺はアルブレヒト殿下の仕事量に十分満足してるから。何と言っても、先輩みたいに無茶苦茶な仕事を押しつけてこないからね」
「ほう。まだ足りなかったか。いいだろう。家に帰ったら眠るだけの生活が出来るように仕事を調整してやろう」
「ホント、勘弁してくださいッス。それをやるのはリヒトにだけで十分ッスよ。アイツはヤル気に満ちてるッスから」
友人をさくっと売ったリヒトを睨みつつ、ヨシュアもジークフリードに友人を売り払った。
「じゃなくて、今は王妃様のことッス」
「そうだな。何にせよ、まずは会ってくる」
「気を付けてください、陛下」
「あぁ、分かっている。ヨシュア、行くぞ」
「うぇ?俺もッスか?」
「念のための護衛だ、護衛。部屋の前で待っていればいいから」
「当たり前ッス。王妃様の寝室になんか入れないッスよ」
「ヨシュアも気を付けろ。何かがおかしいから」
「……分かった。珍しくお前がそう言うのなら」
表情を引き締めたヨシュアを連れて、ジークフリードは部屋から出て行ったのだった。




