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LACUMOON~人間以上に頑張ったら女神になりました。~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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16/20

16 星の精霊。




 星空の泉を飛ぶように浮上していくと、もう一つの水面に出た。


「ぷはー!」


 まるでゼリーみたいに塊が散っていく。這い出てみれば、私の身体は濡れていなかった。面白い泉と小さく笑ってしまう。

 泉の光で照らされているけど、離れたところは暗くて見えない。下よりも暗い。

 同じく這い出たアーロンさんは、ダンジョン用の道具である【月の欠片】を灯す。三つ月の宝石の欠片。灯りになるし、少しの回復効果もある。

 アーロンさんの横で、ふわりと浮かんだ。


「召喚術師がここに入ると、クエストが発生します。あれが封印されている精霊です」


 アーロンさんが指差す方に目をやると、仄かに光を帯びた大きな大きな結晶が見えた。私の三倍はありそう。

 近付いて見ようと歩いていくと、ソレに気付いた。

 結晶の後ろにいる。頭の後ろに右腕を回し、捻れたようなポーズをしている巨大なピエロ。外見だけで既に恐ろしいのに、暗がりの洞窟の奥に立っていると倍増である。

 思わず、私は後退して悲鳴を上げないように口を押さえた。

 ピエロ怖いぃいいっ!!!

 無理! 無理!!

