彼女のお願い
「こんにちは、あ、どちらかといえば、はじめましてかな? いつも見てるから、なんだかもう友達感覚になっちゃって、ごめんね」
恥ずかしそうに笑う少女を見て、ライムはこう思った。
――なに、この美少女……。お人形さんみたい……。
至高の芸術家が持てる技能と感性を全て注ぎ込めばこうなるだろう、そんな少女だった。
少女は白い。白磁器のような肌。実に柔らかそうなそれは触れればきっとプリンのように手の平で蕩けてしまうことだろう。髪は紡がれたばかりの絹糸のような髪は白い空間にあってなお白く、鮮やかな光を弾く。白いワンピースから伸びた手足はすらりと長く、なのにどうしてか肉感的なそれは女性であるライムでさえ生唾を飲み込んでしまうほどの色気があった。
白い少女の唯一の例外といえば、金色の瞳であった。凛とした強い眼差し――その中に慈愛を窺わせる優しい光。
「そりゃあ、ボクはお人形さんだからね、当然だよ」
謎の美少女は言った。
――しかもボクっ子……ッ、だとぉ……ッ。
ライムは心臓に杭を打ち込まれたような衝撃を覚えた。慌てて胸を押さえ、息切れを起こしそうな呼吸をゆっくりと整える。そうしなければ気を失ってしまいそうである。
――何て子なの!?
偶像レベル10と呼ばれたこのアタシから、動悸息切れ気付けを同時に引き起こすなんて……。
「アハハ……どうしてかあんまり嬉しくないけどありがとうね」
――ねえ、あなた、一緒にアイドルユニット組まない?
気が動転していたライムは、少女を勧誘する。殴殺されたのをついつい忘れてしまうほどの大混乱していたのだ。
ライムは可愛い子が好きだ。アイドルオーディションを受ける傍ら、アイドルのおっかけをやるくらいに可愛い女の子が大好きだ。レズビアンではない。
――しかし、この子にならこの純潔捧げてもいい!
「い、いらない、いらないから!」
美少女の顔が歪む。ドン引きである。
「そ、それよりもッ、お願いだから、ボクの話を聞いて!」
しかし、その顔もまた良い、と、ライムは顔を綻ばせながら承諾する。
「き、気持ち悪い……ああ、だめ、もう時間が迫ってる!」
美少女は顔を引きつらせていたが、虚空を見たかと思えば焦り出した。
――あれ、もう終わりなの?
「うん、ごめんね。もうすぐライムちゃん、目が覚めちゃうから……抵抗がない瀕死状態じゃなければ意識に入り込めないんだ……ああ、そんなことより、マスターに伝えて欲しいことがあるんだ! ライムちゃん、伝言をお願いしたいの」
――かわいこちゃんのお願いならお姉さん何でも聞いてあげるわ。
ライムはこう見えて面倒見のいい女性であった。
「ありがとう、ライムちゃん。そう……タクム・オオヤマさんに……ボクのマスターに、アイがこう言ってたって伝えて!」
少女は主人の名を告げるときだけ、ただでさえ作り物めいた美貌を一層華やがせ――それこそ天使のような微笑を浮かべる。
――へえ、アイちゃんっていうんだ。
名前まで可愛らしいわ。その名の由来がスマートフォンの頭文字から取ったなど知る由もないライムはそんなことを思う。
少女が口を開いた。
「――ボクはガンマの奥深くに居ます。絶対に――」
ライムは腹部に物凄い衝撃を受けて目を覚ました。




