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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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王と王妃①

読んでいただいてありがとうございます。

 あの方に初めて会ったのは、婚約者であった王太子殿下に会いに行った時、まだ少年の…………いいえ、違う、違うわ。

 それよりもっと昔。

 そうよ、王国がまだ騒がしい時代、お父様に連れていかれた王宮で、心の籠もっていない笑顔を顔に貼り付けてわたくしたちを待っていた()()

 お父様は権力者だったから、あの方はお父様と取引きをした。

 力を貸す代わり、わたくしと結婚すること。

 そうすることで、次の王はお父様の孫になる。

 誰もが考える、王の外戚になって権力を握るという構図。

 お父様はそれを要求して、あの方は了承した。

 ……そこにわたくしの意思などなかった。

 お父様がいなくなって二人っきりになった時、あの方は貼り付けた笑顔ではなく、まるで少年のような笑顔でわたくしに話しかけてくれた。

 その笑顔に、心がときめいた。

 誰も彼もがわたくしに対して色々な思惑を含んだ笑みを向けるのに、あの方はただわたくしと話をしたくて、笑顔を向けてくれた。

 お父様と対峙していた時の嘘の笑顔など、そこにはなかった。

 けれど当時のわたくしは、まるで自分がこの世の女王であるかのように振る舞っていて、素直にあの方に応えることが出来なかった。

 傲慢な態度で、高飛車な物言いをして、あの方の言葉の一つ一つを皮肉って否定して。

 内心では、お父様と違って民と国のことを真剣に考えていたあの方を賞賛していたのに、そんなことはおくびにも出さずに、あなたの代わりはいくらでもいる、我が家が味方に付けば誰でも王になれるのだとあざ笑った。

 決してそんな風には思っていなかったのに、自分の性格を変えることが出来なかった。

 最初の内、あの方はわたくしとの距離を何とか縮めようと試みてくれていたのに、素直になれないわたくしの言葉と行動が自然とあの方を遠ざけた。

 結婚してもその関係性が変わることはなく、あの方も戦だの視察だのと忙しくしていたので、会話するどころか顔を合わせることが少なくなっていった。

 その頃にはわたくしの周りにあの方の弟や、かつての友人たちが侍るようになり、あの方の顔は、あの日、お父様に向けていたのと同じように、貼り付けた心のない笑みだけを浮かべていた。

 それが悲しくて、同時にどうしてわたくしがこんな目に合わなくてはいけないのか分からなくて、少しでも何か言おうものならわたくしの周りに侍っていた男性たちがこぞって怒ってくれた。

 貴女は何も悪くない。

 その言葉は心地良いけれど、あの方からは絶対に言われなかった言葉。

 あの方の弟や友人たちに、初めの頃はほんの少しだけ弱い部分を見せて同情するように仕向けていたけれど、いつかその心が離れていくのが怖くて心を操ることが出来る薬に手を出した。

 一度、手を出すと次からは使うことに躊躇することもなくなって、毎日、何かの薬を使っていた。

 それで手に入るのは偽りの心だけだと分かっていても、それさえも失うのが怖くて……。

 かつて禁断の薬に手を出して追放された薬師たちを、何かに使えると思って我が家が密かに確保していたことも、わたくしの有利に働いた。

 わたくしの望みを叶えるために、彼らは倫理観などどこかに置き去りにして薬を生みだし続けていた。

 わたくしも、使うことに対する拒否感などどこかに行ってしまっていた。

 そうやって、あの方がいない間にわたくしの勢力を伸ばして、いつかあの方に認められて、褒めてもらいたかった。

 そんなわたくしの耳に入って来たのは、あの方の裏切りだった。

 どこかの神殿に住んでいる身分もよく分からない女に入れ込んでいる、そう聞いて、居ても立っても居られずにその姿を見に行った。

 こっそり覗いた先で、あの方はわたくしが見た事もない笑顔で銀髪の女のご機嫌を一生懸命取っていた。

 ……何なの?その顔は?

 妻であるわたくしにも見せたことのない笑顔で、どうしてそんな女に構うの?

 つまみ食い程度ならまだ許せるわ。でも、あなたは本気でその女に惚れたとでも言うの?

 その笑顔は、わたくしに向けられるはずのものだった。

 その手は、わたくしを優しく抱きしめてくれるはずのものだった。

 あなたの全ては、わたくしのもののはずだった。

 そうでなくてはいけないのに、あなたはその女を選ぼうとしている。

 許せなかった。

 側近の男性を使ってあの女を引き離したのに、彼は決してわたくしの方を向いてはくれなかった。

 それどころかわたくしの関与を疑い、決して王宮には戻してくれなかった。

 どうしてわたくしがそんな目に合うのか、全く分からなかった。

 わたくしは名門の出で、この世で唯一あの方の隣に立つことを許された人間だと信じていた。 

 それが崩れるなんて、思ってもみなかった。

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世界の中心で、愛をさけんでいるつもりなのかな? どこから見ても魔女の所業
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