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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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下ごしらえ

 義勇軍に遅れること約一ヶ月。ようやくカフカ率いる政府軍の準備が整ったそうだ。総勢1000名を超える大部隊が一路、ガンマを目指して南下している。


 その知らせが届くのと、時を合わせるようにして補給線潰しを終えて三中隊が帰還する。


「騙しやがったなッ! この糞野郎ッ!!」

 司令室の扉を蹴破るようにして赤毛のローグを筆頭に幹部達が飛び込んでくる。戦場帰り特有の獰猛な視線で部屋の主人を睨みつける。


 一方のタクムは口端を上げ、ニタァといつもの薄ら笑いを浮かべている。


「何のことだ?」

「お前が流した偽情報のせいで、ロンが……シリウスが……皆が、死んだんだぞ!」

 ローグ率いる第三中隊が担当した街道に現れた敵部隊は主力戦車を含む一個中隊とのことだった。ミサイル持ちなどの特技兵が存在していたらしく、歩兵戦力を持たない容易に彼等は接近を許してしまい、三割近い損害を出していた。事実上の壊滅である。


「おいおい、おかしなこと抜かすなよ。同規模の敵部隊と相対したヘクトールやミッツんトコの損害は一割ぐらいだったそうじゃないか。要はお前の指揮が下手糞だっただけだ」

 ヘクトール中隊は戦車歩兵ともにバランス良く配置されており、装備も充実しており、三中隊の中では抜きん出た戦闘能力を持っていた。しかし、ミッツ中隊は大型の戦闘車両を持たないが、きっちりと仕事はこなした。


 彼等は戦車を相手にせず、補給車のみを狙い撃ちにしたのだ。あるいは罠を仕掛け、破壊工作を行い、夜陰に紛れて襲撃を行うなど粘り強く戦い、任務を成功させた。


「大方、予想外の反撃を食らって頭に血が上ったとかそんなところだろう? お前が殺したようなもんだ」

 そういった前例がある以上、彼が怒るのは筋違いである。


「ふざけるな!」


 ――わけがない。


「お前が最初からまっとうな情報を流してりゃ、こんなことにはならなかった!」

 タクムが敵部隊の分布予測を提示したのは彼等が任務を受託し、出動する前日の夜のことであった。敵の規模が中隊クラスだと分かればそれなりの準備をした。情報展開が遅すぎる。


 彼の怒りは至極当然のものであった。そもそも戦車持ちの混成中隊となれば2000万ドル――戦功ならば400万ポイントぐらいは支払われるべき最高難易度の任務である。それを彼等はほとんどタダ同然で任されたことになる。この場で謝罪し、報酬の大幅な増額を約束しなければ離反されても文句は言えない。


 そこを、


「ハッ、馬鹿か、貴様。たかが中隊如きに騒ぎすぎなんだよ」

 タクムは鼻で笑い飛ばす。


「このっ……」

 ローグの腕が動いた、そう認識した時には彼は<デザートイーグル>を構えていた。.50AE弾を使用するそれは一般的な9mmパラベラムの4倍近い威力を有しており、下手なライフル銃を超える破壊力を有している。


 いわゆるハンドキャノン。


「糞餓鬼がァァァアアァァッ!!」

 指先が動き、銃口からマズルフラッシュ――炸裂音と共に放たれる死の凶弾――それをタクムは首をかしげるだけで躱した。


 弾道予測線を持つ<殺戮者>にとって拳銃は反応できない武器ではない。ただちょっと出の早い、刺突攻撃のようなものだ。


「甘いな」

 次弾が放たれる前にタクムはローグに駆け寄ると、そのまま胸部――体の中心点を強く殴りつける。その威力は凄まじく、強化服を合わせれば一〇〇キロを優に超えるローグを壁まで吹き飛ばした。


「アハッ、弱い、それに狙いも甘い、頭も悪い! そんなだから手前ぇも、手前ぇのダチも死ぬんだよ!!」

 壁まで吹き飛んだところを追撃。<ジャイアントスローター>より作られた金色の篭手は顎関節を外し、頭蓋を粉砕し、敵の内部を破壊する。


「がっ、ゴ、オゲッ、ぐご――ぎチッ……」

 一息で10発ほどの打撃を顔面に見舞った頃には顔の原型など完全になくなっていた。骨格から粉砕されれば当然のことでえある。これだけ強烈な打撃を受けて、未だに息があるというほうが驚嘆に値する。


