部隊運営ってけっこうめんどうなものなんです
カフカ等を城に送り届け、パレードは終了した。後日、ガンマ奪還に向けた会議が行われるようだが、それまでは自由にしていていいというわけだ。
城の裏口から出て、ライムに命じて購入させていた拠点へと向かう。
コの字を描いた三階建ての宿泊施設。生クリーム色の外観を見る限り、中々きれいに使われているようだ。元々は経営破綻した開拓者向けのホテルだったという。
「中々、悪くない施設だ」
「そうにゃろ? どんなもんじゃい」
ライムがドヤァと大きく胸を張る。ばるんと必要以上に揺れる谷間に目が行ってしまう。
「ふふん、スローにゃんもまだまだお子様ね」
「ッチ、きたねえものを見た」
優越感にかられた顔を見てタクムは冷めた。瞬間冷却であった。
「にゃんだとー!?」
ぶんぶんと手を振って抗議するライムを連れ、タクム達は戦車から降りる。
拠点は元々開拓者向けの宿泊施設だったということもあり、一階部分を丸々駐車スペースとして作られていた。戦車二〇輌は収容可能な地下室。その場で修理が可能なようにクレーンや工具なども置いてある。今後、規模を拡大していくうえでこれ以上の物件はないだろう。
大部屋は四人で一部屋で人員を割り当てる。ベジーとライムについては幹部級ということで一部屋与える。タクムも同様だが、最上階のスイートルームにしておいた。首領特権である。
ライムは不満そうだが、外聞というものもある。<ガンマ義勇軍総司令>という肩書きは、タクムに与えられた唯一の公的身分である。一時的なものではあるがスター都市軍で中佐クラスに当たる地位である。佐官ともなれば下級貴族ぐらいの爵位は持っているもの。そんな人物が一般兵と同じ扱いでは組織に箔が付かないのである。
作戦指揮や部隊運営については一任されており、雇い入れた数だけ補助金が出る。一人一万ドルの支度金。月々五千ドルの給与。しかし戦闘員であれば武器弾薬、その他装備品に加え、日々の糧食を与えれば簡単に消えてなくなる額である。生産性のない軍隊はとかく金食い虫なのである。
それでもタクムとしては出来るだけ部隊の規模を大きくしたい思惑があった。ソフィスト連合軍の最大の強みは数だ。戦車50輌を含む200台という戦闘車両、それに見合うだけの戦闘員。3000人規模という大部隊である。数の暴力には誰にも勝てない。
散り散りになったガンマ都市軍、兵の質は高くとも元々、規模が小さいデルタ都市軍はあまり当てにならない。イベントクリアを迅速かつ確実にこなすためには<鉄屑兵団>単独でソフィスト軍に対抗するだけの力が欲しい。
一個大隊。
この規模の戦力が分水嶺になるだろうとタクムは踏んでいる。
兵力的には三分の一だが、ソフィスト軍には占領したガンマの街を統治しなければならない。この世界の人間は老若男女、皆銃の取り扱いを知っている。放置するにはあまりにも危険である。最低限、市民の暴発しないだけの抑止力を残しておかなければなるまい。全軍突撃など出来ようはずもない。精々、全戦力の半分を投下出来るかどうかだ。
20輌の戦車、1000名の戦闘員。これだけいれば十分に戦える。しかし、戦闘部隊だけでは軍は回らない。彼等に適切な指示を与える参謀や事務官、車輌や武器を修繕する整備士や銃職人、怪我をしたら衛生班による治療が必要で、そもそも1000人もの食事を用意する糧食部隊などを確保する必要がある。
今は人も物も金も全く足りない。
<殲滅者>のネームバリューに凱旋パレード、その後広場でのパフォーマンスによってデルタ市内での宣伝活動は十分だ。テレビやラジオを通じて他の街にも伝わっているだろう。
残るは実績だけである。生存競争の激しいこの世界の住人は慎重派が多い。一度の戦闘ぐらいでは動かない者がほどんどだ。そこを連戦連勝してみせることで世論をも動かしてみせる。
人が集まるところに情報は集まる。それに比例するように権力は増えていくことだろう。戦闘で大勝すれば更に金まで手に入る。更に情報は集まりやすくなるだろう。
「ベジー、応募者のほうは?」
司令室の革張りソファーに腰掛けながら、ベジーに尋ねる。
この世界には慎重派も多いが、もちろん例外もいる。開拓者などその最たるものであろう。一攫千金をちらつかせれば容易に飛びつく。
「順調だ。名の売れた兵団が次々に義勇軍参加に名乗りを上げているようだ」
「傘下に加わりたいっていう奴は」
「少ないな。麾下に加わりたいという小規模な開拓者隊なら三つほどある」
現在、義勇軍への参加へは二つの窓口が存在する。一つは義勇軍への参加をギルドにて登録する正規ルート。二つ目は<鉄屑兵団>へ加入、あるいは下部組織として麾下に加わること、間接的に参加するという形である。
「そうか。じゃあ、その連中を呼んでくれるか?」
「分かった、連絡しよう」