 口を両手で押さえながら、首を激しく横に振った。


「大丈夫ですよ。あの鎖に触れない限り、クラウンは動きません」


 アーロンさんは笑う。

 よく見てみれば、結晶には鎖が巻き付いていた。あれが封印の元なのだろうか。

 【シークラウン】レベル55。私と同じレベルにまた恐怖する。エリアボスよりHPが高い。こんなの私だけで倒せる気がしない。


「や、やっぱり……私では攻撃力不足では?」

「そんなことありませんよ。援護します。ルベナ様ならば、倒せます」


 にこ、とアーロンさんは余裕に笑いかける。ま、まぁ、80のアーロンさんがいれば大丈夫かな。


「シークラウンは火の攻撃が効果的です。水を使いますのでお気をつけください」

「は、はい」


 物知りだなぁ、と感心しつつも火系の魔法スキルを確認する。

 水系は確か、足をとられちゃうんだよね。麻痺と同じ。


「じゃ、じゃあ、行きますよ?」

「はい。回復はお任せください。どうぞ、攻撃に専念してくださいね」


 アーロンさんの方は準備万端。私は頷いて、深呼吸をした。杖をくるりと回してから、ギュッと握り絞める。

 【ガーゴイル】を召喚。

 彫刻のように、強面の姿。二メートルはあり、翼と両手は赤い。炎系の魔法を使う。

 よろしく、と笑みを向ける。ガーゴイルのガーくんは、軽く頷いた。

 恐る恐ると結晶に歩み寄る。うっすらと美しい女性の顔が見えた。封印された精霊だろう。あとは見えない。早く解放してあげたいな。

 杖で、つんっと鎖に触れた。

 途端に、動き出す鎖が動き出す。ジャリジャリと結晶を滑っていく。

 私は静かにさっと後退した。

 結晶に手をついて、シークラウンがゆっくりと回転して、目の前に着地する。細い身体に、鎖が巻き付いていた。結晶と繋がっているみたいだ。

 巨大ピエロは、動き出すとまたさらに怖くて、ガクガク震えてしまいそう。

 でも、こっちから仕掛けないと。


「ガーくん!」


 呼び掛けながら、私は杖でコマンドを叩きつけた。

 辺りを真っ赤に照らす炎の柱が、シークラウンを包む。火系攻撃は、継続的にダメージを与える火傷にもさせる。

 ガーくんは取り押さえた。そして手から炎を噴射させて攻撃。効果的で、どんどんシークラウンのHPは削られていく。

 ゼロになるまでそうしてほしかったけれど、シークラウンも反撃に出る。

 カッ、と光出したかと思えば、水の塊が撒き散らされた。水系の攻撃。当たれば、痺れを感じる。

 ガーくんが弾かれたから、もう一度火柱を食らわせてやろうとすれば、また水系攻撃。

 波に足をとられ、崩れた。スライムみたいに絡み付いて、立ち上がれない。その間、シークラウンが攻撃を続けた。

 ガーくんも足をとられて、攻撃できずにいる。

 私はシークラウンの顔面目掛けて【ファイヤーボール】を放つ。

 シークラウンの攻撃が止んだ隙に、回復薬を飲もうとしたけれど、HPは回復した。

 アーロンさんだ。攻撃力までアップしてもらった。

 よし、また火で攻める。

 先ずは火柱。そして【ファイヤーボール】をバトンを振り回すように、コマンドを連打して連続攻撃。

 HPを削り続けたあと、私のスキルの中で最強の火系攻撃を踏み込んで放つ。

 【フルイーグ】。二つの炎が大蛇のように渦巻いた。私も熱を感じる。

 ぶわり、と燃え上がり、シークラウンに大ダメージを与え続けた。


「ガーくん!」


 私の攻撃が終わると同時に、空中に飛んだガーくんに指示。両手が燃えたまま、頭上から突進した。地面にめり込むほど、シークラウンを押し倒す。

 離れてもらい、また火柱。シークラウンが振り払い水を放つけれど、宙にいたガーくんが捩じ伏せた。

 シークラウンの攻撃を阻止しては、攻撃し続ける。赤色が弾ける。熱く、眩い。

 それでも、標的は見逃さない。

 反撃されたら、主導権を握られてしまう。火攻めを続けた。

 そして、HPがゼロになった瞬間。

 鎖とともに、結晶が砕けて飛び散った。冷たい雫のように降り注いだ。火照った肌が、冷める。

 大きな結晶の代わりに、大きな美女がいた。きっと十頭身。胸がふっくらとあり、ドレスが包んでいる。スカートはふわふわと波打つように揺れていた。ドレスも肌も藍色の夜空色。

 ラピスラズリーのつぶらな瞳が、私を見つめている。

 召喚に新しく【星の精霊】のコマンドが浮かんだ。【星の精霊】は口を開くことなく、ペコリとお辞儀した。


「よ、よろしく、お願いしますっ!」


 なんて美しい精霊なんだろうと、私はまた見とれてしまうけど頭を下げる。

 それから、アーロンさんを振り返った。


「お見事です。流石は女神様」


 いつもの笑顔だ。キラキラした眼差しが、私に真っ直ぐに向けられている。


「星の精霊を従えるのは、あなた様しかいません。夜空に浮かぶオーロラのような女神様と星の精霊……神秘的な美しさを間近で目にすることができるなんて。私は幸福者ですね」


 とても嬉しそうに、笑みを深めた。


「この世界にいることが、堪らなく幸せなのです。ありがとうございます、ルベナ様。本当に……ありがとうございます」


 少し、涙が浮かんでいるように見えた。心からの感謝の言葉。

 ガーくんも星の精霊も、召喚陣の中に消えていき、私とアーロンさんだけになる。

 灯りも、泉の光だけ。


「……さぁ、戻りましょう。ルベナ様」

「あ、はい……」


 にっこりと明るく笑いかけて、手を差し出してくれる。その手を取った。


「下りる時は潜らなくてはいけません。わたくしが先に下に着地して、受け止めますね」

「あ、あの。ありがとうございました」

「光栄です」


 来る時は簡単に浮上してくれたけれど、泳ぐように潜らなくてはいけないみたいだ。

 すぅ、と吸い込んで、また星空のような泉の中へ飛び込んだ。

 この光景を目に焼き付けるように眺める。空を泳ぐような気分を記憶に刻み込む。この冷たさを肌に染み込ませた。

 言った通り、アーロンさんが先に下りる。私は周りを見回してから、名残惜しいけれどそっと足元の水面から出た。

 ポチャン、と落ちる。

 すると、私を受け止めたのはアーロンさんじゃなかった。


「他の男と一体なにしていた?」


 お怒りの【月の王】様。麗しいお顔で冷ややかに見下してくる。


「しょ、召喚クエストを……あ! 新しい従者がゲットしたの! 星の精霊で、すっごく美人でっ」

「ほーう? 他の男と初体験を?」


 嬉々として報告しようとしたけど、レックスは低い声を出す。


「え、えっとぉ……」

「……」


 じろり、と鋭い眼差し。


「目障りな勇者どもをログアウトさせてから、召喚クエストをやろうと思っていたのに……」

「ご、ごめ……」


 予定してくれていたのに、先にアーロンさんとやってしまった。


「ご、ごめんなさい。もうしないから。ログアウトのあとで、連れてってくれる……?」


 きっと私のために、考えてくれたのだろう。まだ有効だといいけれど。レックスを見上げてみる。


「二人で?」

「う、うん」

「……約束だぞ?」


 頷けば、レックスは満足げな笑みになってくれた。


「この世界を思う存分味あわせてやるのは、この俺だ。忘れるなよ?」

「は、はい……」


 勝ち気な笑みが美しすぎて、うっとりしてしまう。横抱きにされているから、近い。


「は? なんで? みんなと一緒に楽しめばいいじゃん」


 キアくんの声。

 レックスの肩越しから、キアくん達が見えた。揃っている。

 どうやら、キアくんがはぐれてしまったと知り、タイマン中のレックスとジェイソンさんのところに戻ったらしい。それでみんなで捜してくれたそうだ。

「初めてのダンジョンで迷子になったら大変だもんな!」とキアくんは笑い退ける。

 君のせいで迷子になりかけたんだけどなぁ。


「休憩も済ませましたし、ボスの元に行きましょう。召喚クエストをやったところすみませんが、出番ですよ? ルベナさん」


 ジェイソンさんが優しく微笑んでくれたけれど、私は口元が痙攣してしまう。

 今、強敵を倒したばかりなのですが。やっぱり一層ボスは私が前に出て戦うのですね。

 大丈夫、巨大ピエロも倒せたもの。今度はレックスも【月の覇者】もついている。心強さを再確認して、私達は進んだ。



 

20160127

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