次女と隠されていた本①
読んでいただいてありがとうございます。
クレドの街で海鮮を堪能した後、セレスは街の図書館に来ていた。
王都ほど規模は大きくないが、管理が行き届いた綺麗な図書館だった。
調べたいことがあるので、一人にしてほしいとお願いしたら、ジークフリードもヒルダもあまりいい顔はしなかった。けれど、お姉様に関わることだからどうしても一人で調べたいとセレスが押し切った。
この図書館から外に出ないことを条件に、ジークフリードもヒルダもしぶしぶセレスが一人になることを許してくれた。
守られる身なので、あまりわがままを言わないように心がけてはいるのだが、今回ばかりは一人で調べたかったのだ。
きっと二人は、おかしいと思っただろう。
特にジークフリードは、出会ってからセレスがこういうわがままを言ったことがないので余計におかしいと感じたと思う。
それでも、一人で調べたかった。
セレスは案内図で目当ての場所を確認すると、この辺りの歴史について書かれた本を持って奥まった場所にある席に座った。
その本は、この辺りに領地を持つ貴族の歴史について書かれた本だった。
万が一ジークフリードやヒルダが見に来てもいいように、カモフラージュ用に薬関連の本もいくつか持ってきたが、本命はこの辺りの歴史本だ。
最初の方はクレドの街の成り立ちなどで、オルドラン公爵領になったのは王国が成立した初期の頃だった。
「あった。これ……」
『ザイオン王の御代、クレドの街より少し離れた場所にフージ男爵家が領地を賜った』
本に書かれていたフージ男爵家。
セレスが調べたかった家の名だ。
「ザイオン王?何した人だっけ?」
薬に関係することばかり勉強していたので、歴代の王様のことなんてほとんど覚えてない。
名前は聞いたことがあるので、雪月花に関する何かはあったと思う。
「……あ、不文律の王だ……」
雪月花に関する不文律を作った王。
その傍には、姉の一人がいたはずだ。
セレスは、ザイオン王に関する本を持ってきて読み始めた。
『ザイオン王は『ウィンダリアの雪月花』に関する不文律を作った王である。
彼の王は、とある貴族の屋敷で雪月花に出会ったとされている。
雪月花を手に入れたザイオン王は、後宮から王妃とその子供を離宮に追いやり、雪月花を後宮に入れた。
ザイオン王の雪月花はわずか一年の後に亡くなり、その死後、王は不文律を発表した。
当時何があったのか。
多くは闇の中に葬られたが、確かなことは王妃の実家である侯爵家はその力を削がれ、領地の作物の不順などもあり、やがて消え去った。
後を継いだ王子は王妃の子ではなく、雪月花が亡くなった後に後宮に入った側室の子であった。
王は常に厳しく、高位貴族の家であろうとも領地の縮小や移動、家そのものの取り潰しなどを行った。
腐敗した家を断罪し、雪月花の自由を保障した王と言われている』
この本の作者は、詳しくは知らないが、それでもザイオン王が王妃の実家に対して何かしたと推測している。
「ザイオン王……リィンお姉様?」
ザイオン王の名前を思い浮かべると、同時に浮かぶ名前は、リィン。
セレスの頭の中に勝手に浮かんでくる名前。
これも雪月花としての能力の一つだろうか。
それとも天の姉たちが教えてくれたのか。
どちらかは分からないが、この本に書かれているのはリィンという名の姉のことだ。
王と出会ってからたったの一年で亡くなったとされている姉。
セレスは、本に隠されていた手紙を出して開いた。
『後の世の雪月花の君へ
この手紙は、必ず貴女の手に渡る。
なぜなら、当代の雪月花の君がそう言ったから。
これから記すことは、私の罪であり、雪月花の君の望みでもある。
王は、彼女の望みならばどんなことでも受入れるだろう』
この手紙に書かれている当代の雪月花はリィン。
リィンのどんな望みでも叶えようとしていた王は、ザイオン。
この手紙を書いた人の名は、トーイ・フージ。
ザイオン王によりこの地に封じられた当時の男爵家の当主。
そして、例の本の作者でもあった。