「おい、このゴミを地下牢にぶち込んでおけ。司令官を襲撃した罪人だ。ソフィスト軍と内通していた可能性がある。この軍議の後、軍事裁判を開催するぞ」

 解放してみればごとりと床に倒れた壊れた人形を、スローターは顎で差すと司令部付きの護衛部隊に引き渡した。


「ついでに部隊長の戦線離脱につき、第三中隊は本隊に組み込むことにする。編成はクリスに一任する」

 そのままクリスに向き直ると、彼は嫌そうに顔を顰めていた。


 ――流石にやりすぎたか……?


「……またかよ……面倒くせぇ……」

 タクムはそう思ったが、そうでもないらしい。


 クリスは本隊指揮官という立場上、個々の開拓者部隊や兵団の取り纏めを担っている。義勇軍発足時に起きた有力部隊長達との会合ではスローターが挑発を重ねて怒り狂った首領を半殺しにして強引に部隊を接収する作戦を行っていたのだが、その割りを一番食ったのは他ならぬ彼であった。


 今回はその焼き増しだった。最近、大人しいと思って安心していたクリスは頭を抱える羽目になる。首領を潰され、復讐に燃える隊員達を宥めすかし、時に脅しつつ、時に拳を交えつつ、大人しくさせるのは非常に骨が折れる作業なのだ。ただでさえ本隊指揮で忙しいというのに。


「ん? お前等は来ないのか?」

「これ以上の厄介ごとは御免だぞ!」

「そんなことより、報酬だ」

「まさか、この程度の報酬額というわけではあるまいな?」

 さすがに経験を積んだ海千山千の猛者だけのことはある。残る幹部達はスローター流のブラックジョークを平然と受け流して本題に入るのだった。










 ベジーとクリス、ヘクトールにミッツを加えた幹部会で――ライムは未だに演習場につくった仮設舞台でルンルンと踊っている――今回の追加報酬額について調整を行う。補給部隊を潰し、随伴歩兵を多数倒したミッツ中隊には1500万ポイントが、敵部隊を殲滅したヘクトール中隊と旧ローグ中隊には3500万ポイントが支払われることが決まった。


 事前に戦力状況を通達していれば更に多くのポイントを支払うことになっていただろう――受諾時に作った貸しをちらつかせることで本来よりも安上がりになった。


 先ほどの一連の騒動は、何かと反抗的な態度を取ってくるローグを潰すための茶番なのであった。補給部隊という足手まとい付きの敵部隊を相手にして大損害を出したことからも分かるように、彼は直情的で、大部隊を指揮する経験に欠けていた。この人事は義勇軍全体の戦力強化に繋がるとタクムは思っている。


「ふぅ……いい汗かいたにゃ~、はれ? 一人足らなくにゃい?」

 ライブを終えて帰ってきたライムが尋ねてくるが、いずれ知れることであるため誰も答えない。


「さてと、本題だな」

 ぶすぅと唇を尖らせ――私怒ってますよアピールだ――たライム事務長が着席したところで、タクムは切り出した。


「聞いているとは思うが、政府軍がようやく動き出した。今日から四日後、約1000名の兵員を従えてやってくる。以降は交渉次第だが、連中の露払いが主な任務になるだろう」


 いつの間にか司令室の空気が戦闘時のそれに切り替わっていた。


 ――腐っても大兵団の長だな……。


 嘗められては堪らないと、タクムは彼らを圧倒するほどの気迫で持って対した。途端にライムが苦しげに表情を歪める。スローターから漏れる冷たく粘つくような空気――殺気と言い換えて問題ない――は慣れない者には非常に辛い。