なぜ窓口を分けるのかといえば選別のためである。戦後のことを考え、信頼出来る仲間を増やしていきたい。タクムが欲しいのは賢く従順な者だ。正規のルートではなく、わざわざ傘下に加わりたいという連中には期待が出来る。
ぽっと出である<鉄屑兵団>の傘下に加わるというならまず従順であろうと判断できる。また情報収集力にも期待が持てる。
ガンマ義勇軍は現在、戦闘員の募集しか行っていない。間接部門の人員は全て<鉄屑兵団>に組み込まれるよう仕向けている。今後、軍隊の中枢である整備や医療、武器弾薬や衣食住の確保は全て外部組織によって賄われることになる。
<鉄屑兵団>を介して支援が行われるのだから、当然、関係組織は優遇される。武器弾薬、糧食などのの支援――を受けることが可能となっている。そのことに気付けた連中は保護するだけの価値がある。
その情報を掴み、危機感を覚えて独自の後方支援組織を構築するような連中もいるだろう。そういった連中には裏でこっそりと同盟を結ぶつもりだ。従順ではなくとも目端の利く連中にはそれなりの使い道がある。
従順でもなく、賢くもない、ただ漫然と戦争に参加するだけの連中は悪いが、捨て駒候補である。精々利用するだけ利用するだけだ。無事生き残ったとしてもこの戦役だけの関係にする。
「さてと、どれだけ集まるかな……」
翌日、麾下に加わりたいと言って来た冒険者隊と面談した。彼等は最近、生体兵器との戦闘で車輌を失った戦車乗りばかりであった。
<鉄屑兵団>は六輌もの主力戦車、四輌の戦闘車両を有する大部隊であるが、戦闘員はその実二〇名にも満たない。特に戦車乗りの不足は深刻だ。整備さえきちんと行えば毎日稼動させることが可能な戦車とは違い、人間には休養が必要である。
虎の子であるソフィスト戦車乗りを酷使するわけにはいかない。彼らには戦後にも兵員として活躍してもらわなければならないからだ。
しかし整備の済んだ戦車を遊ばせていくのも勿体無い。戦車を失った戦車乗りというのは、<鉄屑兵団>にとって喉から手が出るほど欲しい人材である。相手方もそれを理解しており、戦歴を上げ、ステータスを開示することでいかに戦車乗りとして優れているかをアピールしてきた。
彼等から危機感を感じ取ったタクムは、応じて戦車を贈与するとニンジンをぶら下げてやった。戦車のない戦車乗りなど包丁を持たないコックと一緒。ついでにそんな論調で焦燥感を掻き立ててやれば簡単に忠誠を誓ってくれた。
「はぁ……連続使用はさすがに堪えるなぁ……」
タクムは友情の証であるサングラスを掛け直すと、司令室の革張りソファーにもたれ掛かった。面接時間が短かったこともあり、洗脳の深度はそれほどでもないが、下手な軍人よりも信頼出来る状態だ。
「相変わらず、タクムの演説は心に響くな」
グレーの瞳を輝かせ、ベジーが言う。よく冷えた栄養ドリンクを手渡してくる。
「そうか?」
「ああ、とても素敵だったぞ」
ここ最近のベジーの忠臣っぷりは凄まじい。以心伝心ではないが、指示するより前に動いてくれている。主人の一挙手一投足に注意を払っている証左である。おかげでタクムは司令官の仕事に専念出来るというわけだ。
「さんきゅー、相変わらず気が効くな」
「か、勘違いするな。主人を労うのは臣下の務めだ」
褒められて嬉しいのかロマンスグレーな顔立ちをやや赤らめながら返してくる。タクムはニタァ、と楽しげに嗤い、アルミの蓋を捻り開ける。ケミカル臭のする琥珀色の液体を体内に流し込む。胃の奥が広がった熱がじんわりと全身に行き渡っていった。
『ららら~♪ るるる~♪』
窓から漏れ聞こえてくるアイドルソング。ライムである。非戦闘員、後方支援部隊を勧誘するため、彼女には連日、ライブを開催するよう指示を出している。舞台設置などの費用を出してやれば簡単に応じてくれた。
この活動をアイドル復活の足がかりとしたいらしい。どこまでも貪欲というか、諦めが悪いというか、雑草魂というか。
しかも、それは他人に伝播する。
ライムにはタクムとは別の求心力があった。底抜けの明るさは人の正の感情に働きかける。戦争という極限状態にあって、彼女の存在は士気にも関わってくるだろう。
何事も深刻に考えがちなタクムも、ライムのあっけらかんとした性格には随分と助けられていた。
「何だか、やっとチームらしくなってきたな」
「ふ、そうだな」
タクムが一寝入りしようかと立ち上がった時、
『ちょ、あんた等、何なのよ!?』
ライムの悲鳴にも似た声が響いた。
「ベジーッ!」
「承知!」
二人は中腰になり、窓まで走った。
「……囲まれている」
拠点前には三輌の主力戦車、完全武装の歩兵二〇名が観客に向けて銃口を向けていた。
『俺ぁ<獅子心王>が首領クリス・ハートだ! スローター、手前ぇとサシで話がしてえ!!』
替え歌ダメなようなので修正しました。




