暴動の開始
トラックは姿を消すと、五分もしない内に帰って来る。全て配り終えたのだろう、荷台は空になっており、いた。そればかりか、数十人というカルマ市民を引き連れて帰って来る有様であった。
「ソフィスト軍は相当に恨まれているようだな」
ベジーが言い、タクムが頷く。
市民達の目はどれも暗く、鈍い色を湛えている。
当然であろう。
カルマを制圧したソフィスト軍が早々に行ったのは略奪であった。市民との無用な戦闘を避ける<刀狩>という名目の下、家々に押し入っては武器弾薬は当然のこと、金品を奪い、歳若い娘を連れ去ったのである。
財産はおろか、愛する者を奪われ、妻や娘を目の前で犯された人々の恨みは当然ながら深い。その後も事あるごとに理不尽な仕打ちを受けたとあっては当然のことであった。
彼等は皆、長い占領下で溜まりに溜まった恨み辛みを発散すべく、その目に殺意を滾らせていた。
ニーアが指揮官となってからは多少、改善――少なくとも衆目で暴行を受けるようなことはなくなった――したものの、一部の不良軍人達は司令部の目を盗んでは強盗、強姦、暴力行為を繰り返している。
「さあ、殺しなさい!!」
タクムは更に指示すると、武器弾薬が満載されたトラックを次々に搬入しては解放していく。
すぐさま群がり始めるカルマ市民達。
「さあ、好きなだけ持って行け!
奴等自身の武器で、獣共を殺すのだ!
この街に巣食う鼠共を殺害しろ!
貴様等の手で排除しろ!
恥辱には恥辱を!
暴力には暴力を!
貴様等が受けた理不尽を奴等にそのまま返すのだ!」
住民達が鬨の声を上げる。徐々に赤く光り始める瞳。理性が侵食されていく様を、タクムは愉しげに眺めている。
この世界――少なくともスター都市国家群では、基礎教育過程にて武器弾薬の扱いを学ぶ。彼等は最低限の戦闘技能を有している。
誰もが小銃ぐらいなら扱える。そして銃器とは――剣や槍といった既存の武具とは違い――誰が扱っても、ある程度の戦闘能力を手に入れられるのが最大の特長だ。
地球でも途上国では年端もいかない少年少女を浚い、兵士に仕立てるビジネスが横行していた。それは体力に劣る子供であっても、数さえ揃えればある程度戦える代物になることを証明している。
「ベジー、敵の武器庫を襲撃しろ」
「ハッ。カルマの住人達よ、私に続け! 諸君に更なる牙を提供しよう!!」
ベジーが間髪入れずに応じ、武器を手にした住人達を先導し始めた。
「クリスはその護衛だ。車輌類は全て潰せ」
「おう、分かった……報酬は弾めよ?」
「いいだろう。通常の討伐料の倍を支払ってやる」
「よしっ! 聞いたなっ、野郎共!! もう一仕事だ。これが終わったらのんびり金勘定するぞ」
続けて戦車部隊が移動を開始する。
武器庫さえ制圧出来れば更に数千丁という銃が手に入る。それを新たな住人達に配給すれば、大隊規模の市民兵が生まれることになる。
数の暴力。
城壁内に展開する部隊は少ない。憎悪に駆られた市民兵達はこちらが手を下すまでもなく、ソフィスト兵を根絶やしにしてくれるはずだ。
指揮官としてのプレッシャーから解放されたタクムは、大きく息を吐き出すのだった。
「ねえ、スローにゃん……にゃーは?」
正気に戻ったライムが尋ねてくる。青い顔だ。今更ながらに自分の仕出かしたことの重さに押しつぶされそうになっているようだ。
「ライムは休んでいろ。お前には戦後処理を任せるからな」
タクムは言って、バギーに飛び乗った。