「まず政府軍は全戦力でもってガンマから50キロ先の<カルマ>の町を解放する。俺達は連中に付き従いカルマ解放戦に加わることになる」

「遅いな」

「奴等は戦争に勝つつもりがあるのか?」

 中隊長達から不満の声が上がる。当然のことだった。


 横から手柄を掠め取られた、義勇軍の人間であれば誰もがそう思うはずだ。カルマの町は現在、義勇軍が相当な労力と犠牲を払って徐々に手を広げた勢力圏の中にある。

 義勇軍はこれまで敵部隊の補給路を断ち、偵察を繰り返し、時に奇襲を用いるなどして駐留部隊の戦力を削いできた。


 そもそもカルマ駐留軍の300名ほどしかない。しばらく妨害工作を続ければ戦力を維持することが出来ずに後退していただろう。


 そもそも全面衝突を行うつもりなら、<殺戮者スローター>や<獅子心王ライオンハート>、<鉄槌トール>、<八百屋ベジー>を始めとする名だたる戦士をかき集めた義勇軍だけでも攻略は可能であった。彼等は単独で小隊規模の部隊とやりあえる。


 あえて大規模な戦闘を行わなかったのは、住人を盾に取られたくないからである。カルマ出身の開拓者達も居る。勝手気ままな開拓者達の集まりである以上、士気には気を配らなくてはならない。


「気に入らんな」

 幹部の中では非常に温厚なクリスですら目を光らせて怒っていた。


 慎重に慎重を重ね、収穫間近となった果実を奪われるのを是とするような者はこの場にはいない。彼等は都市国家有数の戦士であり、成功者でもある。矜持も野心も人一倍強い。


 部屋の雰囲気が益々、殺伐としたものとなっていく。


「だが……悪いことばかりではないぞ。ソフィスト側もその話は聞いているようでな。ガンマに潜伏している部隊から耳寄りな情報が入った」

「ほぅ……是非、聞かせてもらおうか。今度は包み隠さず、な」

 多数の偵察部隊を有するミッツが促してくる。先の任務の失態もあり、彼は情報というものの重要性を再確認したようだった。


「連中がカルマに増援を送ることを決定した」

 幹部達が一斉に顔を顰める。それはむしろ悪報だろうといった表情である。


「ただの部隊じゃない。<銀の雫>だ」

 <銀の雫>はソフィスト軍が誇る一線級の戦車中隊だ。ソフィスト――というよりも軍隊では珍しい女性指揮官が保有する戦車部隊であり、見目にも優れた人物であるため、人気が高く、都市国家群の中でもかなりの知名度を誇る。


 幹部達が顔を見合わせ、頷き合う。なるほど、ソフィスト軍の象徴といえる部隊を狙い撃ちにして壊滅させたともなれば、内情はともかく、外からは義勇軍がカルマ解放の最大功労者に見える。


 メディアを上手く利用することで義勇軍のおかげで解放できたと見せかけることも可能である。たかが戦車部隊一個中隊を壊滅させただけで、カルマ解放の成功者となりうるこの状況は、今後更なる支援と人員を必要とする義勇軍にとって朗報以外の何物でもない。


「ベジーとミッツは協力して<銀の雫>の情報を集めろ。敵の規模と人員、戦闘時の配置など出来るだけな。クリスとトールはすぐに部隊を集め、連携を確認し合え。開戦時に取り逃がしたでは笑い話にもならん。

いいか? 獲物は確実に処理しろ。特に部隊長だ。出来れば公開処刑がいいが、最低でも殺害しろ。そして風聞を手に入れろ。市民に俺達さえいればガンマ解放も夢じゃないと幻想を抱かせろ。心して掛かれ!!」

 戦士達は咆哮で応えると、司令室を後にした。


以下、どうでもいい会話集


「気に入らんな……」

 部屋の雰囲気が益々、殺伐としたものとなっていく。


「うっ……空気悪い……お腹いたい……」

 そんな臨界状態の中、ライムがひとりぽつりと零す。


「ライム、大丈夫か?」

「あ、ありがとう……べーにゃんってなにげに優しいにゃん……」


「気にするな。ちなみにトイレは司令室を出て右だぞ」

「アイドルはウ○チしません!」

(退席できるよう気を使ったのだが……)

 ベジーはしょんぼりと眉を落とすのだった。



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