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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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王と王妃④

読んでいただいてありがとうございます。小説6巻、コミックス1巻、11/25発売です。よろしくお願いします。

 ルークが母に呼ばれて部屋に行くと、母は楽しそうに微笑んで出迎えてくれた。


「ねぇ、ルーク、貴方、あの子がほしいのよね?」


 二人っきりの部屋でユリアナに聞かれたので、ルークは迷うことなく頷いた。

 あの子、もちろんそれはセレスのことだ。

 ルークがほしいと願っているのは彼女だけだから。


「いい考えがあるのだけれど、貴方は賛成してくれるかしら?」

「……内容次第です」

「そう警戒しなくてもいいわよ。とても単純なことだもの。元の場所に全員がちゃんと収まればいいのよ」


 うふふふふ、と笑うユリアナに、ルークは怪訝そうな顔をした。


「元の場所に収まるとはどういう意味ですか?」

「そのままの意味よ。だって、貴方にとって陛下……ジークフリード様は、ずっと『お父様』だったでしょう?」

「それはそうですが……」

「貴方の実の父であるフィルバート様が生きていらした頃から、貴方にとって父親はジークフリード様だったものね。幼い貴方はフィルバート様に会うと泣いて、ジークフリード様に抱っこされるとご機嫌で笑っていて。ふふ、フィルバート様もよく貴方の父親はジークフリード様だとおっしゃっていたわ。自分は嫌われているって嘆いていたわね。お仕事で忙しかったから仕方なかったと思うけれど」


 まだリリーベルに出会う前のフィルバートは、幼いルークに泣かれてよく嘆いていたものだ。

 それに、ユリアナもよくルークに言って聞かせていた。


『貴方の父親は、ジークフリード様よ』


 何度も何度も、その言葉をそっと繰り返した。

 誰にも知られないように、小さく耳元で囁き続けた。

 何も知らない赤ん坊のうちから聞かせ続けたその言葉を胸に刻み込まれたルークは、フィルバートが亡くなった後、ジークフリードを父と呼ぶことを何の抵抗もなくすんなりと受け入れていた。

 このまま『ウィンダリアの雪月花』さえ現れなければ、ジークフリードは間違いなくそうなっていたはずなのだ。

 そのためにユリアナは長い時間をかけたのだから。

 今度こそ、この手にしっかりと捕まえておくために。

 だから、そろそろ彼を返してもらわないと。

 あるべき場所にきちんと収まらないと。

 王と王妃は正式に夫婦となり、女神の娘を迎えに行くのは同じ年齢の王子の役目だ。

 それが正しい在り方なのだ。


「ジークフリード様が貴方の父親になることは嫌かしら?」

「……嫌と言うか……」


 正直、ついこの間まで父と呼んでいたのだから、別に嫌とかそういうことはない。

 セレスさえ返してくれるのなら、ジークフリードは尊敬出来る国王であり、自慢の父親と言える存在だと思う。

 セレスが絡むから嫌なのであって、セレスが自分の傍にいるのならば、ジークフリードと母が本当の夫婦になろうとも構わない。

 

「もう一度、ジークフリード様を父と呼べる?」

「それは、はい、出来ます。わだかまりはありますが、それはセレスのことだけなので、他のことは問題ありません」

「そう、なら、お母様に任せておきなさい。ただ、色々と少し騒がしくなるわ。何があっても私を信じて待っていてね。お母様が必ず貴方に『ウィンダリアの雪月花』を届けてあげるわ」

「……本当ですか?」

「えぇ、貴方は私を信じて待っていなさい。うふふふふ」


 優雅に微笑む母と話をした数日後、王妃が倒れたという報がルークの耳に入ってきた。その時、ルークの頭の中でその言葉だけが何度も繰り返されていたのだった。

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― 新着の感想 ―
両者共にセレスの意思もジークの意思も無視して自分の欲望だけ叶えようとしているの、本当に似たもの親子だな
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