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猛攻

邪魔するものなどいない。

「おねーさん!」


「こんにちは、マキちゃん」


 ひしっとお腹あたりに抱きついてくるマキちゃんの頭を軽く撫でながら挨拶をする。約束していた時間よりだいぶ早かったが、綾女さんに電話で確認したところ今からでも大丈夫という話だったのでマキちゃんの迎えに来ていた。


「こんにちは、マキのことよろしくお願いしますね」


「は、はい」


 綾女さんに微笑まれて、昨日のやり取りを一方的に引きずっている私は少し口ごもりつつ返事をする。そうして挨拶を交わす私達を交互に見比べていたマキちゃんがくいっと私の服の裾を引いたので「ん?」と屈んで視線を合わせる、と。


「ちゃんと仲直りできて、えらいえらい」


 わちゃわちゃと小さな手で髪の毛をくしゃくしゃにされた。


「え、は、え?」


「えらいえらーい」


 よしよしと、これは多分、頭を撫でられている。そう理解すると気恥ずかしさにじわりと頬が熱くなる。


「あらマキ、えらいのは柊さんだけ?」


「? ……あ、お母さんもえらいよ!」


「でしょー?」


 にこぱっと笑うマキちゃんに綾女さんがドヤ顔する。でもえらいえらいのなでなでは無かった。私だけか、そうか、うん……うん。別に、喜んでるとかじゃないけどね。褒められたら嬉しいでしょ、普通。あれ、それは喜んでるのか?


「ま、そんな訳でお母さんと柊さんも仲良しだから、マキは気にしないで行ってらっしゃい」


「うん!」


 屈んだまま綾女さんを見上げると、マキちゃんの肩越しに綾女さんがウィンクを飛ばしてきた。もしかしたら、マキちゃんなりに大好きなお母さんと大好き、な……いや、うん、まぁ大好きな? おねーさんが喧嘩していたのを心配していたのかもしれない。私達の方では解決していたけれど、昨日マキちゃんが寝入ってしまった段階では私達は、というか私が一方的に綾女さんにキレてた状態だったし。


「ごめんね、マキちゃん」


「んー?」


 なんのこと、って顔でマキちゃんが首を傾げるので「気にしないで」と頭を撫でると嬉しそうにきゃっきゃと声を上げる。うん、この調子なら大丈夫そうだ。ちゃんと、ただの「おねーさん」としてマキちゃんの保護者をやれるだろう。


「じゃあマキ、おねーさんの言うこと聞いて、いい子でいるのよ?」


「はーい!」


「明日のお昼にはお連れしますので」


「十時前には戻っていると思いますけど、明日は家にいますから急がなくていいですよ。何かあったら連絡くださいね」


「はい」


 綾女さんに軽く会釈して「いこー!」と手を繋いだマキちゃんに引っ張られるようにして黄瀬家をあとにする。振り返ると綾女さんが微笑ましそうにこちらを見ていたのでちょんちょんとマキちゃんをつっつくとマキちゃんも振り返って空いている方の手をぶんぶん振っていた。この調子ならホームシックの心配はなさそうだ。


 マキちゃんがずーっと手をふるので、私達が角を曲がって見えなくなるまで綾女さんはアパートの前まで来て見送ってくれていた。角を曲がる直前にもう一度軽く会釈して、私とマキちゃんは道を折れる。


 視界から綾女さんの姿が消えると、なんとなく心細さを覚える。ひとさまの家の大事な娘を預かっているという責任が、見えない重圧として背中にのしかかっている気がした。


 と、その時。


「……ふたりっきりだね、おねーさん」


 マキちゃんが握っていた手をほどいて改めて手をつなぎ直す。……指を絡めた、いわゆる恋人つなぎという形で。


「あのー、マキちゃん?」


「えへへ。ちょっと恥ずかしいけど、楽しい!」


 手をつないだまま楽しさを表現するようにぴょんと跳ねるマキちゃんは、興奮なのか緊張なのか少し頬に火照りが見える。りんごみたいなほっぺの愛らしさと対照的に、繋いだ私の手の甲に無意識にだろうか、するりと親指を滑らせる様子にわずかながら官能を覚えかけて、私は慌てて頭を振った。


 煩悩去れ。いやほんと去って。相手小学生なんだから。親御さんに責任持って預かるって言ったんだから!


「えいっ」


「ちょ、マキちゃん!?」


 私が煩悩を振り払う間にマキちゃんは指を絡めたままの手を下げる。繋いだ手が低くなれば必然、私達の距離は近づくわけで、私の腕にマキちゃんの体温がぴったりと密着する。


「ま、マキちゃん、そんなにくっついたら暑いでしょ? あ、歩きにくいし」


「へーき! おねーさんのからだ、きもちいーもん!」


 変な意味じゃないから! あったかーいとかやわらかーいとかそれだけだから!

 誰に、というより自分自身にそう言い訳しながら、私は早くも押し寄せてきた疲労の波にくじけそうだった。


 この猛攻に、一晩耐えるのか、そっか。……そっかー。


 遠い目をした私を不思議そうに見上げるマキちゃんだったけど、私が視線を向けるとそれだけですぐに嬉しそうにはにかむ。いや、あのさ、今更かもしれないけど、実感してしまった。


 この子、私のこと好きすぎじゃない?


 ほんの数分前の、ちゃんと保護者やれそう、という自信はきれいサッパリ霧散していた。

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